クリスタニア王国
クリスタニア王国の国境を超えた辺りから、ポツポツと活気のある村が出てきた。
国外の村や町を襲い、略奪した物で生活を成り立たせてるんだろう。
国で賄うことができない食料や、重労働をおこなう奴隷とかな。
国外での戦闘に使われる兵士は、奴隷が中心になってんだと想像できる。
そんなやり方じゃ、いつか国が破綻するだろうよ。
……獣人族の奴隷も多い……虫唾が走るぜ。
比武大会が近いせいか、武装した傭兵や探索者、旅人も目立ってきた。
「見るに堪えないよね……」
虐げられてる奴隷を見かけるたび、レントは眉をしかめ視線を逸らす。
「だがレントも比武大会に参加して、この国の兵士か騎士になる気じゃねえか」
兵士になれば、略奪行為をして奴隷を増やす側になるんだぞ。
矛盾してるぜ。
「それは! 私にも目的があるんだ。大切な目的が……」
普段声を荒げることのないレントが、バッと俺の方を見て声を張り上げた。
その後、ハッとした様子で言葉が尻すぼみになる。
逆鱗に触れちまったらしい。
「すまん、気に障ったなら謝る」
今は一緒に行動してるが、元は赤の他人だ。
レントにはレントの事情がある。深入りするもんじゃねえな。
「いや、いいんだ。興奮してすまない。もうすぐ王都に着くよ」
らしくない暗い雰囲気で、レントが前方を指さした。
「王都の場所を知ってんだな」
来たことがあるのか?
「……まあね。着いたらしばらくお別れだ。お互い目的を果たせるよう頑張ろう!」
何かを吹っ切るように、レントは一度深呼吸した後、明るい声音で俺にそう言った。
「ああ。比武大会応援してるぜ」
激励を返すと、レントがニコリと笑いながら、脇差をポンと叩いてみせる。
「ありがとう! 必ず優勝してみせるよ」
普段の調子が戻ったみたいだな。
◆◆◆
クリスタニア王国、王都の都門で、俺たちは思わぬ足止めを食らった。
「顔を隠している人を通すことはできません」
都門の兵士に、ミストラルとサクヤが見咎められちまったんだ。
「なんじゃと……?」
「困りました……」
ミストラルは首を傾げ、サクヤは俯く。
ミストラルの外見は人間離れしてる。見慣れていない人間に見せるのは危険だ。
「こいつの顔を見たら失神するぜ」
その後、寝ても覚めてもこいつの顔が頭から離れなくなることだろうよ。
「サクヤ嬢は目が不自由なんだ。見逃してくれないかい?」
レントの方も、サクヤの事情を兵士に説明している。
……目が不自由? 精霊を視ることはできるのに? 方便か。
「失礼じゃな! わらわの顔は捨てたものではないぞ?」
「ミストラルは少し黙ってろ」
仮面を外そうとするミストラルを慌てて止める。お前は良くても、兵士が無事じゃ済まねえだろうが!
「すみません。私の目は日の光に弱いのです」
サクヤが胸の前で手を組み、切々と訴える。
「……分かった! それなら仕方がないな。その分金で払って貰うぞ」
俺たち四人の煩さに辟易した様子で、都門の兵士はレントから金を受け取り、早く行けと言いたげな仕草で、俺たちを王都に通した。
「無事に通れて良かったね! それじゃ、また今度会おう」
「またな。ハツセが着いたら通信魔石で知らせてくれ」
「了解だよ」
レントとサクヤは比武大会の会場がある方に向かい、俺とミストラルは、寝床を確保するため、宿屋がありそうな方に歩き始めた。
また会うことが決まってるから、あっさりした別れだ。
◆◆◆
それにしても、この国は本当に奴隷が多い。
俺と同じ人種の奴隷を度々見かけ、苛立ちが募る。
獣人族は砂漠で生きる遊牧民族なんだよ! 自由を愛する者が多いんだ。
砂漠からこの国がどれだけ離れてると思う? 大陸中央の山岳地帯の東側、ロプトル帝国のもっと東南にあるんだぞ!
砂漠から馬賊に攫われたとしても、こんな大陸の西側に連れてこられる事なんて、そうそう無いはずなんだ! そんな人種が───
ドンッと体に少しの衝撃が走る。
「……いったあぁぁい!」
「げ……すまない。大丈夫か?」
奴隷に気を取られ過ぎてたぜ。
地面にしゃがみ込んでいる女性。
この女にぶつかったんだな。
「骨が折れたかも」
そんなに強く当たったか……?
胡乱げに地面で座り込んだ女性を見る。
「動けないのか?」
「転んだ拍子に足を捻ったみたい……助けて欲しいんだけど」
女性は足をさすりながら、上目遣いでそう言い、俺に手を伸ばす。
「……しゃあねえなぁ。手を貸しな」
その手を取って助け起こすと
「話し方が乱暴ね。貴方傭兵? それとも探索者なの?」
俺の肩に寄りかかり、身元を探ってきた。
足の痛みはどうした? 痛くないのか?
「お主、今わざとラルジャンにぶつかったのであろう。何が目的なのじゃ?」
俺が口を開く前に、ミストラルが俺から女性を引き離しながら問い質す。
「……なぜ分かったの?」
「物陰から通りの人を物色してたからじゃぞ」
「もう! 貴女のせいで台無しじゃない!」
女性は足取りも軽く、俺たちから少し離れ、服の汚れを払い落とした。
足、捻ってなんかいねぇじゃないかよ!
「当たり屋か?」
「似たようなものじゃろ」
「失礼ね。ま、慰謝料として、お願い事をしようとしてたのは確かだけど」
迷惑な女だな!
「これじゃ、私の願い事なんて到底手伝って貰えないかな?」
哀愁を漂わせて言う女性。
やって欲しいことがあるなら、探索者協会に依頼を出せばいいものを。
「俺は探索者だ。協会に依頼するっつうんなら受けてやってもいい。俺が求めてる情報を、お前が持ってんならだけどな」
今はユリエールで司祭の依頼を受けたから無理だが、その後なら手も空く。
「……何の情報? あと私、協会に依頼をする気はないの。個人的に受けて欲しいんだけど。報酬は弾むわ」
女性は長い金髪を耳にかけて、俺の目を見て言った。
聞くだけ聞いてみるか。
「この国で利用されてる天神族の居場所についてだ。知ってるか?」
「……っ、え!? し、知ってるけど、なんでその情報が欲しいの……?」
俺の言葉を聞いた途端、目を見開いて、震える声で女性が問う。
そんなに動揺することか?
「興味本位だ」
受けてる依頼内容を正直に伝える必要はねえだろ。
「……そんな理由じゃ教えられない。もっと切実な理由じゃないと」
一瞬押し黙った女性は、首を横に振り俺を睨みつける。
「ならいい。その代わりお前の依頼も受けねえ」
もう用は無い。
俺はミストラルを連れてその場を去ろうと歩き出す。
「それは困る! ……教えてあげるわ。教えたら私の依頼も受けてくれるのよね!?」
すると、女性の焦り声とともに、背後から服を掴まれる。
俺は眉根をよせて立ち止まり、後ろを振り向いた。
「依頼の内容による」
無理難題を言われても困るからな。
「わがままじゃない?!」
うるせぇ……。
耳を塞ぐ。
「大通りで言い合うより、わらわは酒場か宿屋で話すのをおすすめするのじゃ。お主ら目立っておるぞ」
俺と目の前の女性は、ミストラルの言葉で我に返った。
俺たちの周りには軽く人集りができている。
……いつの間に。
「私がよく行く酒場があるの。そこに行きましょ」
俺とミストラルは女性の提案に従うことにした。




