森の中④
ック、ヒック。静かな森の中で、少女の泣き声が響いていた。
「世の中には、やっていい事と悪い事がある。理解したか?」
幼子に言い聞かせるように、滔々と続いた俺の説教で、ビリカが泣き出してしまったのである。
「う、うぅー! お、お父様にも怒られたことないのにぃぃ」
悔しげに唇をかみしめ、正座した姿勢で俺を睨みつけるビリカ。わなわなと体が小刻みに震えている。
「ああもう、今回はビリカが悪かったんだよ。だからもっと穏便な方法にしようって言ったのに」
そんなビリカの頭を撫でながら諭すクルム。
外見上は同じ歳頃に見えるんだがなぁ。実際はだいぶ歳が離れてでもいるのか、精神年齢に隔たりが感じられるぜ。
「うるさい! クルムのバカ!! わ、私は早く強くなって、お父様に認められたかった……だけなのにいぃぃ!」
一旦は落ち着きかけていたビリカだったが、クルムに味方をして貰えなかったせいだろうか、また盛大に泣き出してしまう。
きつく言い過ぎたか? だが、ビリカのせいで俺たちが苦労をしたのは事実だ。ラルーナも危うく都市を放棄するところだったんだぞ。自身の行いで、まわりにどんな影響が出たのかは、しっかり教えておかねえと。ビリカのためにもな。
「説教は終わったかの? 終わったならば、商人を探しにゆくぞ。まだ飛竜の腹に収まってなければよいがのぅ」
ミストラルが、空を見上げて言う。
「そうだな。飛竜の長に事情を説明しねえと。だが、どうやって探すか」
早く商人を見つけねえと、本当に飛竜に食われちまうぞ。
「ラルジャンさん。それなら、僕たちが役に立てると思います」
俺が眉間に皺を寄せていると、クルムがビリカを慰めながら遠慮がちに発言した。
「助かるが、あてでもあるのか?」
商人を見つける方法があるなら聞いておきたいぜ。
「力を使えば、探し出せます。その為にまずは力を補充させてください!」
「崇め奉りなさい!」
クルムが深々とお辞儀をする横で、ビリカが仁王立ちをして便乗する。
全く反省してねえな……。
「ビリカ黙って」
そんなビリカにクルムもいい加減腹を立てたのか、唸るようにそう言い、ビリカの頭を下げさせた。
◆◆◆
賊をしかるべき場所に引き渡すのと、クルムたちの信仰力を補充するために、早く街を見つけなければならない。
「結局こうなるのかの。お主、ちとわらわを酷使し過ぎではないかや?」
ミストラルには悪いが、背中に乗せて貰うことになった。
「すまねぇ。今はこれしか方法がねえんだ。今度大きな街でも見つけたら、いい物がないか探しておくぜ」
「話半分で聞いておくでの。賊を落としても、文句を言うでないぞ?」
本気か冗談か分からねえ。
ミストラルは恨みがましく呟きながら、俺たちを乗せて空に舞い上がった。
思っていた以上に広い森だ。ミストラルの飛行速度でも、すぐに森を抜けることはできなかった。
やっと森を抜けると思った矢先、見覚えのある存在が、空中で立ち往生しているのを発見する。
「あれは、飛竜の群れじゃねぇか?」
「何かを取り囲んでいるみたいですね」
「私が洗脳した商人じゃない! この森の中に居たのね」
遠くてよく見えないが、確かに、馬車を引いている人が、飛竜に取り囲まれていた。
「つうことは、あの群れはラルーナに来た飛竜の群れってことか!」
ビリカが洗脳した商人を囲んでるんだから、そういうことだよな。
なんで襲いかかってねえんだ? 襲いかかれずにいんのか?
「良かったのう。探す手間が省けたようじゃ」
ミストラルは飛竜の群れを刺激しないよう、ゆっくり飛行して群れに近づいていく。
「長には俺が事情を説明するぜ」
ビリカの行為を許してくれるといいんだが。




