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英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
亡国の王子
28/60

酒場にて

大通りから逸れた路地裏(ろじうら)にその酒場はあった。


地元の人間しか知らないような道を歩かされたせいで、物取りかと疑っちまったぜ。


混みすぎても、閑古鳥が鳴いてる訳でもない、ちょうどいい雰囲気の酒場だ。


俺たちをこの酒場まで連れてきた金髪の女性は、店の常連客なのか、酒場で飲んでる客や食事を運んでる店員に、時たま声をかけられながら、目立たない店奥の席に腰かける。


軽食と酒を店員に頼んだ彼女は、一息ついてから話し始めた。


「自己紹介が遅れたわね。私はディー、この国の王都で生まれ育った人間よ。これでも兵士を束ねる騎士の一人なの」


ディー……ねぇ? 名前の頭文字(かしらもじ)か?


騎士が城下町で助けを探してたのも謎だな。面倒事の気配が漂ってる……。


「変わった名前だな。路地裏に連れてこられて警戒したんだが……。普通の酒場で安心したぜ」


物取りだったとしても、ねじ伏せる自信はあるが。


偽名(ぎめい)なのじゃろうて」


ディーっつう名前は珍しい。名前の頭文字じゃなく、ミストラルが言うように偽名なんだろう。


名前が偽名なら、騎士だと言うのも疑わしい。


「……その身分も話半分で聞いとく事にする」


「何なのよ……。やりにくいわね!」


店員が運んできた酒を(あお)り、ディーはたれ気味の目を吊り上げて、飲み終えた酒器(しゅき)を机にドンとおいた。


俺も飲む素振(そぶ)りをしながら、口を開く。


「で、天神族の居場所はどこだ?」


これが本題なんだ。場所が分からねえことには動きようがない。


ディーは机に(ひじ)をつき、両手で額をおさえて、地を這うような低い声で話し始める。


「……国王の(そば)で奴隷として(つか)えてるわ。可哀想なことに! 隷属(れいぞく)の首輪のせいで逆らうどころか、意思があるのかも定かじゃないわね」


思い出すのも苦痛だとディーの表情は物語っていた。


天神族が奴隷になってんのが、気に入らねえみたいだな。


「浮島に逃げれる天神族が、なんでそんな事になってんだ?」


空高く飛んでしまえば、人間に()らわれることも無かっただろうに。


それとも、クリスタニア王国には天神族を捕らえる技術があるとでも?


「知らないわよ。だけど三年前くらいに、ある国を征服した時、捕虜として連れてこられてたのは知ってるの」


ディーがたれ目なせいで、今にも泣き出しそうに見える。


本当に悲しいのか、たれ目だからそう見えるのか、分かんねえ。


「ディーはそん時の戦闘には参加してなかったのか?」


たぶん参加してなかったんだろうなぁ。天神族が捕虜になった理由も知らねえみてえだし。


やっぱり、騎士っつうのは(いつわ)りか?


「騎士と言っても私は、王女様の護衛騎士なのよ。部下の兵士と一緒に王女様を護衛しているの」


王族の側近か。しかも王女。戦場に行くわけがねえ。


「なるほどな。それで、その天神族は男女のどっちだ? 名前は?」


天神族の居場所は分かった。あとは性別や名前、できれば外見も知れれば、司祭からの依頼は達成したも同然だ。


「質問多くない?! ……女性よ。名前はティアーリカ様。『歌唱(かしょう)』の力を持っていて、国王がそれを利用してるのよ」


自分でも質問の多さは自覚してる。ディーが文句を垂れるのも分からなくはない。


……でも教えてくれるんだよな。いろんな奴に利用されてそうな女だぜ。


「それはどんな能力なんだ……?」


天神族の能力は人によって違いすぎる。ビリカにしても、クルムにしても。便宜上(べんぎじょう)の能力名じゃ、効果が想像できねえ。


「なんて言えばいいのかしら。彼女が歌う曲によって、効果が変わるみたいなの。今は国王の病を癒す曲と、戦場で味方を鼓舞する曲を歌わされていることが多いわ。歌うたびに弱ってるみたいだから私は心配」


クルムの天啓(てんけい)みたいな能力だな。それよか効果は大きそうだが。


「弱ってるってなぜ分かる」


やつれた外見でもしてんのか? 助け出す前に死なれたら寝覚めがわりぃ。


「翼の枚数が減ってるからよ。天神族の強さは翼の多さで分かるんでしょ?」


……俺に聞かれても困るんだが。


「それは初耳だ」


ビリカとクルムはそんな話、俺にしなかったからな。


あの二人の翼は一対だから、そこまで強くないのか。


「知らない人もいるのね。まあそういう事だから、彼女はとても弱ってるの。……で私が知ってる情報は全て話したわ。今度は私の願いを聞く番よね!?」


ディーは対面に座ってる俺の方にグイッと上半身を傾け、ランランとした目で、勢いよくそう言った。


◆◆◆


正確な情報じゃねえかもだが、聞いたことは全て答えてくれたからなぁ……。


「……とりあえず話してみろ」


酒のつまみのチーズを()いながら、目でディーに問いかける。


「もっと真剣に聞いてくれない?!」


「聞いてるから大丈夫だ」


耳は良い方だぞ。他の客たちの会話も聞こえるくらいだからな。


「本当かしらね! 私の願い事は、貴方が比武大会で優勝して、優勝商品を助け出すことよ」


疑い深い女だ。比武大会だと? レントが参加する予定の大会じゃねえか。


「……優勝商品を助ける……?」


言ってる意味が分からねえ。商品は普通品物だろ。それを助けろと?


「今年の優勝商品は何を血迷ったのか、この国の第二王女様なのよ! 有り得ないでしょ!?」


人かよ……。この国の王は非道(ひどう)だな。ディーが憤慨(ふんがい)するのも分かるぜ。


自身の娘すら物扱いか。人を奴隷として利用してることからも、良い王とはとても言えねぇ……。


「その王女がディーの主人か?」


助けて欲しいっつうことは、そういう事だろ?


俺が酒器を傾けながら聞くと、ディーは首を横に振る。


「違うけど、優しい王女様なの。友達なのよ」


騎士と友達の王女様とか。ロプトル帝国の幼い皇女を思い出すなぁ。今は何歳くらいだ? そろそろ社交界デビューする頃か?


「それじゃ、ディーの主人は誰なんだ」


「……第一王女様」


言いづらそうに目を泳がせながらディーはボソリと(つぶや)いた。


身近に権力者がいるじゃねえか。


「主人に助けを求めた方が早いぜ」


俺はこの国じゃ単なる探索者にすぎない。


助けを求める相手を間違えてる。


「それが無理だから困ってるんじゃない! 国王は第一王女様を疎ましく思ってる。話をまともに聞くわけがない……」


……分かったから声を張り上げるなよ……。


第一王女には国王に意見する権力が無く、他に第二王女を手助けする勢力も無い訳だ。


だから城下町の一般人から、めぼしい人物を見つけないと駄目だったのか。


「それで俺に目をつけた……と」


傭兵も探索者も他に沢山いただろうに、なんで俺なんだ? ディーの野生の勘か何かか?


「そういう事。だからお願い! 比武大会で優勝して第二王女様、アイーシャ・クリスタニアを解放してあげて」


大会で優勝したら国王にも面会できそうだな。


参加してもいいが、第二王女は優勝商品なんだろ? 俺がその大会で優勝したら、王女は俺と結婚させられるだけなんじゃねえのか。どうやって解放すんだよ。


「もし、俺がその依頼を受けたとしたら、王女は俺に下賜(かし)されることになるだろ。俺は王女と結婚する気は微塵(みじん)もないが?」


ディーは手を振り、口元に笑みを浮かべる。


「後のことは心配しないで。私に考えがあるから。貴方は彼女のことを助けてくれるだけでいいのよ」


王女と結婚する必要はねえってことだな。それに王女を助ければ、王族とのツテができそうだ。


ティアーリカっつう天神族を助ける近道にもなるだろう。


懸念はレントだが、やるだけやってみっか。


「比武大会に参加しよう」


「えっ……!? 受けてくれるの?」


半分諦めてたのか、急に明るい表情になるディー。


「俺にとっても利がありそうだからな」


レントとの優勝争いは骨が折れそうだが、久しぶりに全力で他人と戦えそうで、気分が高揚(こうよう)してきた。


「……そう。一応お礼は言っておくわ。ありがとう」


ディーと通信魔石で連絡先を交換し、酒場をあとにする。


大会の日までに、対人戦の感覚を取り戻さねえとな。

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