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エピローグ 1

「おらぁ! 王都に着きましたよ!」

「こ、このガキ!」


 私、衛兵隊のルッキは初めての遠征任務を任されました。

 もちろん先輩達が同行してくれたおかげで、旅の支度や道中のトラブルの対処法もバッチリ学びました。

 今はアルチェさんから代金を踏み倒したという悪徳ギルドの二人を王都まで届けたところです。

 初めて見る王都はそれはそれはもう煌びやかで、高価そうな服を着ている人が目立ちます。

 仕事じゃなかったら思いっきり羽を伸ばしたいところですが、今はこのバカ野郎どもを衛兵隊の王都本部に送り届けなければいけません。


「おらぁ! とっとと歩きやがれです!」

「こら! ルッキ! 手荒なことはするな!」

「すみません! 一度、やってみたかったんです!」


 拘束したバカ野郎どもを歩かせて、先輩のおかげで本部に着きました。

 私一人だったら絶対に迷うほど、この王都は広いです。あー、観光したい。

 あの髑髏のネックレスが気になります。悪魔の顔が描かれたマントも魅力的です。

 と、危ない危ない。ああいうものは呪いつきの可能性があるから、迂闊に手に取るなとアルチェさんや先輩達に言われてました。

 私、どうもああいうものに惹かれるみたいです。だって髑髏とか悪魔ってかっこよくないですか?

 なんか強そうじゃないですか? と、言っても誰も同意してくれません。

 そんなんだから呪われるんだと窘められます。


「ここが本部だ。ルッキ、失礼のないようにな」

「は、はい!」


 初めて見る衛兵隊の本部はティルミンドのそれよりも数倍の大きさがあるように見えました。

 本部に務める衛兵の一人が私達に敬礼します。


「この二人、ティルミンドで詐欺行為を行いました。身柄をお預け致します」

「お勤めご苦労様です! 引き渡し、確認しました!」


 ビシッと敬礼する衛兵の男性がかっこよくてたまりません!

 でも私は見た目が子どもっぽいみたいで、ビシッと決めてもあまり決まらないみたいです。

 それとバカ野郎二人が私達を睨み続けてますが、逆恨みはやめてほしいです。

 あんた達がアルチェさんにきちんとお金を払っていれば。あ、忘れるところでした。


「待ってください。アルチェさんからこちらの手紙を二通、預かりました。片方は古時計と一緒にバルトール様に渡してほしいみたいです」

「バルトール様に?」

「それとこちらの袋、アルチェさんから馬鹿野郎……じゃなくてそちらの二人へ渡すよう頼まれました」

「これは金か?」

「手紙もセットですから、絶対に読んでくださいね」


 ゲーリーが手紙を開封して読み始めました。


『ギルド長とゲーリーさんへ。以前はお世話になりました。

ひどい扱いではありましたが三年間、あなた達のギルドに置いていただいたのは事実です。私を雇っていただいたことについて感謝します。

古時計の修理代は特別サービスで三十万ゼルにしておきました。三十万ゼルならあなた達の私物を売ったお金だけで足ります。

更に余った分のお金にプラスして、私からの手切れ金をお送りします。

本当はこんなことするつもりはありませんでしたが、あなた達は私からの勝負を受けました。

おそらくあなた達も錬金術師として譲れないプライドというものがあったのだと思います。

同じ錬金術師として、少し感心しました。

あなた達の中に少しでもプライドが残っているのであれば、私も錬金術師として胸を張って生きられるでしょう。

やはり同業者にクズがいるというのは、あまり心地のいいものではありませんからね。

では今後のあなた達の人生にかすかに花が咲くよう祈っております。アルチェより』


「ひどい手紙だ……」


 ゲーリーが肩を震わせています。鼻をすする音が聞こえましたが、顔は見せてくれません。

 ギルド長は苦い顔をして、何も言いません。衛兵隊の人達もあえて二人が手紙を読むのを止めません。


「アルチェ……」


 ゲーリーがそう呟きました。アルチェさんと過去に何があったのかは詳しくわかりません。

 とりあえず私から言えることはつらいことは忘れてうまいもの食って体を動かしやがれです。

 そうすればストレスなんて吹っ飛ぶんです。特に錬金術師は籠りがちと聞きました。

 たまには外に出ればいいのです。


「ゲーリー君、あの娘は我々が計れるような人間ではなかった。悪夢のような出来事だ。もし、あのアルチェを丁重に扱っていれば、わ、我々のギルドは……」

「ギルド長?」

「ブラックリイトは繁栄したかもしれん! なんてことをォォ……! 逃した魚が大きすぎるぞ!」

「……やめましょう」

「なんだって? 君ィ、なんと言った?」


 ゲーリーがギルド長に向き直りました。不穏な雰囲気なのです。


「私達は負けました。ただそれだけです」

「君ィ! ブラックリエイトは事実上、潰れたも同然なのだぞ! 私の家の名にも泥が塗りたくられている! なにを悠長なことを言っている!」

「それならやり直せばいいでしょう」

「はぁ!?」


 そう言うとゲーリーは黙ってしまったのです。

 ふーむ、ゲーリーが話に聞いていたほどのクズとは思えません。

 あのギルド長はキーキー騒いでますが、ゲーリーはどこか吹っ切れたような顔をしているように見えました。

 まずはうまいものを食って運動するのです。あ、留置所のメシはクソまずかったのを思い出しました。

 研修の時に一度だけ食べさせられましたが、トイレと下水道を足して三で割ったような臭いがしたのです。

 ねっちょりべっちょりぱっさぱさの食感で死ぬかと思ったので、悪いことは絶対にするものじゃないと思ったものです。

 嫌なことを思い出していると、衛兵達が二人を奥へと連れていきました。


「さ、こっちへ来るんだ」

「まともな食事くらいは出るんだろうな?」

「出るぞ。トイレと下水道を足して三で割った臭いがするだけで特に支障はない」

「ま、待て! それは食事なのか!」

「さぁ来るんだ」

「や、やめろぉぉ! 嫌だァーーーーー!」


 もしかしたら二度とやり直せない体になるかもしれません。あの二人の今後に幸あれなのです。

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