森の中[完]
飛竜の長に接触した俺たちは、事情を説明した後、地上に降り立った。
飛竜の長は人型に変化して、ビリカを睥睨する。
長を見上げていたビリカは、視線を逸らす。
「そこな小娘が、我の子を……」
「わ、悪かったわよ! これからはもうしないわ! だから許しなさいよね……っいた! クールームー? あんた……」
ビリカの横で静かに立っていたクルムが、ビリカの背中を小突いて、長に向き直った。
「こう見えて結構反省してるんです。僕からも謝罪を。申し訳ありませんでした」
クルムの行動で、ビリカは目を泳がせて、その後一度目を瞑り、深呼吸をして、小さな声で言う。
「……ごめんなさい」
クルムが親みてえだな。
「迷惑かけてすまなかったな。腹の虫は収まらんかもしれないが、商人には罪がねえ」
俺からも謝罪をする。無理を言ってるのはこっちだからな。
頭を下げる俺たちの前に、小さな影がおちる。
「僕楽しかったから、大丈夫だよ」
柔らかな子どもの声に顔をあげると、長の子が俺たちの前でにっこりと笑っていた。
「ふむ。我が子の言に免じて、今回の事は水に流そう」
子どもの言葉に弱いのは人間だけじゃねえんだな。
◆◆◆
飛竜の群れが去った後、馬の背で、天神教徒の証である少女像を握り締め、ガタガタと震えていた商人に声を掛けた。
商人は俺の声に飛び上がり「食べないでください! 私は美味しくありません!!」と叫んで少女像を盾にするかのごとく掲げる。
「飛竜は去ったぞ」
その必死さに哀れみを覚え、俺は優しい声を心がけて、もう一度話しかけた。商人は俺の言葉を理解したのか、キョロキョロと辺りを見回す。
「おお! どなたか存じませんが、お助けいただき感謝申し上げる。これぞ天のお導き。ああ、神よ! ありがとうございます」
んな大げさな。
「じゃ、俺たちはもう行くぜ。あんたも道中気をつけな」
「お待ちを! あなた方に、お礼だけでもさせていただきたい!」
翼を隠しているクルムとビリカ、人に変化していたミストラル、商人は三人を人間だと認識しているのか、俺たち四人を引き止めると、そう提案してきた。
◆◆◆
商人はシホウと名乗った。ラルーナに絹織物を売った帰りだと言っていて、ビリカに洗脳されていた記憶は残っていないらしい。
「ところで、そちらの縄で縛られている者たちは何者か聞いても?」
「こいつらはそこのビリセリカを、誘拐しようとした賊どもだ。近くの街か村に引き渡そうと思ってな」
ミストラルが見張っている賊を見て聞いてきたシホウに、俺はビリカを指し示しながら説明した。
「でしたら! 私と一緒にユリエールに向かいませんか? 森を抜けてすぐ近くにある、私の本拠地なのですが」
俺の説明を聞いたシホウは、一つ頷きそう提案してくる。ミストラルに頼りきりなのも良くねえよな。馬車に乗せて貰えるっつうなら、ありがたく受けるか。
「そりゃ、助かる。世話になるぜ。お前たちもいいよな?」
思い思いの場所に立っているミストラルたちを振り返り、反対意見が無いか確認する。
「好きにせい。わらわは疲れた、馬車に乗せて貰えるなら大歓迎じゃぞ」
「ラルジャンさんが言うなら、僕は賛成です」
「え、クルム、あんたまで付いて行くの? なんで!?」
約一名を除き、おおむね賛成なようで、良かったぜ。
◆◆◆
ラルジャンさんが、シホウさんの馬車に乗って、街まで行こうと決めたらしい。
ラルジャンさんは僕の恩人だから、恩を返したいのもあるけど、それ以上にビリカの情操教育に貢献してくれそうだから、ビリカがしっかりと成長するまでは、理由をつけて付いて行こう。
ラルジャンさんに賛成の意志を示したら、ビリカに疑問を呈されたので、小さな声で説明する。
「僕はラルジャンさんに恩があるから。それを返すまでは一緒に付いて行く事にしたんだよ」
「勝手に決めないでよ! 私はどうすればいいって言うの……」
「別に、付いてきたらいいじゃないか。誰もビリカを置いていくなんて言ってないんだからさ」
僕が行くところにビリカが付いてこないなんて事ある訳ないんだけど、ビリカ自身で決めるという事が大事だから、判断はビリカに委ねた。
「ちょっとクルムあんた、私が気まずいの分からないの?!」
気まずいと感じる心が育って僕は嬉しいよ。
「道中、手伝って罪滅ぼししたらどうかな? 僕も手助けするから」
「……っ。分かったわよ!」
ビリカがいつまでも、僕らの創造主に心酔しているのは、見ていて気持ちがいいものじゃないから。早く現実に気づいて欲しい。創造主は僕らの事なんて信仰力を集める道具としてしか見ていないんだって事を。
◆◆◆
コソコソとクルムと二人で話していたビリカが、バッとシホウに迫っていく。
「そこの商人! このビリカ様があんたを手伝ってあげる! 感謝しなさいよ」
シホウに着いて行くのを認めたらしいが、乗せてもらうのに傲慢がすぎねえか?
「なんであんな偉そうなんだ?」
「すみません。ビリカはああいうやつなんです」
シホウは三人と、縛られた賊たちを荷馬車にのせると、ユリエールという街を目指して馬の手網を握った。
俺はシホウの隣りに座らせてもらい、ゆっくりと流れていく景色をぼんやりと眺めていた。




