道中での会話
俺たちは今、寂れた村の中で、元は宿屋だったのだろう建物を拝借し、旅の疲れを癒しているところだ。
レントと同じ部屋で休むことになった俺は、ハツセの情報を得るため、雑談を仕掛けることにした。
「レントたちはいつから一緒に旅してんだ?」
寝台の埃を払い除けていたレントが、その手を止めて少しだけ沈黙し、俺の方を向いたあと、複雑な表情で話し始める。
「そうだなぁ、ノアとサクヤ嬢の二人とは昔からの知り合いで、旅に出たのは私が十五歳の頃、つまり三年前くらいからだね。ハツセは最近、山道で倒れていたのを見つけて、その時から一緒に旅をしている」
ハツセだけはレントの昔からの知人じゃねえってことだな。
リダルがルシオールの命令で秘密裏に動いてんのか?
それならグレースでさえ、リダルの行方を知らないのはおかしい。
やっぱ別人か……?
もうちょい探ってみねぇと。
「どこの山道でハツセを? なぜ倒れてたのか知ってるか?」
俺はガタついた窓を開けて、部屋の空気を入れ替えながら、レントをさりげなく観察する。
今度は濡れたタオルで床を拭き始めたレント。
綺麗好きなんだな。
掃除する手を止めること無く、レントは顔だけを俺の方に向けて話し出す。
「ハツセに興味津々だね! 倒れていた理由は分からないんだ。彼には記憶がないから。見つけた場所はこの大陸の中央、天神教国がある山岳地帯の西側、こちら側の山道でだよ」
嘘ついてる様子はねぇ。
「記憶が無い……。倒れる前の人生を覚えてねえのか!」
リダルに俺の記憶が無いなら、あの対応にも納得できる。
「そうだね。彼の名前は私が考えたのだけれど……ハツセと知り合いだったりするのかな?」
ハツセっつう名前も、あいつ本来のものじゃねえんだな。
あの男はリダルなんだろう。確実な証拠でもあれば、グレースとアメリアに報告できるんだが。
「可能性は高い。以前の仲間と瓜二つなんだ。クリスタニア王国に着いたらもう一度会わせてくれ」
気がかりなのは、ルシオールだな。最側近のリダルがこんな場所にいるのに、あいつからは何の連絡もないぞ。
ロプトル帝国……大丈夫か?
「ハツセの記憶が戻るのはいいことだ! 彼が私たちと合流したら連絡するよ」
床掃除を終えたレントは、汚れたタオルを水で洗い、ある程度綺麗になった部屋を見回し、一つ頷いた。
とりあえずは満足したらしい。
「ありがとな」
推定でリダルだろうあの男の記憶を取り戻す方法、何かあればいいが……。
◆◆◆
翌日、宿屋の外で偶然サクヤと行き合った。
「ミストラル様との契約者さん」
ミストラルとサクヤは昨日同じ部屋を使ってたから、そん時にでも仲良くなったのか。
契約者って呼ぶっつうことは、俺とミストラルが竜結の儀をしたのも知ってんだな。
「……精霊術師には何でもお見通し……か」
両目は布で覆われてるのに、不思議なもんだぜ。
「人によります。私は他の人より視る力が強いのです」
精霊術師になるには、精霊を視る力が必要なんだろう。
「目を隠してるのもその関係か? 視える奴とそうじゃねえ奴がいるのが精霊っつう存在なんだろ? 俺は視たことがない」
だから、精霊について学ぶ必要性を感じなかったんだよなぁ。
「……それもありますね。精霊はここにいるけれど、ここにはいない隣人です。世界が少しだけズレていると言えばいいのでしょうか。私のように精霊術師である人は、ズレているのを重ね合わせることで、精霊から力を借りているのです」
専門家の言葉はどうしていつもこうなんだ?
難解すぎて理解が追いつかねぇんだよ。
「……初心者にも分かりやすい表現を求める……」
サクヤは首を傾げたあとポンと手を打った。
「精霊界からこちらにお招きしています」
友人を家に招く感じか。
急に分かりやすい例えがでたな。
「理解した。そんで、時間がある時でいいんだが、この魔石について詳しく教えてくれねえか? ある少年に精霊石だって言われたんだけどなぁ、精霊については門外漢なんだわ」
懐から精霊石を取り出してサクヤに見せる。
「……通りで、契約者さんから精霊の気配を感じると思っていました。現世にいらっしゃる精霊はとても珍しいのです。この方はまだ誕生されたばかりなのですね、お可愛らしい。もう少し成長されれば、契約者さんにもこのお姿が視えますよ」
サクヤは精霊石に顔を近づけ、頬を緩ませた。
どんな姿が視えているのか、精霊石を愛でるように撫でている。
つうか、ミストラルの契約者って呼ばれてると、自分じゃねえみたいだぜ。
「すまん、契約者って呼ばれんのは違和感が半端ねえ。名前で呼んでくれ」
「あら、気づかなくて申し訳ありません! ラルジャン様。改めてよろしくお願いします」
精霊石から顔を離し、口元を手で覆い、恥ずかしげにお辞儀をしたサクヤ。
そこまで畏まられても困るんだがな。
「おう、よろしく。そんで、この魔石は精霊石っつう物で間違いなく、もうすぐ中にいる精霊が俺にも視えるようになるってことか」
視えるようになれば、もちろん会話も可能になるんだろう。
いつ成長するのか楽しみだ。
「そうです。現世の物に宿られている精霊であれば、どなたであってもそのお姿を視ることができるのです」
物に宿ってる精霊……か。
どんな物にも宿るんだったら面白いんだが。
「なるほど。精霊石があるっつうことは、精霊剣や精霊弓とか、いろんな物がありそうだな」
「はい。とても珍しい物なので、国や持ち主に秘匿されていることが多いのです」
ミストラルの仮面にも精霊が宿ってたりしてな。いや、精霊の姿は視てねえから、精霊術師の産物なのかもしれねえ。




