ブラックリエイト 大口依頼
「ゲーリー君、進捗はどうかね?」
「極めて良好です!」
大手ギルドである我ら【ブラックリエイト】は連日のように大忙しだ。
腕がいい錬金術師を何人も抱えており、どのような依頼がきても即対応できる。
簡単な魔道具であれば下っ端どもをこき使って大量生産させればいい。
ギルド長は我々の仕事ぶりを満足そうに眺めていて機嫌がよかった。
「さすがはブラックリエイトが誇る精鋭達だ。おかげで利益は上々だよ」
「当ギルドの錬金術師は実力ばかりではなく、意識が高い者達ばかりです。私を始めとして、王立学院錬金術科を卒業した者もいますからね」
「やはり学院育ちは違うな。王立学院は選ばれしエリートのみが入学できる神聖な場所なので当然か」
「その通りです。ものにできる知識や技術は一般には伝わっていないものばかりですよ」
子爵家の長男である私も当然、王立学院の卒業生だ。
錬金術師は他職と違い、繊細な技術と膨大な知識が求められる。その辺の学術書を読んだ程度で理解できるわけがない。
そんな偉大な王立学院の卒業生が優遇されるのは当たり前だ。
平民どもはこれを偏りがある制度とのたまうが、私から言わせれば人生など生まれで決まる。
両親、家柄、財力、そして才能。これらを揃えたエリートを国が優遇するのは当然だ。
国とて優秀な人間に優れた魔道具や薬を作ってもらって、市場に流してほしいに決まっている。
そんなことすら理解できん平民どもが、不公平などと叫んでいるのが現状だった。
「うむ、やはり我がブラックリエイトの右に出るギルドは王都には存在せんな」
「王都どころか国中をひっくり返して探しても存在しません」
「君ィ、それはなぜだと思う?」
「決まっているでしょう。ギルド長の人徳あってのものです」
ギルド長がニヤリと笑う。このお方も高貴な血筋を引いておられる。
そうでなければ大手ギルド長に上り詰めるなど不可能だ。
我々が会話しているところに、一人の錬金術師がやってきた。
「ギルド長、ゲーリーさん。三つほど納期が間に合わない依頼があります。先方と相談して納期を伸ばしていただくよう交渉してよろしいですか?」
「どれ、依頼書を見せてみろ。フンッ、なんてことはない。例えばこの植物活性剤百個など、明日まで作れるだろう」
「植物活性剤はギルド内でも作れる者が限られています。それに繊細な技術を必要とされるので一つ辺り、10分はかかってしまいます」
「たかが植物活性剤に10分だと? 貴様、何を言っている」
植物活性剤はトレントの樹液と魔法の水だけで作れる簡単なアイテムだ。
あんなもの、私は王立学院の一年生の時の実習ですでにマスターしている。それを10分だと?
こいつは確か私と同じ王立学院を卒業している後輩だったはずだ。そう思うと腹が立った。
「いえ、あれはシンプルなんですけど結構難しくて……。それにだいぶ前に納品した植物活性剤は質が悪いとクレームがきました。だから今回こそは」
「おい、それでもエリートの一員か? あんなもの、トレントの樹液と魔法の水を配合するだけだろう」
「慎重に配合しないと、あっという間に調和が乱れて粗悪品になります。他の者達も同じ意見です」
「一つにつき10分かかるのなら、百個を十六時間ほどかけてやればいい」
「じゅ、十六時間は無理ですよ! 寝る暇がなくなっちゃいます!」
無能に寝る暇などあるものか。ギルド長も同じ意見のようで、何の助け舟も出す気配がない。
当たり前だ。このギルドに無理という言葉はない。なぜなら無理というのは嘘吐きの言葉だからだ。やり遂げてしまえば無理ではなくなる。
だからこいつらにも無理などと言わせない。
「お客様がその納期を望んでいるのだ。ろくに仕事もできない分際で休むことばかり考えるんじゃないぞ」
「ここ最近はどんどん納期が短くなってます! 次々と短い納期で引き受けたせいで、お客様もどんどん注文するんですよ!」
「当たり前だろうが! お客様の要望に応えてこその一流だ!」
「でも……!」
コホン、と咳払いしたギルド長が無能の肩に手を置く。これ以上は私が出しゃばることもないだろう。
「君ィ、さっきから聞いていれば言い訳ばかりではないか。いいか? 私が若い頃は寝る間も惜しんで仕事をしたものだ」
「さすがに死んじゃいますよ……」
「無理というのは嘘吐きの言葉だ。君もいっぱしの錬金術師なら無理を通せ。実現しろ。まったく、最近の若い奴はすぐに弱音を吐く」
「くっ……!」
ギルド長がパラパラと依頼書を見ている。その中にはとびっきりの大口依頼があった。
依頼主は公爵家のバルトール様で、依頼内容は古時計の修理ということだ。
代々大切にしている古時計ということで、依頼内容自体は大したことがない。
「ゲーリー君。これはさすがに君に任せようではないか」
「そのお言葉を待っておりました! 下っ端の連中になど任せられません!」
「うむ。バルトール公は国王の親戚に当たるお方だ。もし気に入っていただけたのなら、我がギルドを王室に紹介していただけるかもしれん」
「そうなったら我々のギルドは大きく飛躍する!」
さすがはブラックリエイト、ようやくバルトール様の耳に入るようになったか。
思ったよりも早く私の実力を示す時がきた。たかが古時計の修理など造作もない。
それにしてもバルトール様は本当にお目が高いようだ。たかが古時計の修理とはいえ、その辺の三流ギルドには任せられないということか。
そうと決まれば、こうしている時間が惜しい。下っ端には他の仕事を夜通しでやってもらう。
「お前達! とっとと仕事に戻れ!」
「そんな! 朝までやっても終わりませんよ!」
「だったら朝までやれ! 私はバルトール様からの依頼を任されたのだ!」
「無茶です! ただでさえ休みなく働いているんですよ!」
本当にうるさい奴らだ。植物活性剤ごときでよくもここまで騒げるものだな。
こんな連中の相手をしている暇などない。私は古時計の修理に取りかからなければならんのだからな。
いわばこれは私の出世の第一歩だ。王室専属、考えただけで心が躍る。
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