絹花の街ユリエール[完]
俺の意識は子どもの声、セタ坊とソワ嬢の小さな騒ぎ声で、徐々に覚醒した。
シホウの家か……?
「いつ起きる?」
「……大丈夫かな?」
「起きなかったらどおしよ」
「そんなのやだよ」
俺の顔を覗きながら、ヒソヒソと言葉を交わしていた二人。
「セタ坊、ソワ嬢。起きたから泣きそうになるのはやめてくれ」
声をかけると、目を潤ませて俺に飛びついてきた。
とりあえず二人の頭を撫でておく。
「起きた!」
「よかったよぅ」
「お姉ちゃんは起きないの」
「ずっとずっと寝てるみたい」
俺はどのくらい気絶してたんだ? セタ坊とソワ嬢の様子を見る限り、決して短くはないんだろう。
ミストラルはまだ寝込んでるのか。
「それは心配だな。俺が様子を確認してくるから、二人は親の元に戻ってな。起こしてくれてありがとよ」
寝台から抜け出し、二人が部屋から出るのを見送る。
「分かった」
「お兄ちゃんが元気になって嬉しい」
素直でいい子たちだよな。さて、ミストラルを見に行くか。
◆◆◆
部屋から出た途端、クルムとビリカに遭遇した。
ちょうどいい。今の状況がどうなってるのか聞くとしよう。
「あんた! 目が覚めたのね!」
「……安心しました」
俺の思考を読んだかのごとく、クルムが俺とビリカをもう一度部屋の中へと促し、ひと息ついたかと思うと、矢継ぎ早に話し始めた。
「ラルジャンさんが気絶してから大変だったんですよ。僕だけじゃ貴方を運べなかったので、一旦街まで戻って探索者に助けを求めたんですから! 事後処理を手伝わされたり、頑張ったんですからね。ちなみに、貴方が寝込んでから丸一日以上経ってます。褒めてください」
クルムは身振り手振りを交えて訴えてくる。
「偉かったな。それで、遺跡の核はなんで街中にあったんだ?」
的確な説明ありがとよ。要求通り、心を込めて褒めておく。
遺跡の核が、ちゃんと遺跡の本体にあれば、あんな苦戦を強いられはしなかったはずだ。
俺の質問に対し、口を開いたのはビリカだった。
「ここからは私が説明するわよ! 遺跡の核はなんと、祭りで捧げ物になっていた魔石だったの! 採掘師のシュルツっていう男がね、珍しい魔石だと思って街長に献上したらしいのよ。それが豊穣祭っていう天神族に祈りを捧げる儀式を受けて、信仰力が充ち満ちて暴走? みたいな」
興奮気味に話すビリカ。
「不可抗力だったわけか」
偶然の積み重ねで起きた騒動だったんだな。
「そう、そうなの! それでね、ミストラルが何かしたら、急に遺跡の核から光が消えて、街の植物の成長も止まったのよ。……あ! だけどそれからミストラルの声が聞こえなくなって、今もまだ眠りについてるからどうしよう?」
そうだミストラル。あいつはなんで目覚めねえんだ?
◆◆◆
俺たち三人は、ミストラルが寝ている部屋にやってきた。
依然として起きる様子のないミストラル。
額に手をあてる。やっぱり熱はねえなぁ。
仁術師を呼んでみるか?
ミストラルは遺跡の核を止める為に何かをした。
遺跡の核は、魔力を込めた攻撃で破壊できる。
核は破壊することで、俺たちが使える宝に変化するんだよな。
魔力枯渇……? ドラゴンに限ってそんなことねえか。
俺は知らず知らずのうちに、ミストラルの顔を覗き込んでいたようだ。
パチッと目を見開いたミストラルに、ガッと肩を掴まれ、抵抗する間もなく。
突然唇を奪われた……だと!?
「……っ!? は……?? ……ちょ」
待て? やめろ! 何だこれは、どんな状況だ!!
みるみるうちに体内の魔力が減っていくのを感じる。
待て待て! ふざけるなよ……、また魔力の枯渇で気絶だなんて無様な真似はしたくねえ!
ミストラルをバッと力ずくで引き剥がし、事なきを得たと安堵した瞬間、今度は首筋を噛まれ、見事に二度目の気絶を果たすことになった。
◆◆◆
俺の魔力を吸い取ることで、綺麗さっぱり元気になったミストラル。
逆にそのせいで滾々と眠りについていた俺は、いつの間にか成長していた浮島に連れてこられていた。
シホウの家族に挨拶もできなかったのが悔やまれるぜ。
落ち着いたらもう一度ユリエールに顔を出そう。




