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せんとうとせんのうかいじょ④



「アレッタ様、大丈夫ですか!?」


「なんとか! 回復薬飲んだらジーノさんも解放するから、きみはあの子をお願い!」



 鞄から取り出した回復薬を一気に煽り、背中の傷を簡単に回復して、まだ止まったままのジーノさんの方へ目を向ける。大部分の上書きは終わっている。テレンツィオが時間を稼いでくれている今のうちに、とジーノさんも自由にする。



「あー、ひどい目に合ったぜ!」


「いいから! 一緒に応戦してください!」


「はいはいっと〜」



 気怠るそうに肩を回しているけど、視線は標的であるねこみみ令嬢から離していない。口では軽いことを言っているけど、テレンツィオの言う通り信頼できるのかも。



「それと、これを」


「ん? なんだ、この瓶」


「……元はあの砂時計の砂、です」


「うげ! なんでそんなものを!」



 露骨に嫌そうな顔をするけど、色が金色になっているのを不思議に思ってか、小瓶の中身をまじまじと観察している。



「……でしたが、わたしの魔力で上書きしましたので、支配権はわたしにあります」


「……というと?」


「あの子が砂時計を使おうとしたら、中身をぶつけてください。向かってくる砂に反応して、その場に留めるようにしてあります」


「へー、器用なもんだな」



 さっき2人を解放するのに使った鱗粉の副産物だ。

 ついでに、触れた砂の支配権を奪うようにしてある。


 量は小瓶5本分。

 人間を2人も押し留めていたのだ、これで大体砂時計の半分くらいの量になるだろう。アレッタの支配下にある砂が増えれば、ねこみみ令嬢の戦力を削ぐことに繋がる。



「では、そちらはお願いします!」


「そちらはって、アレッタちゃんは?」


「わたしはラドンさんを探します!」



 ねこみみ令嬢がアレッタの方へ来たのなら、ラドンさんは攻撃を受けて動けない状態のはずだ。あの体格が見当たらない、ということは脱皮して命からがら避けた、ということ。回復魔法と薬で治るようなら復帰してもらいたい。

 ……本当に無理を言っている自覚はあるけど。


 草むらに寝転がるようにして目線を下げる。

 声がしない、ということは気を失っている可能性が高い。


 こんなとき、生きてる草たちならなぁ、なんて思いつつあたりを探していると、特に燃え焦げている地面。その少し離れた場所で、小さなトカゲが目を回していた。



「ラドンさん、聞こえますか!? 回復魔法かけますよ!」



 怪我は回復魔法で、魔力は回復薬を──雑で申し訳ないけどスポイトなんて上等なものはなく──ぶっかけて様子を見る。ぺちぺちとほっぺに当たりそうな部分を叩いているけど、意識は戻らない。



「……こうなったらやっぱり鱗粉?」



 さっきもひと舐めで元の姿になったと言っていたし。

 文句言われたとしても後で聞こう、と意を決して翅を揺らす。手のひらに集めた鱗粉を指につけて、無理矢理小さな口に指を突っ込む。


 うぅ、ごめんなさい、勝手をした謝罪は後でたっぷりしますから! ともう一回指に鱗粉をつけて突っ込む。

 せっせと口に指を突っ込むこと5回くらい。

 カッと急にラドンさんが金色に光り始める。眩しくて目を閉じると、膝にずどんと重みが。


 目を開けると、元の大きさのラドンさんが膝に頭を預けている状態だった。



「やった! 起きて、起きてラドンさん!」


「ん……? まだねむてぇって……」


「起きないと殺されますよ! こんなところで死んでもいいんですか!?」


「おわぁ!?」



 大声で呼びかけると、慌てて頭を上げるものだからアレッタのおでことぶつかる。いったた、とアレッタがおでこをさすっていると、上体を起こしたラドンさんがきょろきょろとあたりを見回している。



「ラドンさん?」


「……オレ、空のてっぺんにいたか?」


「何言ってるんですか、ここも空の上ですし何なら戦闘はまだ続いてます!」


「あぁ、そっか、そうだよな……?」



 何故か不思議そうにアレッタと空とを見ていたラドンさんだが、アレッタがしっかりしてください! と背中を叩くと、生返事をしながら立ち上がった。



「起きたばかりで申し訳ないんですが、まだ戦えますか?」


「あ、あぁ、確かに調子は抜群だけどよ、」


「やっと戦力が揃いましたから、叩くなら今しかありません。わたしも後方から支援しますので、」


『わーい! ご主人様だーーーー!!』


「んわっーー!?!?」



 次から次へとなに!? と思えば、上から真っ白なもふもふが落ちてきた。

 咄嗟に抱えきれなかったアレッタは、そのままべしゃりと後ろに倒れ込む。視界のほとんどを埋める真っ白な毛、緑の瞳。ぶんぶんと尻尾を振っているのが感覚でわかる。



「ヴェルデ! 一体今までどこにいたの……!」


『んーっとね、この島の妖精さんに会ってた!』


「……この島の妖精?」



 落ちてきて早々、意味がわからなくて、アレッタは首を傾げる。

 無事でよかったという気持ちの前に、なにそれ、が顔に出てるのが自分でもわかる。



『あのねぇ、この島は妖精さんが作った後で寝てたんだけど、知らない人に起こされたんだって! でもでも、お願いごとがあるっていうから、貸してあげたんだって!』


「んん……? あのねヴェルデ、もうちょっとわかりやすく……」


『それはねぇ、ボクの方から説明しようかなぁ』


「イーリアス!」



 アレッタの指に止まる小鳥にほっと安堵する。

 ただでさえ時間がないのにヴェルデの説明だけでは一昼夜かかるのでは、なんて思っていたのでとても助かる。



『ねぇアレッタ、あの砂時計。ただの魔道具にしては効果範囲が広すぎるとは思わなかった?』


「……流石に強すぎるな、とは思ってた」


『うん、そうだよねぇ。ヒトの作る道具の範疇を超えてる』


「……っていうことは……!」


『そう、あれは妖精の持ち物なんだよ』



 確かに、あんなものが量産できるのなら戦争なんてあっという間に終わる。唯一無二の魔道具だからこその強さだったわけだ。



『それでね、ボクたちはあの砂時計の持ち主に会ってきたんだ』


「ヴェルデも言ってたけど……」


『……時間がない、ここから先は道すがら話そう』


「道すがらって?」


『ほらヴェルデ、もう一回道を開けるかい?』


『うん! できる!』


「ちょ、ちょっとまって!」



 アレッタが意味を理解する前に、どんどん話が進んでいて慌てて止める。かいつまんで理解したのは、この島に妖精がいて、今から会いに行こうとしている……ということくらい。

 時間がない、とイーリアスは言うけれど、アレッタの方も切羽詰まっている。ほぼ全員が揃っているこのタイミングでねこみみ令嬢を倒しておかないと、次のチャンスはない。砂時計への簡単な対策は渡してあるけれど、アレッタの支援は必要だろう。


 アレッタの言いたいことを察してか、イーリアスはアレッタの目の前に飛び込んでくる。



『今のままでは、あの娘を倒すことはできないんだよ』


「それはどうして?」


『この島は妖精によって維持されていて、あの娘は妖精の『祝福』を受けているからねぇ。随分とあの娘に有利な場であり、『祝福』がある以上無限に魔力が供給されるんだ』


「そんな、じゃあ……!」


『だから、今からその妖精を説得しに行くんだよ。……そのためには、キミの力が必要だからね』



 今の話が本当なら、今すぐ行く他ない。

 このままではじりじりと魔力が尽きてこちらが負けてしまう。……それだけは絶対に避けなければならない。



「……ラドンさん。少しの間この場を頼みます」


「頼むって、嬢ちゃん何を、」


「ヴェルデ! その妖精のところへ案内して!」


『わかったー!』



 ワン! とヴェルデが鋭く吠える。

 短い咆哮が空気を震わせると、緑の光が一筋。ヴェルデの目の前を裂いたかと思えば、扉が現れる。



『ご主人様ー、行こう!』


「ラドンさん、頼みましたからね!」


「おい、ちょっと!」



 ヴェルデを先頭にアレッタとイーリアスも扉を潜る。

 1人と2匹が通ると、扉はすっと消えていく。



「……何やら一人でしゃべってどっかに消えちまったなぁ……?」



 ヴェルデの声もイーリアスの声も聞こえていないラドンから見れば、虚空に向かって一喜一憂しているアレッタ。首を傾げはしたものの、頼まれたことはやり遂げなければならない。


 あの猫獣人の嬢ちゃんにいいの(・・・)を一発喰らって、流石に死んだかと思ったが何故か生きていて、調子は万全。この感覚はさっきもあったやつだからわかる。あの嬢ちゃん、また鱗粉飲ませたな?

 死体に鞭打ちかよ、と呆れつつも、負けっぱなしは性に合わない。



「仕方ねぇ、何回でも挑んでやろーじゃねぇの!」



 上空で繰り広げられている戦闘を見上げ、自身も飛び出した。




◇◆◇




 扉の中は真っ暗で、右も左も永遠に続いているように見える。ただ、ヴェルデは行くべき先が見えているようで、こっちだよ! と迷いなくぐんぐん進んでいく。



「それで、詳しく教えてもらえるんだよね?」


『ああ、もちろんだよぅ』



 できるだけ急ぎつつイーリアスの話と、時々会話にちょっかいかけてくるヴェルデの話をまとめるとこうだ。


 アレッタたちと別れた後、作戦通りにハルラスを捜索していたが、何かに足を引っかけて転倒。何かと思えば、暇になった『時間の妖精』が通りかかったヴェルデを悪戯で引っかけたのだ、と。


 詳しい話を聞こうと追いかけて──というか聞いている限りではヴェルデが面白がって追いかけ回したようだけど──その妖精が自分の空間に引きこもってしまった。普通なら妖精の世界に潜られてはお手上げだけど、こっちは犬の妖精(クー・シー)


 遊んでいるうちに妖精の世界への入り口を開け、侵入に成功してしまった。最初は嫌がられていたものの、そのうち話を聞くことになり、あのねこみみ令嬢が持っている砂時計はこの『時間の妖精』が貸したものだ、と判明した。



『あのね、ヴェルデたちあれのせいで困ってるんだよ! って言ったんだけど、あの女の子だって困ってるって言われて!』


『アレッタなら説得できると思ってねぇ』


「わたし? そう期待されても、わたしにそんな交渉能力ないけどな……?」


『ううん、きっとキミなら大丈夫だよぅ』


「そう……?」


『ほぅら、ついたよ』



 真っ暗な空間が一瞬で色を変える。

 オーロラみたいにゆらゆらと色を変える空間の真ん中に、小さな妖精がひらひらと漂っていた。真っ黒な髪とグレーの瞳、大きさは普通の妖精くらい……と思っているうちにみるみるグレーの瞳をまるまると見開いて勢いよくこちらへ。アレッタの胸元あたりに飛び込んでくるので、慌てて両手でキャッチする。



「わ、うわ! なに……!?」


『わーーーーん! 姫さまーーーー!!』


「んぇ、なに……この子どうしたの?」



 飛び込んできたのと同時に顔中をぺしゃぺしゃにして泣いている。アレッタの手のひらにも小さな雫がぽたりぽたりと落ちてきて、このままでは話にならない。とりあえず慰める意味も込めて頭を撫でてみると、更に泣き出してしまって、困り果ててイーリアスを見る。

 これは収まるまで待つしかないね、という視線が帰ってきて、そうだよねぇと思いつつ背中を撫でてあげる。


 アレッタの手のひらに水たまりができそうな頃になってようやく落ち着いてきたらしく、すんすんと鼻を啜っている。



「……どう? 落ち着いた?」


『はい……姫さまのお手を煩わせるとは……申し訳ありません……』


「あの、その『姫さま』って?」


『なんと……! 今はお忍びでしたか、これは失礼を……!』


「…………?」



 いまいち話が通じてないかんじはあるけど、優先するべきことは他にある。時間の妖精が落ち着いているうちに、とアレッタは話を切り出す。



「あの、外にいる猫の獣人の子に砂時計を貸したのはあなた?」


『ええ、そうです! 久しぶりに呼ばれたと思ったら純真な子で……! 好きな人と結婚したいけれどみんなから反対されている、だからふたりきりで結婚式がしたい、と頼み込まれまして……!』


「……間違ってはないかもしれないけど……ちょっと事実が捻じ曲がってるかな……?」



 彼女に都合のいいように言えば確かにそう。

 そうなんだけど、自分以外のいろんなものを犠牲にし過ぎでは……!

 遠い目をしてしまいそうだったけど、そんな場合じゃない。



「実はね、あの子が砂時計を使って大勢の時間を奪って悪用してて……」


『そんな、あんないい子が……!?』


「えっと、確かに妖精が見える人は心が純真、とは言うんだけどね! ……わたしの大事な人を攫って洗脳したり、傷つけたりしてるの」



 多分、この場合の『純真』って、自分のやってることを悪だとは微塵も思ってないって意味の純真だと思う、とは言えず。

 とはいえ、妖精は総じて純粋だ。

 真摯に頼み込めば呑んでくれるはず、というのは普段の友人たちとの関わりでわかっていた。



「……あの子に『祝福』を授けてるよね? それと、この島の維持も君が管理権限を持ってる」


『そうです、そうです! あの子もこれでばっちりだと!』


「……申し訳ないんだけど、それ……」



 今すぐやめてほしい、と言いかけて、口を閉じる。

 なんて言えば、この純粋な妖精の心を傷付けずに、全部を解決できるんだろう。


 妖精は総じて純粋。

 悪戯することもあれば、気まぐれで人の手助けをすることもある。今回は上手く利用されただけで、進んで悪いことをする妖精じゃない、と思う。


 したくない悪事に加担した、と気付かせるのは気の毒だ。

 裏切られたらその分だけ傷付くのは、妖精だって変わらないのに。耳触りのいいことばかり並べ立てて悪事に手を貸すことになったのに。


 だったら、わたしが選ぶ言葉は。



「……その『祝福』と権限、わたしに譲ってくれないかな?」



 何も知らせないまま、全部こっちで片付ける、だ!

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