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衛兵長ティアリア

「失礼するわ」


 お店に入ってきたのはスタイル抜群の女性だ。衛兵と同じ武装だから、早くも目をつけられた?

 女性が金髪のロングヘアーを揺らしながら、店内を物色するように見渡す。

 誰であろうと私が発する言葉は変わらない。お客様が来たら、まずはこう言おう。


「いらっしゃいませ」

「ふーん、へぇ」

「あの?」


 女性が私をジロジロと観察している。この目、この物腰。シェイさんと同じく只者じゃないな。

 こんな田舎町にいていいのかなと思うほどの隙の無さ。いや、バトルは専門じゃないから確かなことは言えないけどね。

 シェイさんを動とするならこっちは静、立て続けにすごいお客様が来ちゃったなぁ。

 

「シェイ率いる義賊団相手に商売をしていると聞いたわ。あなた、あの人達のことをわかっているの?」

「本人の口から聞いた通りです」

「そう、だったら何も知らないのね。あの人達はね、いわゆる非合法組織なの。義賊なんて言ってるけど、やってることは法に触れているのよ」

「例えば?」

「物を盗んだ人がいたからといって、その人から盗んだらダメでしょ? あの人達は平気でそれをやるのよ」


 女性は衛兵だから、その立場を考えれば当然の意見だ。いや、一般論かな。

 いいことをしているからといって何でも許されたら無法地帯になる。

 物を盗んだから盗み返せなんてやってたら、衛兵なんていらない。

 つまりこの人は私に圧力をかけにきたわけだ。無法集団に手を貸すなってね。


「それでどういったご用件でしょうか?」

「私は衛兵長のティアリア。ここ最近、シェイ達の義賊団の活躍が凄まじいの。衛兵隊を先回りするかのように事件を解決したり、危険とされた魔物討伐までやってね」

「それはすごいですね」

「見たところ、シェイやジルドが装備を新調していたわ。この町で売られているものじゃないし、そうなるとこの店で仕入れたとしか思えない」

「はい、その通りです」


 ティアリアさんがギロリと睨んできた。師匠の元で修行していた時は色々な人達を見てきたけど、この人はなかなかの迫力だ。

 本当に田舎町の衛兵とは思えない。隣にいるメアリンちゃんの目が据わっているし、対抗意識剥き出しだ。


「アルチェちゃん。任せてよ」

「いや、衛兵相手に滅多なことしないでね」

「ちぇー」

「メアリン?」


 意外と戦闘狂か。大人しそうな顔をしてなかなかだよ。 

 それよりこの状況、どうしたものかな。まさかこんなにも早く詰められるとは思わなかった。

 だけどこうなった時のことを想定していないわけじゃない。

 私は組織に所属しないで腕一つで生きていくと決めた錬金術師だ。だったらやることは一つ、この腕で道を切り開く。

 ティアリアさんがカウンタに肘をついで、私に目線を合わせてきた。


「面白いわ。すごくいい」

「は?」


 ティアリアさんの意外な言葉に私の覚悟が挫かれる。

 もし取り調べだの連行をちらつかせてきたら、と思っていただけに脱力した。


「あの義賊団が私が率いる衛兵隊を出し抜くなんてね。あなたが作った装備のおかげだなんて、見過ごせるはずがない」

「つまりどういうことでしょうか?」

「衛兵隊を代表してあなたに依頼するわ。義賊団に負けない装備をお願い」

「具体的には?」

「え?」


 え、じゃないんだよね。シェイさんやジルドさんの時は明確な問題があったから、すぐ仕事ができた。

 だけどこの人の武器や防具を見ても、ほとんど問題がない。不自然に一ヶ所だけ消耗していたりだとか、そんな様子がない。

 ティアリアさんは何を言ってるのとばかりに首を傾げていた。


「だから、シェイ達に負けない装備をお願いしたいの」

「つまり今、あなたが使っているものよりも優れたものでよろしいですか?」

「そうよ。これはウインドソード、悪い剣じゃないんだけどこの私達がシェイに出し抜かれるくらいよ。あっちにはもっといいものを作ってるんでしょう?」

「風の刃を発生させる剣ですよね。それ以上のものとなると、300万ゼルいただきます」

「え?」


 え、じゃないんだよね。ウインドソードみたいに魔法効果がある装備品なんてそう多くない。

 どこでそれを手に入れたか知らないけど、それ以上は高望みもいいところだ。

 ティアリアさんがパチパチと瞬きを繰り返している。


「いやいやいや、おかしいでしょう? あのシェイの時もそのくらいの金額だったの?」

「あの人に作った装備に魔法効果はありません。そんないい武器があるなら十分ですよ」

「じゃあ、なんで私がシェイに勝てないの!」

「知らないし……」


 要するに非合法組織のボスであるシェイさんに対抗心を燃やしているだけだ。

 衛兵隊が暇になるならいいことだろうけど、町の人達からの衛兵隊に対する評判が心配なのはわかる。

 このままお帰りくださいと、せっかくのお客様を帰らせるわけにはいかない。

 ティアリアさんの装備を観察して、一つだけ思いついた。


「ではこうしましょう。今からあなたの装備を軽くします。これならたった13万ゼルでいいですよ」

「か、軽くするだけ? そんなのでシェイに勝てるかしら?」

「それはわかりませんけど見たところ、少し重量オーバーしてます。同時に装備の耐久を少しだけ上げることもできますよ」

「お願いするわっ!」


 ガシッと手を握られた。期待に応えられるようがんばりますか。

 ティアリアさんに上から下まで装備を外してもらってから、クラフト鉱石を用意した。

 やることは単純だ。クラフトゴムを作って肩周りの可動部分の自由度を上げる。

 さらにクラフト鉱石と元の装備を【配合】すれば重量は一気に軽くなり、同時にほんの少しだけグラシオル鉱石を使う。

 魔法の水と掛け合わせて硬度を上げたものを鎧の上からコーディングするようにして【配合】した。

 グラシオル鉱石を上乗せする分、重くなると考えがちだけどクラフト鉱石による重量軽減と関節可動部の自由度が上がったおかげで相対的に軽くなる。

 完成したものはこれだ。

 

名前:グラシオルライトアーマー

使用素材:アイアンアーマー

 魔法の水

 クラフト鉱石

 グラシオル鉱石(小)


「え? は? え?」

「あの?」

「何がどうなってるの!? まさかもう完成したというの!?」

「はい」


 驚くほどのことかな。錬金術なんてよほどのものじゃない限り、一分以内に終わる。

 時間をかければかけるほど【配合】や【分解】の過程で劣化する素材もあるから、時間との戦いでもあるからね。

 錬金術師なら誰しもわかっていることだ。

 ティアリアさんが試着してみると、手を震わせて鎧に触れた。


「か、軽い! 軽すぎる! 空気みたいよ! いい買いものをしたわ!」

「それはどうもありがとうございます! ご満足いただけて嬉しいです!」

「大満足よ! これであの憎たらしいシェイに大きな顔をさせないわ!」


 ティアリアさんが大はしゃぎしているところで店のドアが開く。

 シェイさんが両手に袋を持ってご機嫌だ。


「よう、アルチェ! 暗黒焼きの差し入れだ! 甘くてうまいぞ!」

「それおいしいんですか?」

「ん? そこにいるのはもしかして堅物衛兵長様じゃないか?」


 ティアリアさんとシェイさんの目が合う。途端に何かバチバチと音が聞こえてくる気がした。

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