絹花の街ユリエール④
外に出ると、植物がみるみるうちに成長していく光景が広がっていた。
どうなってんだ! ミストラルが慌ててたのはこれのせいか?
広場で歌い踊っていた人々も、この光景に唖然としているようだ。
少女像に奉納された物が、光り輝き宙に浮かんでいるのが目に映る。
浮遊魔法か……? いやいや、宙に浮かせる必要はねえだろ!
「ラルジャンさん! あの魔石! 勝手に浮かんで!」
興奮した声が近くから聞こえた。この間知り合った魔石宝飾店の少年だ。
「ヴァイゼか。悪い、探索者協会に急いでんだ」
ユリエールの街では魔石を奉納するんだな。魔石や絹織物で発展した街だからか?
あれが浮いてるのは、ヴァイゼから見ても不自然なことらしい。気になるが悠長に考えてる暇はねえ。
「それは引き止めてすみません! あのですね、ラルジャンさんから預かってる魔石、精霊石だと思います! そろそろ意識が芽生えるかも。とおっても珍しい物だから本当はもっと研究したいんですが、お返ししておきます! 貴重な魔石、見せてくれてありがとうございました!」
早口でまくし立てたあと、ヴァイゼは壊れ物を扱うがごとく魔石を俺の手にそっと渡してくる。
「……精霊?」
魔石であることには変わりねえのか? それとも全くの別物か。精霊っつうと、精霊術師の領分だな。あの時もっと勉強しときゃ良かったぜ。
「何あれ!!」
「山が……」
「……光ってる」
ルシオール達と探索していた頃を思い出し、歯噛みしていると、周囲のざわめきが増した。
人々が指し示してる方角を見て、知らずミストラルの言葉を思い出す。あれが『遺跡化』なのか……。
鉱山が色鮮やかに光りながら、巨大な樹木の塔へと姿を変えていく。
樹木の根が山を覆い、山頂だった部分は葉が生い茂る樹頭へと様変わりした。光ってるから葉じゃねえかもしれないが。
果樹園の木に似ていると、のんきに考えてしまう。そんな平和なものなら大歓迎なんだがなぁ! 生憎あれは遺跡だ。早く核を見つけて攻略するか。
◆◆◆
探索者協会の手前に着いたとき、背後から耳慣れた声が聞こえてきた。後ろを振り返ると
「ラルジャンさん! ここに居たんですね」
「あんた! どこ探しても居ないから心配したじゃない!」
祭りを楽しんでいたはずの二人が、不安げな表情と忙しない動作で、俺に向かって駆け寄ってくるのが見えた。
街の異様な雰囲気と、鉱山の変化で異変を察知したんだな。
「クルムとビリカじゃねえか。ちょうどいい。聞きたいんだが、ビリカの洗脳は人を落ち着かせるとか、助ける事とかもできんのか?」
常にない出来事で冷静さを失ってる人が多い。混乱を収めることができたらいいんだが。
「急になに? まあいいわ。今の私は無敵なの! そんなこと楽勝よ!」
清々しいほどの威勢のよさだな。
俺はなるべく柔らかい声を意識し、ビリカの目線に合わせて口を開く。
「そりゃ良かった。混乱してる街の人達を落ち着かせて、避難させてくれると嬉しいんだが、できるか?」
自尊心が高いであろうビリカのことだ、快諾してくれると半ば確信を持って聞いた。
「任せなさい!」
案の定、ビリカは元気に返事をして、広場に駆け戻って行く。
「……ラルジャンさん、ビリカの扱い方が見事ですね」
その様子を見ていたクルムが、なんとも言えない複雑な表情で俺を見るもんだから、少し良心が痛んだ。
「気に障ったならすまん」
「いえ、感心してるだけです。僕もできる事があればお手伝いしますよ」
人手は多いに越したことはない。クルムが自ら協力してくれるってんだ、断わる理由はねえ。
「クルムも今は万全の状態だよな?」
「はい。今ならラルジャンさんみたいに、天神族を信仰してない人にも、天啓を与えられます! 効果は落ちますけど……」
結構なことじゃないか。これなら余程のことがない限り、遺跡の攻略に支障は出なそうだ。
「前線で戦えたりは?」
細身だが一応尋ねる。実力を隠してる可能性があるからなぁ。事前に知っておきたい。
「それはちょっと、僕は後方支援の方が向いてると思ってます」
見た目通りだったか。天神族は謎に包まれた種族だ。変に考えすぎちまったぜ。
「……隠形の魔石をやるから、ついてきてくれるか? もしもの場合、遺跡から離脱して街に様子を伝える役目を担ってくれ」
隠形で姿を隠してれば、怪我することもないだろ。
「僕に魔力は無いんですけど!?」
クルムに魔石を投げ渡す寸前でとまる。天神族は信仰力で能力を使ってるんだったか? つくづく不思議な種族だな。
「俺が事前に発動させるに決まってるだろ」
何食わぬ顔で魔石に魔力を込め、クルムに魔石を手渡すと、周りの風景にサァーッとクルムの姿が溶け込んだ。
「今知ったって顔してますよ。……ありがたく使わせていただきます」
小さなため息とともに聞こえた呆れ声。俺は聞こえない振りをした。
◆◆◆
姿を隠したクルムを伴い探索者協会に入ると、俺は掲示板にデカデカと貼られた依頼を手に取り、足早に受付へと向かう。
「緊急依頼、鉱山調査、適正階級不明。この依頼を受ける」
「できるか?」
今日はさすがに真面目な様子の厳つい受付の男。心なしか険しかった表情を緩め、聞いてくる。
「任せてくれ。報酬は本当にこの内容でいいのか?」
難易度不明の遺跡だ、このくらいの報酬が適切かもな。一介の探索者に提示するには破格だとも思うが。
「ああ! この街自慢の絹織物と金一封だ。依頼達成の暁には遠慮なく受け取ってくれ。街長の誠意だからな」
「了解」
無理のない範囲なら貰っておくか。
「……無茶はするなよ」
協会内にある転移門の部屋に移動しながら、受付の男と会話する。
「分かってるさ」
「武運を祈る」
「はいよ」
男からの激励を受けながら転移門の部屋に入り、俺とクルムは鉱山入口に転移した。




