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星と波とエレアの子守唄  作者: 視葭よみ
ときめくキンディノス
129/136

聴取とこれから

 交渉の結果、現状把握したうえで打開策を見いだせるのであれば聴取を代行する許可が下りた。

 正確にはメロディが現場側へ姿を見せた時点で少佐はある程度の諦めはついていたらしいため予定調和ともいえる。


「本当に、もー、貴女は無茶するんですから」


「出来なければ爪弾きにされるもの」


「いいでしょ、それでも」


 小言を聞き流しつつ、保管されている資料をすべて検めていく。

 捜査陣の悩みの種である証拠品を前に眉を顰める。単純に情報が多いのも困りものなのだと認識を改めた。状況証拠が示す人物は唯一、ただし補強あるいは決定打として提示できる物的証拠の根拠が弱い。実際、遺留品をバラまきながら6件の犯行が重ねられたのだ。それぞれの領地への出入りから特定できなければ未だ事件は連続していた可能性は大いにある。その上、容疑者は潔白を主張するわけでも自白するわけでもなく追及を躱しているという。無実であれば弁護人に相談して状況打開を図れば良い。事実であれば――長期戦を狙う意図が読めず、なかなか厄介な状況だ。


「カラマンリス少佐」


「はい、情報官殿」


「現状は把握しました。建物βの攻略方法、未発見の証拠に関する証言、一連の犯行に関する自白――こちらの3つについて把握できるよう尽力します」


「……可能だとお考えですか」


「はい。ただし、回数を重ねる必要はあるでしょう。15分間だけでは難しいように感じます」


 メロディはそっと見上げたが、少佐の表情は険しいままだった。少佐は背後のローガニスに視線を向けて「こちらの最大限の譲歩ですが」わずかに冷たさが滲む苦笑をした。すかさず「承知しておりますよ、少佐殿ぉ。うちのお嬢が無理を言ってすみませんねー」気まずそうに軽く肩をすくめつつ、朗笑を返した。万一の可能性として聴取時間の延長を期待したが、不可だった。

 補佐官の物言いに不満はあったが内容は事実だったため、メロディは慣れない咳ばらいをすると少佐をまっすぐ見上げて告げた。


「ゼノン・ポルフィロ容疑者の聴取に対応できます。そちらの準備は問題ありませんか?」


 少佐はため息の代わりにひとつ首肯すると、取調室前に案内した。

 扉が開けられる直前、不意に補佐官が尋ねる。


「恐ろしくないのですか?」


「怖い」メロディは正直な言葉を告げた。直後、何か言われる前に「けれど」と、振り向いた。「後ろにはいてくれるのでしょう?」


「……雲行きが怪しくなったらすぐに止めます」


「心配性だな」


「そりゃあ、もちろん」


 二対の双眸が向けられ、少佐は改めて取調室の扉を開けた。

 アンゼルムに対する聴取を行った室内と調度品は変わらない。当然、憲兵側からカラマンリス少佐と書記に加えてメロディとローガニスが入室すれば手狭になる。それを気にしたのか、椅子は3脚のみーー少佐と補佐官は扉付近で起立していた。


「これはこれは……はじめましてお嬢さん」


 中央付近の机の向かい側に座る若い男性は、メロディの全身に視線を這わせた。柔らかく瞳を細め、そっと口角を上げて見せる。精悍な顔立ちと身体に加えてどこか余裕そうな振る舞い――仕草は異なるものの、メロディは男性にコニーの雰囲気を重ねた。彼が小首をかしげると、わずかに赤みがかった茶髪が揺れる。

 メロディは努めて挑発の言葉を無視すると、ローガニスが引いた椅子に着席した。間を置かず、事前に伝えられていたとおり日時とともに「デメテール領連続婦女殺傷事件における第9回容疑者聴取、ヒストリア情報官が担当する」と述べた。それを、そのまま書記を務める憲兵が部屋の隅にある机ですばやく書き取った。

 ペン先と紙面の擦過音が収まったのを察して、さっそく聴取に取り掛かることにした。本題から入っては不慣れに見えかねないと警戒して、初回から第8回までの聴取記録の確認から進めることにした。


「名乗りなさい」


「……ゼノン・ポルフィロ」


「どのような容疑によって連行されたか、理解しているか?」


「さあ、何だったかな」


「そうか。ならば話は終わりだ。無実を主張するならそれを弁護人に伝えなさい」


 半笑いで肩をすくめる容疑者から視線を外したメロディが立ち上がりながら告げると、


「ああ、待った待った! 理解してる理解してる。人殺しだよ、殺人!」


 焦ったような素振りで机に身を乗り出しながら呼び止めた。メロディは動作を緩めながらも扉へ足を向けつつ、会話を繋ぐ。


「殺人を認めるのか?」


「なんで? 証明するのはそちらさんのオシゴトだろ?」


 冷笑とともに明言した。

 捜査班による犯行の証明を妨害しているのは建物βであり、仕掛けを施したかどうかはともかく家主であるこのポルフィロ容疑者は存在を知らないはずが無い。ふたつの拠点が判明したのは周辺住民の証言が踏まえられた判断だったのだから高い頻度で出入りしていたのは間違いないのだ。安全な攻略法は存在するが、それを知らない者が立ち入れば危険を伴う……いまのところ死者はいないが、複数の重傷者を生んでいる魔の建物と化している。

 それを指摘するのも稚拙だと思い、メロディは足を止めると「もう一度尋ねる。お前は殺人を認めるのか?」ゆっくりと告げた。

 沈黙が返され、ようやく振り向くと、


「沈黙は消極的同意と受け取ることができるが?」


「詭弁だね。俺は何も言ってない。そんな曲解で問題ねぇならさっさと裁判にかけりゃいいだろ、莫迦か?」


「殺人の追及のために連行されたことは理解しているのか?」


 容疑者は、緩やかに微笑むと「もちろん」器用に片眉だけ上げて答えた。

 補佐官をはじめとした、随分な物言いにしびれを切らしそうな面々に気づかないふりをしつつメロディは椅子に座りなおして容疑者と向き直った。


「目的は何?」


「うーん、このまあじゃあ味気ない。チェスでもやろう」


「何故?」


「気分が乗らないから」


「気分が乗れば聴取に応じるのか?」


「ああ、いいよ。答える答える」


 この時点ですでに入室から5分が経過しようとしている。顔だけ少佐へ向けるが……聴取時間の延長はできそうになかった。メロディは居住まいを正して告げた。


「持ち時間は10分ずつ。チェックメイトまたは時間切れで敗北とする」


「で、負けたら相手の要望を適えなければならない」


 思わず瞠目すると「そんくらい無いとつまんねぇだろ?」楽し気に笑う。周囲の反応も嫌というほどわかったが、ここで躊躇してはならないと自らを奮い立たせた。


「この一戦で負けたら相手の要望を必ずひとつのみ適えなければならない」


「いいねぇ、楽しみだ」


 笑顔を深めた男性を前に、メロディは無表情をつらぬいた。

 少々時間がかかったもののチェスの盤面と駒が用意された。署長の所有物で、息抜きに保管していたらしい。隣室に控えていた少佐の部下が上申しに赴いたが追い返され、結局メロディと少佐が直接かりに行った。その際、メロディは少佐から、聴取時間は延長しないが容易の時間までは換算しないと言質を得た。

 一安心して、チェス盤を挟んで聴取を進めていく。

 犯行の自白は、あくまでも建物の攻略によって発見される証拠に付随して価値を持つ。被害者の検視やこれまでの捜査によって犯行の様子は大方明らかにされている。優先すべきは建物攻略と証拠発見である。

 が、チェスの試合が中盤に差し掛かってもなお欲しい情報はなかなか得られず、メロディは内心焦りそうになっていた。

 そのときだった。目の前で笑い出した。黒のビショップを白のルークで取ると、駒を机に叩きつける。

 抑えようとしたものの、わずかに肩を震わせた。

 容疑者は目の前の少女の様子を嘲笑うように、片頬をついて口元を緩める。


「驚いた、なあ、お嬢さん! あんただろ? あんたが俺をみつけたんだろっ?」


「……」


「違うのか? いやぁ、いままでの能無しどもを相手にするよりよほど楽しいからさ――おいおい、そう睨むな。こんなじゃあ何もできない、見ればわかるだろう莫迦だなあ」


 すぐ背後で固めの生地による衣擦れが聞こえた。事務仕事より訓練や警邏で身体を動かしたり着替えたりする機会の多い現場の憲兵では無いだろうと察するなりメロディは何でもいいから思い付いたことを言おうとして「動機は?」と口走った。

 衣擦れの代わりに「あ?」呆気にとられたように目の前の男性が眉を顰めた。

 引き下がれなくなって「犯行動機を述べなさい」と言いなおした。

 興を削がれたように「殺したかったから」ため息交じりに答えたが、愚策を痛感した。


「被害者の選定は?」


「なんとなく」


「詳細を述べなさい」


「強いていえば歩いていて目についたからだ」


「随分と手の込んだ準備をしていたようだけれど」


「殺したかったから殺す人間を探していた。殺せれば誰でも構わなかった」


「わかりやすく言い換えると、それにしては大層な演出だと言っている。誰でもいいなら、数週間もかけて被害者を誘惑する必要性は無い。だいたい、女性である必要もない」


 早口に告げると、容疑者は笑みを深めた。メロディは警戒しつつも、相手の言動に意識を集中させた。


「バカな推測ばかり聞かされてうんざりしてたのさ。母親と似ている女性を狙ったとか、好みの女の容姿とか」


「資料を見る限り、被害女性の容姿は類似性が高い。母親については」


「お嬢さんとは違って保養院育ちでね。親の顔なんて知ったこっちゃねえよ」


「育ての親はいるでしょう?」


「……」


「ひとりで生きるなんて幼い子どもの戯言。否が応にも他者が関わる余地が存在してしまう」


 何も答えないながらも、試合は進行させている。のらりくらりと話の本質を逸らしていたいままでの対応とは異なるため、メロディは慎重に言葉をさがした。


「記録では、卒院は7年前。当該保養院に移ったのはその2年前、以前の保養院は破産していて記録は追えていないけれど……そこで何かあったのか?」


「……関係ない」


「それはこちらで判断する」


「無関係だ」イラついたように盤上に駒を叩きつける。それでもなおメロディは冷静に目の前の男性を見つめ続けた。


「誰にだって言いたくないことはある」


「そうだな」


「……悲惨な話なら猶更だ」


「だろうな」


 しばらく沈黙が室内を支配した。その間も淡々とチェスの試合は進行する。

 双方ともに相手の攻勢を凌いだころ、再び抑えた笑い声が響きだした。


「ははっ、表情ひとつ変わらない! これは婚約者殿だって愛想を尽かして……失礼、元婚約者殿にはそれをされてしまわれたんでしたっけ?」


「ここで話すことは無い」


「気丈ですね、ご令嬢」


 先ほど同様、片頬をついて明らかに胡散臭い笑みを浮かべる。他方、細められた瞳には何とも言えない魅力があった。メロディは居心地の悪さを理由に視線を逸らしてしまい、心なしか悔しくなって机の下で両手を握りしめた。


「なあ、お嬢さん」


「最初に名乗ったはずだが?」


 ポルフィロ容疑者は口角を上げるが、メロディは努めて冷たい視線を向けていた。それでもなお彼は「家名は聞いたよ。本名が知りたいのさ」執拗に尋ねる。


「何故?」


「知りたいんだ」


「……メロディ・ヒストリア」


 ポルフィロ容疑者はキングを右へ動かしてから居住いを正すと、紫水晶を真っ直ぐ見つめた。


「メロディ・ヒストリア情報官、結婚しよう!」


 居合わせた誰もが、その言葉に目を丸くした。

 直後「こちらに利点が無い」と求婚された少女は端的に答えた。


「ははっ。まだ15やそこらだろ? 恋愛や結婚に夢見る年頃じゃねえのか?」


 メロディは自分の駒を摘まんで、相手の駒を残りの三本で持ち上げ、そのマスに自分の駒を置く。


「どうせ政略のひとつだ。期待しても無駄に終わる」


「そりゃあ失敬」


 まったく申し訳ないとは思っていないだろう男性は白のナイトを移動させて黒のクイーンを取った。メロディは敢えて、彼が駒から手を放しきらないうちに黒のビショップを摘まみ取ると、「勝利宣言チェックメイト」台座部分を白のキングに軽くぶつけて盤上に倒した。

「おっと……」素でつぶやいた男性に微笑みかけながら、両手を組んで机に肘をつく。


「わたくしはね、退屈は嫌いなの」


 取調室無いとは思えないような、年相応の少女然としたあどけない笑顔とともに告げた。一瞬こそ瞠目した容疑者だったが気を取りなおすと、


「仰せのとおりに。私のお姫様」


「おもしろい方ね」


 それだけ言い残すと、聴取時間を数分残してメロディは退室した。

 取調室から隣室に移動するなり、他者の目も気にせずローガニスは上司を問い詰める。


「なーにを考えてんですか」


「最善を選んだに過ぎないけれど?」


「相手が誰だかわかってますよね?」


「だからこそ、真正面から自白を引き出せないなら他の手段を取るしかない。法廷で証言を何度も変えられるよりはよほど良い。聴取時間も、15分間に収めた。他にどのような文句がある?」


「……御名演でしたね」


「いまさらあんな言葉に惹かれるわけないだろう?」


 補佐官のすぐ後に隣室へ入っていた少佐を見上げながら「それに、15分間だけでは難しいというのは事前に伝えていたことだ」と言った。

 少佐は言いづらそうにしつつも「お次はどのような方針で聴取を進めるおつもりですか?」遠回しに第10回聴取に関する許可を下ろしてくれた。


「相手からしても未だ戯れに過ぎません。与えられた時間を有意義に使います」


「本当に問題は無いんですね?」


「無い。それでも上から何か言われるならわたくしが対応します」


「……それはありがたく思います」


「容疑者に対する心証はいかがですか?」


「灰色です。状況証拠だけなら揃ってますから白とは断言できない状態です。ただし、犯行を明確に示す証拠は未発見ですから黒とも言えません。心証はともかく、自白していないうえ決定的な証拠が欠けているのは事実です。

 それと、わかりやすい揺さぶりは控えていただけますか?ここで仮に本官が肯定でもしようものなら貴女を経由して情報を入手した監査から、職務不適格の評定を下されても文句がつけられません」


「とはいえ、先ほどの事情聴取にて容疑者は捜査陣をはっきりと挑発していましたよね?」


「実際、取り調べを担当した部下の方でしたら」


「補佐官殿、頼むから止してくれ」


 カラマンリス少佐は疲れ切った口調で告げた。ローガニスは謝罪しながら肩を揉んで、どうにか室内を和ませようと努める。


「退屈しのぎの戯れだと主張されれば自白は審議から除外されます。弁護人も阿呆では無いでしょうからね。犯罪を憎む心よりも金銭に胸をときめかせる野郎でも、こちらの論証の穴を見つければ容疑者は晴れて無罪。市井に戻ります。たとえそれが凶悪な犯罪を実行した人間だろうと……容疑者あいつもそれを分かっているからこそ長期戦を狙っている様子です。はたして、我々が決定的証拠を見つけるのが先か、容疑者が罪を逃れる方法を実行するのが先か」


「情報官殿へのチョッカイも、そのひとつですか?」


「おおかた、そうでしょう……頭が痛くなるばかりですよ。判決以前に、証拠不十分で無罪放免の可能性すらあります」少佐は疲れた表情でつぶやいた。

 メロディは少し考えこむと、少佐と正対する位置で膝をつき、まっすぐ見つめた。


「今月で良い。今日を含めて20日間だけ隠しきれれば誰も何も言えなくなります」


「無謀でしょう。あんな態度のやつをそんな短期間で懐柔できるとは思いません」


「出来なければ、まず法務長官からいろいろ言われるでしょう。いまさら容疑者相手に撤回すれば逃げ切られるでしょう」


「……過ぎたことを申し上げたくはありませんが、愚策だったと愚考します」


「ならば笑ってください」


「笑えない程度には窮地に立たされているものですから」


 冗談のような口調だったが、表情からはその欠片ほども余裕がなかった。

 容疑者が身柄を拘束されてから新たな被害者は出ていないものの、今の展開を推測しきれていなかったメロディは視線を泳がせた。少佐は視線を落としていたため気づいてはいなかったが、その背後にいたローガニスには見えていたらしい。


「まあ、劇物には劇薬をぶつけるのが良いってよく聞きますよね」


「……」


「そのような反応をなさるってことは、ご自覚あるんですかぁ?」


 わざと挑発するようなことを言うが、表情には労りが見えた。メロディは一度口を引き結ぶと深く息を吸い込んでから立ち上がると、少佐に尋ねた。


「次の聴取は明後日ですよね?」


「はい、予定ではそうですよ」


「場所はどこですか?」


「取調室を予定しています」


「署内には9室ありますよね?」


「そのような意味でしたら、いいえ、が答えです」


「9室に相違はありますか?」


「いえ……ありませんが……」


「直近で9室を同時に使用する予定はありますか?」


 少佐は戸惑いながらも「いいえ……普段は使いません。使うときがあるとすれば、ハラジーアス関連のような、複数人を一度に捕縛したときくらいですね」と答えた。


「それなら、わたくしが署長や軍務の上層部に話を通しておけば、何も問題ありませんね?」


「……意味を図りかねるのですが」


「ご安心ください。わたくしがすべて手配して責任を負いますので」


「一体何を……?」


 メロディが王妃仕込みの笑みを浮かべると、少佐は口をつぐんだ。


「嘘の中にも真実が紛れていることがあります。それに触れることができれば――解明への重要な鍵になりうるものです」


 自信に満ちた妖艶さ滲む少女の微笑みを前に、誰も何も言えなくなった。

 その後の対応については調整することになり、まもなくメロディとローガニスは帰投する運びとなった。


「で。どうするんです?」


 状況にそぐわない明朗な口調で補佐官が尋ねた。


「目的は変わらない。国内でも希にみる、単一犯によって複数名が殺害された事件だ。真相を記録して〝白亜の殿堂〟に収め、後世に活かす。ゆえに裁判で疑問を持たれるような状態でこの事件を終わらせるのは避けたい」


「陰謀論ウンヌンの話をされるのは怠いっすからねー」


「……」


「どうされました?」


「思惑が分からない」


「ご安心ください。俺も貴女の思惑はわかってないですから」


 メロディが補佐官を見上げると、彼は「そんなもんですよ」と笑った。


「……。それでも、せめて誰に利用されているのか明らかにしたい」


「黄道のみなさまでは?」


「否定はしないが、これは別の側面だ。殺人事件そのものの……違和感」


「なんですか、それ」


「わからない」


 ローガニスは車両の後部座席側の扉を開けて、上司が乗りこむとそっと閉めた。運転席に体を滑りこませながら「犯人は素直に話しますかね?」後部座席に質問を投げた。


「素直でなくて良い。事実を言わせれば十分だ」


「お? 自信がおありで?」


「どちらにしろ、やらねばなるまい」


 後部から手が伸ばされて、折りたたんだ紙を差し出された。ローガニスは「急ぎですか?」と尋ねながら受けとった。どうやら少佐に自信を見せた時点ですでに考えていることがあったらしい。


「最優先にする必要は無いけれど、サボらないで」


「はい、閣下。かしこまりました」


 溜息を飲みこんで横目で様子を確認すると、彼女は口を横に引いて不機嫌そうにも見える。しかし、その紫水晶は期待を滲ませていた。

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