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いけめんといけいのねん


 ── 『黎明のコンヴォカツィオーネ』における『シロップ』の話をしよう。


 魔族七幹部の1人で、『色欲』の名を体現するかのように次から次へと『旦那様』を拉致しては精神をぐちゃぐちゃにして捨てる。それが、ゲーム内での彼女。


 確かに戦闘難易度は高いし、強敵ではあるけれど──勝機はある。


 ──彼女が求めているのは『最高の旦那様』。

 だとすれば!



「ハルラスの他にイケメンをいっぱい連れて行けば気を逸らせるはずだよ絶対!!!!」


「…………なるほど?」


「……語尾に疑問符(クエスチョンマーク)付けないでくれるかな?」



 幼いままなのに器用に怪訝そうな顔をするテレンツィオをじとーっと睨むアレッタ。


 これに関しては本当なのに。

 ゲーム内でも男性キャラを戦闘に連れて行くと、『シロップ』は男性キャラにだけ魅了(チャーム)魔法をかけてくるし。逆に女性キャラだけで行くと魅力(チャーム)魔法はかけてこないけど、『シロップ』が戦闘に飽きて勝手に離脱するのでおすすめできない。高火力で瞬殺する方法もなくはないけど、今の状況では完全に戦力不足。


 今回の目標は『ハルラスの奪還』。

 だとすれば多少無理があってもこちらに気を引きつける必要があるし、引きつける対象は多いほどいい。

 ちゃんと弱体化(デバフ)対策をして挑めば勝率は高いはずだ。



「……アレッタ様の言いたいことはわかりましたが……こちらがその『運命の男』候補、ですか?」


「そう! イーリアスが城内を飛び回って『それなりの実力があって飛行能力のあるイケメン』を探してきてくれたの! あ、イーリアスっていうのはここにいる小鳥で、見たものを紙に出力できるらしくって!」


「………………なるほど?」


「だから疑問符(クエスチョンマーク)やめてってば」



 口ではそう言いつつ、写真を手に取るテレンツィオ。

 かと思えば、並んだ写真を束ねて一枚ずつ分けていく。



「……? どうしたの?」


「この男は駄目ですね、城内の警備の統率を任せていますから。それにこの男は新兵で実践経験がない。それからこの男は招待客の従者だ、戦闘には参加させられない。そして……」



 次から次へとぽいぽい『運命の男』候補者が削られていく。う、あ、そんな……! なんていうアレッタの呻きも全く無視。気がつけば残った写真は3枚。



「こんなものですね」


「うぅ……ひどい……」


「足手まといを何人も引き連れて行くよりはマシじゃないですか?」


「それはそうだけど……!」


「まずはこの男」


「ねえ、ちょっとは話聞いてよ……!」



 テレンツィオが指差すのは1枚目。

 渋々アレッタも覗き込むと、写っているのは鎧を纏った騎士。皮膚は爬虫類系に鱗で覆われていて、キリッとした顔立ち。



「彼は遠縁ではありますが龍の血筋です。飛行能力、戦闘能力については問題ないでしょう」


「うんうん、お顔もシュッとしてていいと思う!」


「…………」



 そもそも爬虫類ってカッコよく見えることないですか?

 ドラゴンの血筋っていうのもポイント高い気がする。ねこみみ令嬢の好みに合うかはわからないけど! でもいろいろなタイプを取り揃えておいて損はないよね!



「それからこちら。普段は王子の警備にあたっていますが、その王子も子どもに戻っている状態です。行動範囲を制限すれば警備を多少減らせるでしょう」


「そうだね、メガネってあるだけで理知的に見えるからいいよね!」


「………………」



 というかこの人見たことあるな?

 確か変な王子に絡まれたときに威嚇してきた人だな?

 あのときは変な人の対応で全然覚えてなかったけど、藤色の髪にメガネだった気がする。まあいっか。この人も上からの命令でやってただけだろうし。



「最後はこの方。適切な配置かは難しいところですが、最も責任を持つべき立場ではあります」


「……ねえ、それってさ……」


「お察しの通り、こちらは西の国の王です」


「やっぱり! ダメだよそれはダメ!」



 最後に残った写真には、藍色の髪と金の瞳をした15歳くらいの少年。王子が子どもになっているのだから、王様はもう少し上の年齢になっているようだ。

 テレンツィオ曰く、魔力耐性の有無によって奪い取られている時間の割合が異なっているのだ、と。王様はちょうど、エルフの族長夫妻と歓談中に襲撃に遭い、族長の素早い魔法のおかげで被害が軽かったらしい。


 当の族長は、というと、この騒動を解決するために王様に助言したり作戦を練ったりしているらしい。一応はエルフ族も協力関係にあるし、何より攫われたのはハルラスだ。何もせずにはいられないだろう。

 道理で部屋に誰もいないはずだ。



「最も責任が重いのですから、最前線にいるべきではありませんか?」


「わからなくはないけどダメだよ! ただでさえ混乱している国内の統制が取れなくなっちゃう!」


「ではこちらは不採用、と」



 王様の写真が弾かれた山の上に積み重なる。

 あんなにあった写真から選ばれたのはたったの2人。



「せめてもう少し戦力が欲しいよね……」


「そうですね、この容姿では僕はお役に立てませんし」


「今のきみは『かっこいい』より『かわいい』だもんね……」


「……………………」


「あーどっかにいないかな、顔が良くて戦闘に長けてて、ついでに女性を口説くことに慣れた人……」


「…………心当たりは、なくはないですが」


「ほんと!?」


「……この姿を見られるのは癪ですが他に手はありませんし時間もない……本当に癪ですが」


「……? なんて?」



 小声で何か言っているのはわかったけど、早口で聞き取れなくて聞き返すアレッタ。なんでもありませんよ、少しだけお待ちくださいね、といつもより幼い顔でにっこり微笑むテレンツィオが連れてきたのは。



「…………ジーノ、さん?」


「はーい、その『ジーノさん』ですよ〜」



 ひらひらと手を振って部屋に入って来たのは黒髪のところどころを緑に染めているジーノ・ジェラルディ。案内や警護なんかで何度か顔を合わせているが、どこか雰囲気が違うように見えてアレッタは首を傾げる。

 小さなテレンツィオを見ては可笑しそうにくつくつと喉を鳴らし、その度にテレンツィオに膝裏を蹴られている。そのやり取りはどこか慣れたものに見えて。



「……知り合いなの?」


「いいえ、まったく」


「うっわ、そういうこと言うのかよ! せっかくこっちは、」


「……いいから黙りなさい」


「ったく、はいはいわかったよ!」



 言葉の応酬もやっぱり慣れたかんじで、やっぱり知り合いなのかも? と思ったけど、今は後回しにした方が良さそうだ。テレンツィオの顔に『何も聞くな』って書いてあるし。



「じゃあ、このジーノさんが?」


「作戦には適格でしょう。『顔が良く戦闘に長け、女性を口説くことに慣れていて、ついでに命を懸けるのを厭わない人』」


「……なんか物騒な条件追加されてなかった?」


「おいおいひでぇな、俺だって『仕事』で死ぬつもりはないぜ?」


「……と、まあ口は軽いですが、実力はそれなりです。今回の作戦には問題なく参加できるでしょう」


「……なるほど」



 絶対これ、なんか裏で関わりあるんだろうな、とは思いつつも後回し。まず解決しなきゃいけない問題は『ハルラスの奪還』!



「では! 『運命の男量産作戦』の作戦会議を始めます!」


「……なんて?」


「……名付けには横槍を入れないでください。アレッタ様の機嫌を損ねますから」


「そこ! 真面目に聞いてる!?」



 こそこそ小声でやり取りする2人にびしっと指を差して注意しつつ、地図と写真を並べる。


 ジーノへはこちらの作戦を、ジーノからは現状の情報を受け取って作戦内容に盛り込んでいく。


 西国の王様はエルフ族長のおかげで、時間は奪われたものの心身共に無事。ハルラス奪還に向けて指揮を執っている。流石にあの騒動を隠し切れるはずもなく、国内には『敵襲』とだけ報じ、近隣住民には避難要請しているとのことだ。


 しかし、現状の問題点はこちらと同じ。

 戦力を大きく削がれていて、近隣の騎士団から人が集まるのを待っている状態。城の防御や索敵などの対策を打ってはいるが、城内の混乱を鎮圧するのに追われ、具体的な方策が決まっているわけではないらしい。


 というのも、時間を奪われた人々は各々の魔力耐性によって精神まで幼児退行している人が多いのだという。あのとき子どもの泣き声が多かったのもそのせいで、テレンツィオが精神まで引きずられなかったのはアレッタのおかげ。

 『アレッタ』は魔力耐性が高く、従魔であるうちはその恩恵を受けているからだ。……その分、物理攻撃にはとんでもなく弱いんだけど。


 それと同時に、この作戦には制限時間があることもわかった。アレッタがぐっすり寝ていたのは一晩ではなくて。



「……2日!? わたし2日もぐっすり……!?」


「そうですよ、アレッタ様。心配ではありましたが、次期当主殿の身の安全が最優先かと思いまして」


「それは確かに……起きたときにハルラスが、なんてことになってたらいやだけど……!」


「それに、アレッタ様の状態は従魔の縁で把握していましたから」


「……むぅ」



 それにしたって起こしてくれてもよくない?

 ……まあ寝起きが悪いのは自分でもわかってるけど。


 いろいろ思うところはあったけれど今は後回し。

 アレッタが2日も寝ていたということは、今日は祭りの7日目の朝。



「……あのねこみみ令嬢は『祭りの最後の花火』のときに結婚式を挙げるって言ってた」


「ええ、その通りです。ですから、制限時間(リミット)は今日の夜まで」


「それ以降は、この国から移動する可能性が高いってことだな?」


「わざわざここに留まる理由がないし……あのかんじなら新婚旅行とか言って別の場所に行きそうじゃない?」


「はは、話には聞いてたが一貫してるな! もちろん、悪い意味で、だけどな」


「まあでも、その分行動指針が明確なのはわかりやすくていいのかも」



 時間制限(リミット)は今夜。花火が終わるまで。

 だったら、今すぐにでも動いた方がいい。



「目標地点はここ、旧大聖堂の上空。結構高い位置にいるから飛行魔術の使用が必須になる。わたしは翅があるし、テレンツィオはヴェルデに乗った状態でわたしが飛ばしていけばいいし」


「運命の男候補の3名も問題ないでしょう。それを前提に選出しましたし」


「問題は、向こうの地形がわかんねぇことだな。それと、相手の魔法を防ぐ手立てがないってとこだ」


「一応、それについてはわたしから──」



 大まかな地形を記入した地図を新たに広げる。

 小鳥と一緒に偵察したときにざっくりだけど作ったものだ。遠目で見ただけでも分かる大きな屋敷に庭園。何故か急拵えで作られたような教会。……多分だけど結婚式のために用意してあるんだろうな。魔族って神に婚姻誓っていいの??



「魔法……というか、あの『時間』を奪う魔道具についてならわたしの方でなんとかするよ。他の人たちは気を引きつつ、できれば機関銃の方を破壊して欲しいかな」


 

 あのでたらめな機関銃さえなければアレッタでもなんとかなる。


 それに、今のメンバーで彼女の持つ魔道具に対抗できるのは多分『アレッタ』くらいだ。だからアレッタは後方で銃弾やら砂時計の砂やらを押し留める係。

 テレンツィオはアレッタの守りと偵察。

 花婿候補3人はねこみみ令嬢の気を引きつつ、可能であれば攻撃して戦力を削いでもらう。それと。



「……ねこみみ令嬢を引きつけてる間に、ヴェルデにハルラスを探してもらう」


「この、やんちゃなわんこにか?」


「わんっ!」



 わしわしとジーノに頭を撫でられて尻尾をぶんぶん振っているヴェルデ。他の人には普通の犬の鳴き声にしか聞こえていないと思うけど、『わかった!』と元気のいいお返事。こう見えて犬の妖精(クー・シー)のヴェルデは、足音を消して移動するのに長けている。今回の作戦の要だ。



「ヴェルデから発見の知らせがあったら、即座にわたしからみんなへ連絡。ハルラスを回収して、地上へ降ろす」


「そのご令嬢はどうするんだ? 聞いた話じゃ、絶対に追ってくるだろ?」


「……わたしが食い止める」


「……アレッタ様?」


「まって! 一旦聞いて!」



 お説教が始まりそうな予感を察して先に言葉を遮る。

 それから、ヴェルデに家から持ってきてもらった銀の鎖をじゃらじゃら鳴らして2人に見せる。これは封印用の魔道具で、とりあえず一回は有効打として使えるとアレッタは思っている。不意打ちだし、ねこみみ令嬢も複数人を相手にしながら全てに気を回すのは不可能だろう。



「わたしがやるのは一瞬の足止め! 絶対その後に追ってくるだろうから別の場所へ誘導して、地上にいる戦力と合流! 一斉に攻撃すればあの子にも痛手になると思う!」



 まだ魔族に成り立てだし普通の武器でも追い返すくらいのことはできるだろう。ゲームの中での『シロップ』は精神汚染系の魔法を得意としていて、前線に立つことは少なかった。機関銃と砂時計がなければ、元々の攻撃力や防御力はそれほど脅威ではない。

 下手な鉄砲ならぬ、弱めの魔術でも数打てば当たる!



「ね、なんとかなりそうでしょ?」


「……一考の余地はありますね」


「考えてる時間はないよ! 今すぐ行かなきゃ……!」



 テレンツィオの方へ身を乗り出すアレッタ。

 時刻はそろそろお昼。エルフ族長とも打ち合わせしないといけないから、動くなら早くしないと。


 じーっとテレンツィオを見つめる。

 手元にある情報と、『アレッタ』という手札を最大限活用して練った作戦だ。これ以上の最善策を、アレッタには思いつけない。


 アレッタの視線から目を逸さないテレンツィオが、頭を押さえて重いため息をひとつ。



「……族長に掛け合ってみましょう」


「……! うん、ありがとう!」



 ──こうして『運命の男量産作戦』は動き始めた。

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