アルチェ VS ブラックリエイト 4
「こ、これは、まさか香水?」
ニコルさんが言った通り、私が作ったのは香水だ。もちろん武器でも何でもない。
ニコルさんの要望通りじゃないけど、私はこれが最適解だと思った。
メアリンとルトが目を丸くして、私が手の平に乗せているものを見ている。
「こーすい?」
「アルチェちゃん、なんで香水なの?」
二人の疑問はもっともだ。
ニコルさんだけじゃなく、高らかに勝ち誇っているギルド長とゲーリーのためにも説明しようと思う。
香水のビンの蓋をあけてから、私は液体を首周りにつけた。
「これは魔物避けの香水です。私達、人間には爽やかな香りですが多くの魔物は嫌います。つまりこれをつけているだけで、この森なら突破できるんですよ」
「確かにいい香りだが、これでそんなことが可能になるのかい?」
「ニコルさん。これをつけて森の中に入ってみてください」
「えぇー! そ、それはちょっと……」
そりゃいきなり信用しろというのも無理な話だ。
そうくると思ってシェイさんとティアリアさん、メアリンに護衛を頼んで一緒に森に入ってもらうことにした。
ギルド長とゲーリーも一緒だ。この森はハンターウルフが大量に生息していて、冒険者の間では絶好の狩場になっている。
冒険者としても野草なんかの資源が豊富だから、ここに来る意味は十分あった。
私もメアリンに頼んで、よくこの森で素材を調達してもらっている。
「ギルド長、偶然にも魔物が出現しませんね」
「う、うむ。本当に偶然だな」
森に入って一時間、私達は静かに森を歩いている。
どうしても偶然ということにしたい二人がいるけど、すでにシェイさんとティアリアさんは効果を実感していた。
狩りや戦闘に長けている二人からしたらこんなに長い間、この場所で魔物に襲われないなんてあり得ないとわかっている。
魔物さえ出なければ、のどかな森の中だ。ついでに野草なんかの素材を調達しつつ、散歩を満喫した。
「あぁーーーーー! 空気がおいしいなぁ!」
「ア、アルチェ! 貴様、大声を出して魔物でも呼ぶ気か!」
「だから来ませんよ。そんなに怖いならそろそろ出ます?」
「これは明らかにおかしい! そうだ! たまたま魔物が出ないルートを歩いて……」
「じゃあ、奥まで行きましょう」
私が奥に向かって歩くとゲーリーが大慌てだ。
すでにニコルさんは効果を実感しているみたいで、明らかに表情が違う。
「アルチェさん、すごいよ。そんな香水なんて見たことがない。どういう香水なんだ?」
「聖水をベースにして色々と使ってますね。特に獣系の魔物はフラロルの花の香りを嫌う傾向にあります。更にこの香りを消さないようにクアムの花を……」
「ふむふむ」
名前:魔除けの香水
使用素材:聖水、魔法の水、フラウルの花、クアムの花、ビスの根、ファイアパウダー
効果:魔物を寄せ付けなくする。
私の説明にあくびをかくことなく、ニコルさんがメモをしている。
申し訳ないけどこれと同じものを作るとなると、それなりの技術と高価な素材が必要だ。
でもそこはニコルさんも熟練の商人、説明を聞くうちに自力で作るのは無理だと理解していた。
「クアムの花は一部の山の頂上にしか生えないので、市場では高値で取引されている。素材はもちろんだけど、なんといってもすごいのは君の錬金技術だよ」
「でもこれ一つで適量で使用すれば半年分はもちますよ。旅によっては護衛を雇うよりも安く済むはずです」
「そうだよな。それに護衛からの被害に遭うリスクも減らせる」
「気に入っていただけたのなら、それは差し上げますよ。もしご贔屓にしていただけるなら、お安く提供します」
「本当かい!? じゃあ、さっそく取引の話をしよう」
私とニコルさんが商談に花を咲かせていると、ギルド長とゲーリーが割り込んできた。
真っ赤な顔をして、ゲーリーが私の胸倉を掴もうとしてくる。
「貴様……」
ゲーリーの腕に無数の切り傷が走った。メアリンが剣を抜いた後だ。
「ぎゃああぁぁ!」
「アルチェちゃんに近づくな……!」
「ああぁぁ! 腕、腕が、ひぃぃーー!」
「次は首だよ……」
さすがにメアリンを止めてから、私は痛がってうずくまるゲーリーを見下ろした。
そしてしゃがんでポーションを置く。
ゲーリーが涙目になって私を見たけど、その表情は弱々しい。
もう本当はすべてを理解しているんじゃないかな。この勝負の結果だけじゃなく、自分の実力を。
「ゲーリーさん、うちのメアリンがすみません。しかし私に危害を加えようとしただけで、ここまで怒ってくれる子がいるんです。どういうことか、おわかりですか?」
「し、知るか……」
「私がこの町に来た時に初めて出会ったのがメアリンです。目が見えないこの子に私が作ったメガネを渡したら、ものすごく感謝されました。それからの縁です。ここにいるシェイさんとティアリアさんも同じで、仕事の縁で繋がれたと思っています」
「仕事の、縁……」
ゲーリーがポーションを飲んで傷を癒している。だけど脂汗は引かず、まだ立ち上がれない。
ギルド長なんかは完全に腰を抜かして、木を背にして怯えていた。
「あなたが所属しているブラックリエイトにはこういう縁がありますか? 誰かに感謝されたり、また仕事を頼みたいと言ってくれた人がいたのはいつですか?」
「そ、それは……」
「ブラックリエイトを解雇されても、私は腐らずに自分を信じて仕事をしました。その結果がここにいる人達です。あなたには自分のためにここまでしてくれる人が何人いますか?」
「う、うるさい! 私は子爵家の長男ゲーリーだ! その気になれば縁などいくらでも生まれる!」
ゲーリーが地面に視線を落としたまま、まだ立ち上がらない。体を震わせるほどに悔しがっているように見えた。
ギルド長を視界の端に入れながら、私はニコルさんと向き直る。
ニコルさんもわかっている様子で、先に口を開いた。
「この勝負はアルチェさん、あなたの勝ちだ。武器なんかよりも必要なものを作ってくれたからね。客が本当に必要とするものを見抜いて提供する……それこそが正しい錬金術師の姿だと私は思う」
「ありがとうございます。お褒めいただいた香水共々、ご贔屓いただけたら嬉しいです」
「うん。それとブラックリエイトさんには申し訳ないが……」
ニコルさんがギルド長に視線を向けた。
「王都でのあなた達の噂は聞いている。ひどい評判で、前に実際に作ったアイテムを知り合いに見せてもらったが欠陥だらけだ。一昔前はこうじゃなかったんだろうけどね」
「な、なんですと! そんなはずはありません!」
「私の知り合いが二度とあそこのアイテムは仕入れないと言っていた。リピーターが定着しなければ経営は行き詰る。だからアルチェさんに戻ってこいなんて言うんだろう」
「う、くっ……!」
オドオドと低姿勢だったニコルさんとは思えない。
ここぞと言う時にきちんとした態度で臨むのがプロなんだと思う。
でもそれだけとも思えない雰囲気があった。低姿勢ながらも私達をずっと観察していたからね。
私もギルド長に言いたいことがある。
「ギルド長、私はあなた達のギルドに戻る気はありません。この勝負は私の勝ちなので約束通り、お帰りください」
「そんな……! で、では、呪いつきはどうしろと……」
「呪いつきは私が特別に修理してあげます」
「本当かね!」
がばっと起き上がったギルド長の表情が明るくなった。
「私があなた達にできる最後の仕事です。呪いつきの修理が終わったら二度と私の前に現れないでください。ちなみに修理代は五十万ゼルです」
「ごじゅうまん、だと……?」
私がそう突き放すと、ギルド長がへなへなと座り込んだ。五千万ゼルの百分の一なんだから、少しは喜んでほしい。
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