絹花の街ユリエール⑤
鉱山は遺跡に姿を変えたが、採掘師達が使っていた通路はそのまま残っていた。
豊穣祭のおかげで、採掘師が鉱山にいなかったのは不幸中の幸いか。
坑道には主に植物系の魔物や、鉱物系の魔物がまばらにいるが、襲ってくる気配はない。
「できたばかりの遺跡だからだと思うか?」
《どうでしょう。遺跡の魔物は生前の主に似た行動をとることがあります。ここの主、遺跡の核は穏やかな天神族だったのかもしれません》
それじゃ、今まで攻略してきた遺跡の天神族は、みんな好戦的だったのかよ。
襲ってこない遺跡の魔物はいなかったぞ。
やけに詳しいクルムの言動。天神族だから当然なのかね?
「わかれ道だぜ。下りは元の坑道だろうが、核がいるのは上りの方か?」
《そうだと思います。新しくできた道の奥が、遺跡の最深部でしょうから》
俺は一つ頷き、上り道に入っていく。
曲がりくねった道を進むうちに、通路の壁が土壁から木の洞らしき壁に変わり、とうとう突き当たりに到着した。
ここが最深部ですというような、装飾が施された扉がある。
「中がどうなってるか分からねえから、気をつけろよ? 隠形してるからって攻撃を受けない訳じゃねえからな」
《はい。ラルジャンさんも気をつけてくださいね。必要なら天啓を行使するので遠慮なく言ってください》
扉を開けて中に入る。
ここは山頂か! 樹頭で半ば隠れているが、葉の隙間から空が見えている。
目の前には開けた空間。障害物がない代わりに隠れる場所もねえな!
そして、広場の中央には歪な人の形をした石像。胸元にあるはずの核は、植物のツタに覆われ、確認不可能。石像のところどころに魔石が埋まっているのが分かる。魔法を放ってくるか? 面倒だな。
ミストラル曰く天神族の亡骸、遺跡の主が俺を認識したのか、ゆっくりと動き出した。
◆◆◆
石像の動きは鈍い。
先手必勝とばかりに植物のツタに斬撃を放つ。
胸元の核を破壊できれば一石二鳥!
「チッ!」浅かったか? ツタに攻撃は通るが、直ぐに新しいツタが石像の胸元を覆う。
ーーシュンッーー!
鋭い魔法攻撃が、俺の頬をかすめる。砂礫魔法か!
頬からポタリと血が滴り落ちた。
カッと頭に血が上る。やってくれんじゃねーか!
《またきます! 避けてください!》
「はいよっ! お前こそ気をつけろ」
《僕のことはご心配なく。樹頭に隠れてますので。ついでに『彼に癒しを』怪我がない方が楽でしょう?》
そうかよ! ちゃっかりしてんなあっ! 天啓か。傷が治ったのは素直にありがたい。
さて、ツタがダメなら魔石、狙ってみっか。
◆◆◆
石像はどの部位を攻撃しても、回復してしまい、埒が明かなかった。
何か見落としてるのか?
クルムが力を貸してくれてるとはいえ厳しい。一時撤退すべきだな。
退却の合図をだそうとした瞬間、ボワッと脳裏に声が響いた。
『すまぬラルジャン! 遺跡の核は街中じゃ。わらわが力の供給を絶つ! 存分にやるがよい!』
この奇妙な反響。脳が揺れる感じが慣れねえ!
もうちょいどうにかなんねえのかミストラル……。
だが、こいつが回復し続ける原因は分かったぜ。
土で汚れた頬を拭い、目前の敵を威圧する。
瞬身。斬撃を一閃。
敵の魔法を躱し、肉薄。
続けざまに一撃を叩き込む。
回復しなくなった石像を倒すのは、容易だった。
倒した石像は灰となって消え、遺跡化していたこの土地も、元の鉱山に戻り始める。
巨木の根から生えた小さな木の芽だけが、消えずに残り続け、俺は首をかしげた。
隠形が解けたクルムが、俺の隣に降り立ち、興奮気味に口を開く。
「浮島の種だ……。これは凄いですよ! 僕たちだけの家ができたのと同じことですから! あの方は余程高位の天神族だったのですね……」
「木の芽がか?」
頭痛で目が霞む。魔人族ならこんな失態はありえねぇっつうのに。
「信仰力で育つんです。成長したら僕たちの拠点にできますよ!」
「……ならこの芽はクルムに任せる」
思い切り魔力を使い過ぎたぜ。
「本当ですか!? 頑張って育てますね! って、ちょっと、ラルジャンさん? 大丈夫で───?」
この感覚は久しぶりだな。魔力こかつ……
俺はその場で意識を手放した。




