絹花の街ユリエール①
ユリエールは、ロプトル帝国の首都を知っている俺からすると、こぢんまりとした街だった。
だが、外壁はしっかりしていたし、門番が睨みを利かせてもいたな。存外に発展しているらしかった。
俺たちはシホウのおかげで、門番に引き止められる事は無かったが、怪しいやつは街に入ることすらできねえだろう。
ビリカを誘拐しようとした賊たちは、門を通るときに引き渡した。
門番にはたいそう感謝されたが、俺たちは後が詰まるからと、早々に街中へと溶け込んだ。
てなわけで俺たちはいま、シホウの家に招かれ、歓待を受けている。
ちなみにシホウは、使用人を複数人抱えてたぜ。商人として成功してるんだな。
「兄ちゃん背たかーい! 肩ぐるまして!」
「お母さんと同じ眼してる……」
シホウの子どもだと紹介された双子が、俺を仰ぎ見てはしゃぐ。
俺に向かって両手を広げ、肩車を催促している方が、セタという坊主で、俺の眼を食い入るように見ている幼女が、ソワというらしい。
「セタ坊、ソワ嬢よりは高いだろうよ。お前たちの母親は俺と同じ人種か。珍しいな」
瞳孔が縦に長いのは獣人族の特徴だ。砂漠で暮らしてるのが一般的なんだがな。獣人狩りにでも遭ったのか? ……ちっ、嫌な記憶を思い出しちまったぜ。
首をさすりながら、目を瞑る。
腰に片手を当て、深く息を吐いた後、俺はセタを肩に乗せて、座敷を見渡した。
「あらやだ! お客様になんてことを。セタ! 降りなさい」
「えー。やだー!」
赤子を抱えながら、座敷の奥からやってきた、シホウの奥さんがセタを叱る。
「別に構わねえよ。気も紛れるしな。しっかし、シホウに三人も子どもがいるとは思わなかったぜ。奥さんも大変だな」
髪を掴んでくるセタ坊。降りまいと必死だな!
シホウの三番目の子どもは、母親の腕の中で、すやすやと寝息を立てている。
「ありがとうございます。主人たら、お客様を放って、どこにいるのかしら」
「さっき街長とやらに呼ばれて、出て行ったばかりだぞ」
困り顔の奥さんに、俺はシホウの行方を知らせた。
「まあ。申し訳ありません」
「俺らは適当にやらせて貰うから、気にすんな」
食事も提供されてるし、泊まる部屋も二部屋、用意してくれたからな。
至れり尽くせりで、何も問題はねえ。
見てみろ、ビリカやクルムは、食事に舌鼓を打ってるし、ミストラルは……なんだ? 寝てる……んだろうよ。
あれは寝てんのか?
「ミストラル? どうした」
食膳を前にしてミストラルは、ふらふらと頭を揺らしていた。
顔色が悪い気もする。
「ラルジャンかや? 気分が優れぬ。すまぬが、部屋まで……」
おいおい、目が虚ろじゃねえか! どうりで静かな訳だぜ。
「分かった。奥さんすまねえが、一旦抜けるぜ。セタ坊、ソワ嬢。また後でな」
俺はミストラルを抱え上げ、座敷を後にする。
「……空気が……脈……てるのかのぅ……」
ミストラルは部屋に着くまで、目をつぶりながら、ぶつぶつとうわ言を呟いていた。額に汗までかいている。大丈夫かあ?
「何かあったら誰にでもいいから、声をかけろよ? ビリカにも伝えておくからな」
俺はミストラルを寝台に寝かせた後、座敷に舞い戻った。




