森の中③
昨日に引き続き、道を歩く。
「そういや、クルムは翼隠せるのか?」
クルムに向かって問いかける。
「できますよ」
クルムはスッと翼を消した。
「ちなみに、印をつけた浮島にも転移できます! すごいでしょ?」
褒めろと言わんばかりだな。
「凄いな。いつかやってみせてくれ」
「二人とも静かにするのじゃ」
話していると、警戒するようなミストラルの声。耳を澄ませている。
意識を集中させると、近くで騒がしい音がした。
「人が争ってるのか……?」
木陰から、三人で音がする方を見る。
「……! 離しなさいよ! このバカ! 引っ張らないで、翼がとれちゃうでしょーー!?」
「大人しくしろ!」
「天神族なんて珍しい」
「見世物小屋に売ろうぜ!」
十四、五歳くらいの天神族の少女を、男たちがとりかこんでいた。瞬間、頭に血が上る。
「……ビリカぁ……?! むぐっ……」
「叫ぶでない」
横で二人が騒ぐ。俺はそれに構う余裕はなく。
男たちと少女の間に飛び出した。
子どもを誘拐しようとするなんざ、許せねぇ!
少女の翼を掴む腕をつかみあげ、投げ飛ばす。
「うわあ!」
その横にいる男を大剣の鞘で峰打ち。
勢いで、その横にいるやつを回し蹴り。
「ぎゃっ」「……ぐはっ!!」
少女を囲んでいた男たちは、おのおの悲鳴を上げ、倒れふした。
気絶した賊どもを樹に縛りつけた後、俺は呆気にとられていた少女に声をかける。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。だけど私、助けてなんて言ってないわ! あれくらい、自分で対処できるわよっ!」
強がりかぁ? 震えてるぞ。
「ビリカ! 驚いたよ。なんでこんな所にいるの?」
少女がクルムを見る。
「……見つけたあぁぁ! あんたがどこかに行っちゃったから私がこんな目に合ったのよ! このバカぁぁ!」
「なんという理不尽」
クルムを指さした少女は、そのままクルムの元に駆け寄り頭突きした。
「クルムの知り合いか」
「僕を空から落とした元凶です」
「……それは、災難だったな……?」
少女はクルムと再会して落ち着いたのか、クルリと俺に向き直ると、胸をはる。
「私はビリセリカ! 天神族よ! 崇め奉るといいわ!!」
まぁた、濃いヤツきたなぁ……。
「俺は天神教徒じゃねえから、祈らねえよ」
「はぁ!? ありえない! 意味わかんない! これじゃ、力使えないじゃない!」
ビリセリカは地団駄を踏みながらわめく。
クルムが困り顔で、俺に頭を下げた。
「ビリカ、やめてよ。ラルジャンさんは僕の恩人なんだから。ていうかもしかして、ビリカ今能力使えないの?」
「使えなかったら何よ! またバカにする気? それなら受けてたつわよ!?」
「……だから無駄な事に能力を使うなって言ったのに……自業自得」
クルムがビリセリカに足蹴りを食らった。
元気な嬢ちゃんだな……。
「再会を喜んでいるとこ悪いが、そろそろ森を抜けるべきだと思うぜ」
賊どもも自警団か騎士団かどっかに引き渡さねぇといけねえ。
「そこな娘、ビリセリカとか言うたかの? どんな能力を持っておるのじゃ?」
静かだったミストラルが、扇でビリセリカを指し示す。
「あなた達には特別にビリカと呼ぶ権利を与えるわ! 泣いて喜びなさい!」
なんか嬉しくねえのはなぜだろうな?
「はよ申せ?」
鬼女の面をつけていて表情は分からないのに、声の低さで怒りが伝わってくる。
ビリカの偉そうな態度が逆鱗に触れたのか……?
「わ、分かったわよ! よく聞きなさい! 私が偉大なお父様から授かった力は洗脳よ!!」
せんのう、理解し難い単語が飛び出してきたんだが?
「ちょっと待て、洗脳ってなんだ? 思想改変でもするっていうのか?」
「え、洗脳を理解できないの!? しょうがないわね、いい? ……洗脳とは! 私が洗脳を人に使うと、その人は私が望んだ通りに動いてくれるようになる、偉大な力なのよ!!」
要するに、人を自分に都合がいいように操るってことじゃねえか!
「力がえげつねぇ……」
それで? 何かに能力を使ったから、今は使えねぇと。
「誰かに能力を使ったのか?」
「それよ! 今まさに私はそれで、困っているのよ。全く、誰が私の崇高な計画をじゃましたのよ!」
「騙されないでください。ビリカの計画って、全然崇高じゃありませんから!」
ビリカとクルムが同時に主張する。
信じられるのはクルムの方だな。異論は認めるぜ。だが、俺の勘はクルムが正しいと主張している。
「嬢ちゃん。どんな計画を実行して、じゃまされたんだ?」
低い声にならないように気をつけて、聞き出す。
「飛竜の卵を都市に持ち込ませて、都市が壊滅する時の人々の恐れという感情を手に入れる計画よ!」
ラルーナでのできごとが思い浮かぶ。
飛竜の卵、絹織物商人、商人の天神教徒である証。
「……嬢ちゃんが洗脳っつう能力を使ったのは、天神教徒の絹織物商人だったりするか……?」
俺が眉をしかめながらビリカを見つめると、ビリカはクルムにしがみついて叫ぶ。
「ちょっとクルム、何この人族、怖いんだけど。なんで私が洗脳した相手を当てられるのよ!? 実は天神族なの?! 読心能力持ちの!」
その反応で、俺は確信をもった。
「そうなんだな?」
抑えきれず、低い声がでる。
「ひっ! な、何よ。け、喧嘩なら買うわよっ!?」
怒気のこもった俺の声にビリカは慄いたのか、いっそうクルムにしがみつきながら、震える声で強気な発言を返してきた。
「……嬢ちゃん。正直に答えてくれ。商人に洗脳っつう物騒な能力を使って、飛竜の卵をラルーナに持ち込ませたのは、嬢ちゃんなんだな?」
「そ、そんな低い声で聞かれても私はく、屈しないんだから!」
「ラルジャンさん。そうです。ビリカがやりました」
「クルム!!? 何答えてんの!? クルムの裏切りものおおぉ!」
クルムの返答で、この天神族の少女が、ラルーナでの騒動の元凶だったという事が確定した。
反省の色が見えないビリカに、俺はフツフツと湧いてくる怒りを抑え、静かに口を開く。
そこから俺の長い説教がはじまった。




