アルチェ VS ブラックリエイト 2
勝負の内容は当然、錬金術だ。この町にいる誰かを連れてきて、その人に欲しいアイテムをお題として私達が錬金術で作るというものだ。
誰を連れてくるかとなれば、公平性を保つために私とゲーリーサイドの両方と面識がない人じゃないといけない。
シェイさんはこの町に住んでいる人ならホクロの数まで知っているらしい。だから最近になって町にやってきた人すら把握している。
「おーい! 連れてきたぞ!」
「は、はぁ。私なんかでいいんでしょうかね?」
「ぜひお願いしますよー!」
「は、はぁ……」
シェイさんが連れてきたのは冴えないおじさんだった。ペコペコしてやたらと私達に頭を下げている。
それを見たゲーリーがさっそく舐めてかかったのか、ギルド長とヒソヒソと何かを話していた。
「ギルド長。見るからに金をもってなさそうな奴が来ましたよ。これなら楽に勝てます」
「うむ、いかにもアイテムの価値なんぞわからなそうだ。君ィ、しっかり勝ってくれたまえよ」
聞こえてるよ、二人とも。そんなことだから客に逃げられてピンチなんじゃ?
私は誰であろうと全力で作るだけだ。そしてシェイさんがおじさんを私達に紹介してくれる。
「この人は最近、この町にやってきた行商人のニコラさんだ。王都からこんな辺境まで渡り歩いて商売をして二十年以上、すごいだろ?」
「いえいえ、そんな大したものじゃありませんよ」
「謙遜しなさんなって! で、ニコラさん。あんたが欲しがっているアイテムを作るのはあいつらさ」
「あ、どうも……」
私達を見たニコラさんはまたペコペコと頭を下げた。うーん、腰が低い。
だけど私にはこの人がただの冴えないおじさんに見えないんだよね。
ペコペコしているけど、私達をしっかり見て観察している。
それに気づいてなさそうなギルド長が偉そうにニコラさんの肩をバシバシ叩いていた。
「私はブラックリエイトのギルド長だ。君も聞いたことあるだろう?」
「あ、はい。王都の……」
「我々に無料でアイテムを作ってもらえるなんて光栄なことだよ。さ、何を作ってほしい」
「いえ、それがまだ決めてないんですよ。というのも……」
ニコラさんがシェイさんをちらりと見る。シェイさんが待ってましたとばかりにニッと笑った。
何か企んでいそう。ほんのりと嫌な予感がした。
「戦いの場はアタシが用意する。アルチェとブラックリエイトには大勢の前で勝負してもらうぜ」
「うへぇ、やっぱり……」
「どうした、アルチェ? 大勢の前じゃ緊張するってか?」
「見世物にするつもりがなかっただけです」
こう見えても私、無免許なんだよ? あまり大っぴらなことはしたくなかったけど、これはチャンスでもある。
大勢の前で私の実力を知ってもらえたら、よりお客様が増えるかもしれない。
シェイさんもたぶんそれを狙っているんだと思う。親指を立てて、いい仕事をした感じでアピールしているからね。
「じゃあ、決まりだな。ニコルさん、欲しいものを明日までに決めてくれ」
「わかったよ。じっくり考えてみよう」
ニコルさんが宿に帰っていく。お題はわからず、か。
ゲーリーとギルド長がニコラを見送った後、私に近づいてきた。ところが――
「ひぃっ!?」
「斬る、斬る、アルチェちゃんに近づいたら、斬るっ……」
「メアリン、さすがに抑えてね」
ギルド長の少ない髪がメアリンに斬られてハラハラと落ちた。
あと一歩、踏み込んでいたら大変なことになっていたと思う。そういえばメアリン、私が事情を話してから頻繁に剣の手入れをしていたっけ。
「な、何なんだね、君ィ! どいつもこいつも!」
「アルチェちゃんをいじめた……いじめた……うるさい、斬る、斬るるる斬る」
「ひぃぃーーー!」
メアリンがいよいよ壊れてきたから一時、別の部屋に移動させた。
このまま暴発したら二人の首が室内に転がることになる。と思ったらシェイさんが拳をバキバキさせているし、ティアリアさんなんか手錠をちらつかせていた。
その手錠は誰にかける予定なんですか。
「ハァ……ハァ……。そういえばアルチェ、お前は免許を持っていなかったはずだろう?」
「それが何か?」
「無免許での商売がバレてしまえば、お前は国によって裁かれる! だがブラックリエイトに戻ってくれば、通報はしないでやろう! どうだ! そうすれば無意味な勝負などしなくてすむ!」
「通報すればいいじゃないですか」
「な、なに?」
私はギルド長に詰め寄る。目を合わせて絶対に逸らさない。
ここにいるのが錬金術師としての先輩だろうと関係ない。
「通報すれば私は裁かれるかもしれません。ですが、それがどうしたんですか? そんなもの覚悟の上でやってるんですよ」
「しょ、正気か……」
「ギルド長。私はあなたみたいにいい身分の親が用意したギルドなんて必要ありません。この腕一つでやっていけます。仮に国を敵に回そうが、どこだって商売しますよ」
「バ、バカな、バカなことを……。国を敵に回して生きていけるものか……」
「生まれながらにして権力を持っている人にはわからないでしょう。私は国や権力には負けません。誰にも負けない錬金術師がここにいると知れば、国だって迂闊に手を出せません」
ギルド長が私から目を逸らして、ゲーリーが歯軋りをして俯いている。
私は踵を返して部屋のドアに向かった。ルトちゃんが慌ててトトトと走ってくる。
「お二人も錬金術師なら見せられるものを見せてください」
私は部屋を出てメアリンを迎えにいった。
今はだいぶ落ち着いたようで、ベッドに腰かけて剣の手入れをしている。
「アルチェちゃん、終わった?」
「うん。今日は帰ろう。明日、ニコルさんからお題を出されると思うよ」
「そう、じゃあ斬りにいくねっ!」
「じゃあ、じゃなくてね」
まったく落ち着いてなかった。子どもと衛兵隊といるのに惨劇を起こそうとしないでほしい。
あの二人に関しては殺したいほど腹が立ったことがないと言えばウソになる。
だからこそ、ここでハッキリさせておきたかった。あの人達は偉そうにするだけの実力があるのかどうか、これでようやくわかる。
文句があるなら実力を見せてみろってね。
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