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英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
拠点確保
17/60

絹花の街ユリエール②

豊穣祭(ほうじょうさい)?」


座敷に戻った俺は、セタ坊とソワ嬢の相手をしながら、シホウと飲んでいた。


「ええ。豊穣の御使いさまに、感謝を捧げる祭りですよ。ラルジャンさんたちも、是非参加してください。いい祭りですから」


ソワ嬢が「キラキラしてる」と俺の耳に付いている魔石に手を伸ばす。


魔石に触れる前にシホウがソワ嬢を抱えた。


「何にでも興味を持つ時期のようで」


眉を八の字にして困り顔のシホウ。ソワ嬢の興味はすでに魔石から逸れ、何も無い空間を掴んでは、きゃらきゃらとご機嫌だ。


「そうみたいだな。豊穣の御使いっつうのは?」


俺の膝の上で寝ているセタ坊。先程までずっと、俺の冒険話をせがんで、満足したら寝ちまった。子どもは自由でいいもんだな。


「ユリエールを見守っていると言われている、御使いさまのことです。我々が勝手にそう呼んでいるだけなのですがね。魔石や絹花が豊富に採れるのは、その御使いさまのおかげだと、信じられているのです」


シホウは「ありがたいことで」と少女像に祈りを捧げる。


天神教には敬虔な信徒が多いんだよな。だが、ここまで頻繁に祈りを捧げるのは、教会の司祭たちぐらいだと思ってたぜ。


「そりゃ、良いことだな。ミストラルも寝込んじまったし、(わり)ぃがしばらく世話になるぜ」


俺は耳に付けてる魔石に触れた。


リダルの行方を探したいのは山々だが、ミストラルを置いて行くわけにもいかねえ。……グレースから通信魔石も受け取ってるし、まずいときは連絡くるだろ。


「もちろんですとも。旅の疲れですかね。仁術師(じんじゅつし)を手配いたしましょうか?」


さすが商人。気配りが上手いぜ。


「いや、必要になったら俺が呼ぶ。ありがとな」


ミストラルが人間種だったら呼んで貰うとこだが、あいにく人じゃないんでね。仁術師といえど、対処できねえだろう。


◆◆◆


翌日。庭で鍛練をしていると、ビリカとクルムが俺のもとにやってきた。


「ラルジャンさん。僕たち、天神教会に行ってこようと思うんですが、いいですか?」


「期待して待ってなさい!」


そういや遠目に教会があったな。信仰力を補充するのにうってつけって訳か。シホウの祈りじゃ足りねえのか……?


「もちろんだが、気をつけて行けよ。ビリカ、ミストラルの様子はどうだ?」


まだ具合が悪いようであれば、原因を探さねえとだな。


「私のことは無視!? ……眠ってるわよ」


眠ってんならそっとしておくか。ビリカが俺の体を揺すってくる。分かった分かった。


「期待してるぜ。起きるまで様子見だな」


ビリカの手を掴み、(うわ)の空で答える。


「もっと誠意を込めなさいよ!」


文句を垂れるビリカ。わがままな嬢ちゃんだぜ。


「ビリカ行くよ。ラルジャンさんすみません。行ってきます」


クルムが背を向けると「置いて行かないでよ!」ビリカが慌てて着いて行く。


一体どんな関係なんだか。


◆◆◆


鍛練を終わらせた後、俺は街に出た。


まずは、この魔石の使い道だよな。魔石工房はどこだ?


魔石貝から採れた加工されてない魔石を、手の中で転がしながら、街を見渡す。


道の角からサッと人影が躍り出た。


……っ! 瞳孔が開く。


反射で避けるが、相手は体勢を崩し転んだ。


「大丈夫か?」


ただの少年だ。


「すみません、急いでたんで!」


作業用らしい、無骨な眼鏡をかけた少年が、転んだ体勢で、俺に向かって謝罪した。


「前見て走りな」


少年を助け起こす。


「……それは、魔石ですか!」


俺の手元にある魔石が見えたのか?


立ち上がりかけた体勢で、俺の手に飛びつく少年。


「なんだ、どうした?」


「小さいな。色も……属性なし? でもそれにしては光沢が……なにこれ!」


駄目だこりゃ。自分の世界に入っちまってるぜ。


「戻ってこい」


少年の肩を揺らす。道のど真ん中だ。通行人たちからの視線が痛い。


「す、すみません! つい! 俺、魔石には目がなくて。これ、何属性の魔石ですか?」


眼鏡の位置をクイッといじり、少年が俺を見上げる。


「俺にも分からん。専門家に観て貰おうと思ってたところだ」


火属性や木属性、水属性とかなら分かりやすいんだがなあ。


「それなら! 俺の親父が経営してる店に行きましょう!」


少年が目を輝かせて、俺の腕を引く。


「魔石工房か?」


「魔石宝飾店です。工房もありますよ!」


宝飾店か……まぁいい。


「案内してくれ」


「お安い御用です!」


◆◆◆


街の中心部。少年の父親が経営しているという店は、そんな活気のある場所に、どんと構えられていた。


こりゃまた……。いいとこの坊ちゃんだったか。


「ここで待っててくださいね!」


少年は俺を店の中に通して、商談机の椅子に導いた後、店の奥に消えた。


高級店だな。場違いにも程があるぜ。


魔石で作られた髪飾りや小物類。魔法を使うための物では無く、ただの飾りとしてだけに使われている物だ。それでも富裕層には人気がある。


どうせなら、魔石技師に加工して貰って、使い物になるようにしてから、売ればいいものを。買う方も宝の持ち腐れだぜ。


まあ、富裕層は魔法を使わなくても困らねえ。そう考えるとある意味合理的なのか。


「お待たせいたしました。ヴァイゼがご迷惑をおかけし、申し訳ありません。店主のエーデルと申します。珍しい魔石をお持ちだと伺いましたが」


深みのある声が聞こえ、顔をあげる。親子だなあ。


ヴァイゼというらしい、先程の少年を老成させた雰囲気の男が、俺の斜め前に、きっちりとした身なりで立っていた。


「ああ。魔石貝っつう生き物から採れた魔石なんだが、加工できるやつはいるか?」


机に魔石を置くと、エーデルは「失礼」と俺に会釈をして、対面の椅子に座り、真剣な表情で魔石を見つめる。


「魔石貝ですか……。すみません、当店所属の魔石技師は、ただいま出払っておりまして。当店で扱うのは難しいと言わざるを得ません」


息を凝らしていたのか、エーデルは深く息を吐いて首を振った。


魔石技師がいねえなら、違う店を探すか……。


「親父! 俺が担当する!」


前のめりで、片手を上げて自己主張をするヴァイゼ。


「何を言っているんだ。お前は技師見習いですらないだろう?」


「でも、俺だったら時間あるし! 工房でなら資料も沢山あるじゃん?」


「お客様には無いかもしれないだろう」


ヴァイゼとエーデルは似た顔を突き合わせて、しばらく言い争っていた。


「いいぜ。観てくれんなら、それはヴァイゼに預けとく」


どの道、ミストラルが起きるまで、この街にいることは確定してるんだ。


やる気のあるやつに観て貰った方が、早く結果が出るだろう。


「やった! お兄さんありがとな! そういえばお兄さんの名前は……?」


俺はヴァイゼに名前と滞在場所を伝えて、店を出た。

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