首飾りと過去の夢
特訓での汗を流した後、俺に割り振られた部屋に、ハツセが訪ねてきた。
「レントさんから、貴方が私の知り合いかもしれないと聞いたのですが、本当ですか……?」
俺がハツセを部屋に迎え入れ、お互い椅子に座ると、半信半疑の表情でハツセが聞いてくる。
リダルに敬語を使われてると思うとゾワゾワするぜ……。
「俺の中ではほとんど確信してる。外見、戦闘技術、人種どれもが、馴染みと同じなんだ」
行き合ったときは、どれほど驚いたことか。
「そうなんですね……。貴方と過去の私はどんな関係だったのでしょう?」
ハツセは眉をひそめた思案顔で俺を見た。もう、リダルでいいか。
「端的に言うと、探索者仲間だな。お前の名前はリッダーレ。俺たちはリダルと呼んでいた。リダルは俺のことをラルジャンと呼んでたぞ。お前もそう呼んでくれ」
でないと鳥肌が立って仕方がねえ……。
「あぁ、だから私は戦うことができるんですね。……リダル、リダルですか。ラルジャンさん、申し訳ないのですが、全く思い出せません……」
名前だけじゃ記憶は戻んねえのか。
「お前は山道で倒れてたらしいな。自身の持ち物とか、身元に繋がりそうな物はないのか?」
一発でリダルだと分かる物があればいいんだが。
「あります! この首飾りなんですが、女性の肖像画が収められていて……。誰だか分かりますか?」
リダルは俯けていた顔を上げ、首に下げてたらしい首飾りを机に置くと、飾りの部分を開き、中身の肖像画を見せてきた。
「こりゃ……。アメリア……だな」
一瞬誰だか理解できなかったが……。
侍女服からドレスに着替えて、完璧な化粧を施したら、アメリアはこんな姿になるわけか。
よく確認すると侍女姿の面影が残ってる。
「お前はリダルだ。お前に記憶が戻ってなくても心配するな。この首飾りが証明してくれてるぜ」
俺はリダルに笑いかけた。
これで、アメリアたちにリダルの無事を報告できる。
記憶喪失の件は、あとからどうにでもなるだろう。
「アメリア……」
リダルはジッとアメリアの肖像画を凝視していて、俺の言葉は耳に入ってないようだ。
「あまり思い悩むなよ。お前の無事は俺から伝えておくから。……忘れてたぜ、アメリアはお前の夫人だぞ」
「……え??」
リダルは言葉を失い、見開いた目で俺と肖像画を交互に見返す。
「お前はこれからどうするんだ? まだレントたちと行動をともにするのか?」
グレースとアメリアに伝えるためにも、リダルの動きは把握しておきたい。
「ちょっ……と、待ってください……。頭の整理をしたいので、今日はこれで失礼させていただきます」
俺の問いには答えず、リダルは額に手をあて、首飾りを握りしめ、部屋を出て行った。
扉に頭をぶつけてったが大丈夫か?
アメリアたちに連絡するのは、リダルが平静を取り戻したらにするかなぁ。
◆◆◆
この日の夜。俺は不可思議な夢を見た。
広大な砂漠に小さな湖。湖のそばには遊牧民たちの村がある。
もう顔も覚えてない、母だったのだろう女性に手を引かれ、幼い俺は村の中を歩いていた。
夢だからか、断片的に場面が変わっていく。
母は村の踊り子か何かで、村人たちの真ん中で美しい舞を踊っている。
俺はもうこの村の場所を覚えてない。
父は物心ついた頃から、すでにいなかったはずだ。
亡くなったのか、母と俺を捨てたのかは分からない。
また場面が変わった。
村が馬賊に襲撃され、母とはぐれた俺は奴隷として、連れ攫われる。
思い出したくもない!
強くそう否定した瞬間、プツリと場面が消えた。
それでもまだ夢は続く。
帝国の騎士団に助けられ、孤児院で生活すると共に、探索者として活動している。十二歳ぐらいか。
帝国は奴隷制度を廃止したばかりだった。俺は幸運だったわけだ。
その後も場面は次々と移り変わり、今までの人生を追体験した気分になる。
……まだ、続くのか? 今度はどんな場面だよ。
狂気に染まった目で俺に襲いかかってくる、ルシオールの姿をした何者か。
その背後には不気味な微笑を浮かべた女がいる。女の背には黒翼の羽が生えていた。
この場面は過去じゃねえ。
胸元に軽い圧迫感を感じ、俺は夢から覚めた。
寝台から上半身を起こし、目元を覆う。
額は冷や汗で湿っている。最悪の気分だ。
目元から手を離し、毛布から身を出そうとしたとき、重軽い物がコロンと転がった。
「……? ……猫……??」
その物体を持ち上げて見つめる。
……猫か、これ……? 羽、生えてんぞ……??
「うっすら、透けて……るが?」
なんっだこれ……。
毛布の上に置き、軽く撫でる。
金色がかった毛並みの猫らしき生物……。
羽が生えてる時点で猫じゃねえんだが、いつこの部屋に入ってきたんだ?
無意識に撫でくり回したらしく、猫が小さく伸びをしてシュルンと俺の懐に消えた……。はあっ?!
懐を探ると精霊石が手にふれた。
俺は頭を抱える。
……もしかして、もしかする……のか?
朝一、サクヤに会いに行こう……。対処の仕方を教わらねえと。
混乱した頭を冷やすため、俺は水を飲み、ゆっくりと深呼吸した後、寝台に寝転んだ。




