アルチェ VS ブラックリエイト 3
「私のような素人でも魔物を倒せる武器を作ってほしい」
翌日、ニコルさんが私達に告げたお題だ。ニコルさんは行商人として長年、活動しているけどやっぱり魔物は怖い。
護衛を雇う費用もバカにならない上に、中には悪質な人間がいてお金と荷物を取られてしまったこともあったそうだ。
それを踏まえた上でニコルさんは護衛を雇わなくてもいいように、襲われても自分で危険を排除したいとのこと。
私は少し考えたけど、すぐに快諾したのはギルド長とゲーリーだ。
「なるほど! それはごもっともだ!」
「一晩、考えたんだけど少し無茶だったかな? アハハ……」
「とんでもない! ブラックリエイトの錬金術師である私達にとっては朝飯前だ!」
「そうか、それは頼もしい!」
やたらと得意げなゲーリーが私をちらりと見た。考えている私を見て、勝った気でいるんだと思う。
そりゃ考えるよ。だってこのお題、そもそも根本からして間違っているんだから。あの二人は気づいてないのかな?
シェイさんも気づいてないようで、私を心配するようにして寄ってきた。
「アルチェ、大丈夫かー?」
「うーん……」
「大丈夫じゃなさそーだなー?」
「大丈夫かどうかより、それでいいのかなと思います」
シェイさんはわかってなさそうだ。ニコルさんはたぶん気づいてない。
だけどそれがお題だというなら、私は私なりの答えを提示するだけだ。
私達のところへ調子に乗った二人がやってきて、嫌味ったらしくニヤニヤと笑っている。
「アルチェ。どうだ? 大した経験もないくせにブラックリエイトの主力錬金術師である私を敵に回した気分は?」
「いえ、それはどうでもいいんですけど……」
「ずいぶんと減らず口を叩くようになったな。ブラックリエイトにいた時は私にヘコヘコしていたくせに……」
「そりゃあそこではあなたのほうが立場が上だから当然でしょう。それよりも勝負を引き受けていただけたのは意外でした。あなたにも錬金術師としてのプライドがあるんですね」
「なんだと……?」
ゲーリーは不機嫌になったけど、ほんの少し見直したのは事実だ。
いつも私に仕事を押し付けまくっているような人だったから、てっきり実力がないことを自覚してそうしてるんだと思ってたからね。
こんな人にもわずかにプロとしてのプライドが残っているなら錬金術師界隈も明るい、かな?
シェイさんが手を叩いて私達に注目を促した。
「じゃあ、お前ら! 一週間後に町の外にある広場に集合だ! そこでお互いが作ったものを出し合って評価するからなー!」
正直、一週間も必要ないけどシェイさんが気を使ってくれた。
魔物相手に試さないといけないものだから、町の外じゃないと成り立たない。
シェイさんや非番のティアリアさんが護衛してくれるということで、いよいよ勝負の時がきた。
* * *
一週間後。町の外にある森の近くに私達はいる。ここは比較的、魔物が多いことで知られる場所だ。
シェイさんやティアリアさん達が選んでくれたから間違いない。
ブラックリエイトの二人は自信たっぷりみたいで、すでに完成した武器を手に持っている。
シェイさんが私達の間に立って、勝負を見届けてくれる姿勢を見せてくれた。
「じゃあ、両者とも用意はいいか? 審査方法は二人の武器がどれだけ有用か、実際に魔物相手に試してもらう。もちろん万が一のことを考えて、アタシ達がしっかりと守ってやるからな」
「フンッ! こんなもの勝負にすらならないな! 我々が先に試させてもらう!」
ゲーリー達が我先にと主張している。シェイさんが私に確認をとってから、ブラックリエイト側を先に審査することになった。
どんなものを作ってきたのか、少し興味がある。ゲーリー達がニコルさんに渡したのは短剣だった。
「これは?」
「それはポイズンナイフだ。素人でも扱えるサイズだろう? ナイフにはあのポイズンリザードの毒が仕込まれている」
「ほぉ、一撃で大型の魔物すら毒殺するという猛毒の……?」
「そうだ。つまりほんの少し刃先を当てるだけでいい。力がない子どもでも大人を殺せる代物だぞ」
ゲーリー達が作ってきたのは軽くて扱いやすそうなナイフだ。
へぇ、意外とまともなものを作ってきた。確かにあのナイフなら使い手を選ばない。
私がルトちゃんに作ったヒールナイフとコンセプトが似ている。
だけど残念な部分も多い。あのコンセプトならまだまだクラフト鉱石なんかを使って軽量化できたはずだ。
持った時はなんとも思わなくても、重量というのは使い続けているうちに体に響いてくる。
それに持ち手の部分が無駄に手の形状に合わせて凹凸が多い。あれ、ちゃんとニコルさんの手の形を想定したのかな?
あんな風に、いわゆる余計なお世話になっているアイテムが実は多い。
それと見た限りではグラシオル鉱石を使ったんだと思うけど、それだけならポイズンリザードの毒で少しずつ腐食していくからあまり長持ちはしなさそう。
私なら――と、こんな批評してもしょうがない。要はニコルさんがあれで満足すればいいわけだからね。
「な、なるほど。しかしこれで私でも魔物を倒せますかね……?」
「問題ない。どんな魔物でもかかって――」
ガサリと森から現れたのはハンターウルフだ。しかも数匹。
ニコルさんが悲鳴を上げて震えている。ポイズンナイフを持っているけど、とても振るえる状態じゃない。
「グルルルル……!」
「ほ、ほら! さっそく来たぞ! 試せ!」
「む、むむむ、無茶言わないでくださいよ! 怖くて、手が……」
このお題を出したのはニコルさんだし、これにはさすがのゲーリーも心外だと思う。
だけど魔物がそんな事情を気にするわけない。容赦なく襲いかかってきた。
「ひぃっ!」
「あらよっとぉ!」
シェイさん達、義賊団がハンターウルフを迎え討った。
ものの一分も経たず、ハンターウルフの群れが撃退されるとニコルさんはへなへなと地面に座り込む。
いつもは護衛をつけている人に一人で魔物を討伐しろなんて言ったらそりゃこうなる。
私が言いたかったのはこれだ。
「んー、こりゃポイズンナイフどころじゃないなー?」
「当たり前ですよ、シェイさん。いくら強い武器を持っていても、戦うのは人ですよ。ろくに訓練もしていない人間が魔物と対峙して、恐怖心を消せるわけがないんです」
「だよなぁ。ニコルさん、どうよ?」
どうよと言われてもニコルさんは座り込んだままだ。
私が言い出した勝負だし、巻き込んで申し訳ないと思ってる。
だからせめてものお詫びということで、ブラックリエイトよりはまともなものを作らせてもらった。
「では次、私の番ですね。こちらになります」
「こ、これ、は?」
ニコルさんだけじゃない。シェイさんもなんじゃそりゃみたいな顔をしている。
ブラックリエイトの二人に至っては気持ち悪いくらい笑っていた。
「ク、クククッ! アルチェ! なんだこれは!」
「君ィ、こんなものが武器になるというのかね?」
言いたい放題の二人に向けて剣を何度も抜こうとしているメアリンが、私に耳打ちをしてきた。
「アルチェちゃん。これはなに?」
「まぁまぁ、使い方をこれから説明するからさ」
そう言って私は作ったものを手の平に乗せた。
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