精霊の名前
宿舎の食堂で、ミストラルとサクヤに遭遇した俺は、これ幸いと夜中に起こった出来事を、サクヤに相談していた。
「ラルジャン様の予想通り、その子は精霊石に宿っていらっしゃる精霊です。過去の夢を見たのですよね? でしたらその子は、時を見通す精霊なのでしょう」
やっぱこの猫は精霊か。
俺の過去を勝手に見て、何がしたかったんだ。
「過去の夢を見ないようにするにはどうしたらいい?」
帝国に辿り着くまで散々だったんだ。忘れたくても忘れらんねえ。夢ならなおさら見たくねえんだよ……。
「精霊は賢い方です。ラルジャン様はその子に気に入られている様子なので、お願いしたら叶えてくださいますよ」
それを聞けてホッとしたぜ。
「魔石貝の魔石に、精霊が宿っとるとは思わなんだ。あのときは気配が薄すぎたのかのぅ」
ミストラルが翼の生えた猫を抱えて、しみじみと呟いた。
「その子とか、翼の生えた猫とかって、呼びにくくねえか……?」
「私もそう思っておりました。ラルジャン様がお名前をつけて差し上げたら、その子もお喜びになられると思います」
猫はミストラルの腕の中で、俺らを気にする様子もなく丸まってる。
精霊術師のサクヤが言ってるんだ、覚えやすくて呼びやすい、良い名前を考えてやろう。
「ミストラルとサクヤには、思いつく名前ないのか?」
っつうか、この猫、オスとメスどっちだ?
「あの、精霊には性別がありません。なので、中性的な名前がいいのかなと私は考えます」
本当かよ! どうやって増えてんだろうか……。
自然発生か、魔力か、信仰力か、それとも別の何かか!?
「金色で透けてるから、キンスケとかどうじゃ?」
「透けてるのはまだ成体ではないからです!」
「それじゃオスっぽいだろうが!」
ミストラルの提案に、俺とサクヤは同時に反対し、精霊の猫が跳び上がった。あの猫、寝てたんじゃねえのかよ。
翼も金色っぽいんだよな。目の色は……少し赤みがかってるか? 赤銅色だろう。
金色、月、翼……。
「アウルム、ルナテス、フェザン……」
しっくりこねぇ。
「全て繋げてアルフェでどうじゃ?」
「それだ!」
「いいですね!!」
意味があって覚えやすく、呼びやすい。猫もキラキラとした眼差しでミストラルを見ている。
「満場一致だな。お前の名前は今からアルフェだ。よろしくな」
◆◆◆
俺らが食堂で和やかな会話を繰り広げてたとき、不意に食堂の一角で騒ぎが起こった。
「──不届き者らが!!」
「なんだこのおっさん」
「俺らが何したってんだよ!」
「やんのかコラ」
目を細めて騒ぎの中心人物たちを確認する。
天神教の司祭服を着た中年男性に、三人の傭兵と思われる男たちが喧嘩を売っていた。
……先に喧嘩を売ったのは司祭の方か?
この食堂を利用できるのは、大会出場者とその関係者だけだぞ。
司祭が大会に出場するとは思えねえんだが。
「イオ様。落ち着いてください。ここは食堂です」
イオという司祭と傭兵たちの間に、体格のいい男が仲裁に入る。
俺と同じ人種だな。この国で、奴隷じゃねえ獣人族を見るのは初めてかもしれん。
「止めるなカイルス! あんな会話を聞いて、落ち着いていられるかっ!」
大会に出場するのはカイルスとかいうあの男か?
カイルスが仲裁に入っても、イオの怒りは収まらないらしい。
「貴方がたも、ここには色んな人種が集まっていますので、話す内容に気をつけていただきたい」
「獣人が偉そうに……」
「街の食堂に行こうぜ」
「大会では覚悟しな!」
カイルスの丁寧だが有無を言わさない忠言に、傭兵たちはしり込みし、ブツブツと文句を言いながらも、食堂を去って行く。
……獣人だと偉そうにしちゃいけねえのかよ!
騒ぎを仲裁したカイルスの方が、あんたら傭兵たちより大分常識があるぞ。
「皆さま、朝から騒ぎを起こし失礼しました。もう邪魔は入りませんので、ごゆっくりお寛ぎください」
俺ら関係ない人間にも気を遣える精神。探索者や傭兵には見えない。まさか、騎士とか言わねえよな。
「そこのお二人さん。こっちで一緒に食わねえか?」
カイルスは初戦を突破するだろう。探りを入れておくのも悪くねえ。




