アルチェ VS ブラックリエイト 1
「お久しぶりですね、ギルド長。ゲーリーさん」
ティアリアさんからこの二人が来ていると聞いた時、直接会うとすぐに決めた。
場所はシェイさんの家で、ギルド長とゲーリーさんが怖い義賊団に囲まれて座っている。
シェイさんなんかテーブルに足を乗せていて、かなり柄が悪い。
「ア、アルチェ! 貴様、今まで何をしていた!」
「おい、口の利き方に気をつけろよ」
「すみませんっ!」
威勢がよかった頃のゲーリーさんはもういない。シェイさんにすっかり怯えて縮こまっていた。
いったい何があったのかな? 怖いねぇ。
「伝言として聞いてますよ。私にギルドに戻ってこいなんてどういうことですか?」
「アルチェ、お前は呪いつきの修理依頼を引き受けたことがあったな?」
「引き受けたというよりゲーリーさんに押し付けられたんですよ。ろくに依頼書も確認せずに私に回しましたね」
「こ、こら! 余計なことを言うな!」
何を慌てているんだろう、と思ったらシェイさんがかかとをテーブルに叩きつけた。
亀裂が入って破片がゲーリーの額に当たる。ゲーリーが震えてシェイさんに頭を下げていた。
私がくるまでのわずかな間にここまで怯えさせるとか何をしたのさ、シェイさん。
「お前、アルチェが仕事をミスしまくったとかアタシに言ったよな? お前のやらかしエピソードが出てきた時点で雲行きが怪しいだけどな?」
「すみませんんん! 私のミスです! 正直に言いましたから許してくださぁい!」
「よし、まずは腕からいっておくか」
「いやぁぁーーー!」
シェイさんがソファーから腰を上げたから私が手で制した。
止めないと本気でやりかねない。ティアリアさんもいることだし、滅多なことはしないでほしいよ。
それに今は私とゲーリー達の話だ。私が意味もなくこんな人達と対話を望むわけがない。本来なら顔も見たくない人達だからね。
「それで改めてゲーリーさんとギルド長。呪いつきがどうかしたんですか?」
「バルトール様から呪いつきの古時計の修理を依頼されてな。アルチェ、お前はどんな手段で呪いつきをどうにかしていた?」
「バルトール様ですか。気難しい方で有名ですからね。まさか修理できずに怒らせたんですか?」
「そ、そんなことよりどうやって修理したのだ!」
はぐらかした。これはかなりひどいことになってそう。
バルトール公爵は国内でも有数の資産家だから、仕事でも何でも繋がりを持ちたい人達がかなり多い。
たとえ相手が大手ギルドだろうと、ほとんどが契約すらできずに追い返されるというのは有名な話だ。
そんな人がブラックリエイトに修理依頼を出すなんて、珍しいと思う。
つまりこの人達はチャンスを自分達から投げ捨てた。
「どうやっても何も普通に呪いをどうにかすればいいんですよ」
「呪いなど錬金術師がどうにかできるはずがない! 誰かに依頼したのだろう! おかげでこちらは修理できなければバルトール様にどんな扱いを受けるか……」
「断ればいいのでは?」
「公爵からの依頼を断れば、我々の名は地に落ちる! あの方はそういう方だ!」
噂には聞いていたけど、そこまで意地悪な人だったか。
でもきちんと礼儀をもって接すれば、そんなことにはならなかったはず。
この人達がなにか失礼なことでもしたんじゃないかな?
「それで私に何をしろと?」
「すべてはお前のせいでもある! 戻ってきて責任をとれ!」
まさかこの人達はこんないちゃもんをつけるために、遥々とやってきたの?
時間とお金の無駄としか思えない。こんなことしてる暇があったら、まずはバルトール様に真摯に謝罪すべきだ。
それができないのは結局、プライドが邪魔をしているから。
でもまぁそんなことだろうと思った。だから私はここにいる。
「それはつまりバルトール様から依頼された呪いつきをどうにかしろということですか?」
「それだけではない! すべては自分の責任だとバルトール様の前で頭を下げろ!」
この様子だと、よほどバルトール様の影響力が強かったのかな。
でもそれだけとは思えない。私がいた頃も無茶な納期で依頼を引き受けていたし、いよいよ仕事が回らなくなってきたんじゃないかな?
私を含めて納期について何度も意見をしたはずなのに、この二人は聞く耳をもたなかった。
自業自得だ。と、切り捨てるならわざわざこの二人に会うためにここにこない。
「わかりました。ブラックリエイトにお世話になった身ですし、考えてあげます」
「本当か!」
「まずはブラックリエイトの立て直しの依頼であれば五千万ゼルいただきます」
「ごせ、は? ごせん、まん?」
「仮にバルトール様の依頼をなんとかしたとしても、すべてが元に戻るわけではありません。立て直しが必要でしょう?」
ギルド長とゲーリーが黙ってしまった。やっぱり図星か。
三年もこき使われていたんだから、この二人が考えてることなんて大体わかる。
「おそらくブラックリエイトはもう沈没寸前でしょう。座礁しすぎて穴だらけになった船の修理が簡単なわけありません」
「し、し、失礼な!」
「あ、もちろん呪いつきの修理依頼込みです。そこは安心してください」
「貴様ァ! そんなもの払えるわけな……がっ!」
キレたシェイさんがゲーリーの首を掴んだ。痛そう。
「さっきから黙って聞いてりゃよぉ……。今更、虫がよすぎるとは思わないのか? 散々な目にあわされたアルチェがお前らを助けてやるって言ってんだぞ? おい?」
「ずみ、ま、ぜ、ん……」
「だったら五千万でも安いくらいだろうが?」
「ごもっとも、でず……」
シェイさんがゲーリーの首から手を離す。ゴホゴホと咳き込んだゲーリーを見て、ギルド長と見知らぬ護衛が青白い顔をしていた。
護衛の人なんか絶対早く帰りたいとか思ってるよ。
「し、しかし、今のブラックリエイトに五千万なんて大金を払える余裕はない……」
「そうだと思います。ですが私は自分の技術を安く売るつもりはありません。ゲーリーさん、あなたはあれだけ偉そうなことを言っておいて、呪いつきをどうにかできなかったんですか?」
「だから、できるわけがない……。錬金術師の仕事ではないだろう」
「そうなんですか?」
私がそう言うと、シェイさんやティアリアさん達が大笑いした。何か変なこと言ったかな?
「ア、アルチェ。呪いつきってのはな、本来はエクソシストギルドに頼むんだ」
「そうだったんですか? 呪いを素材にできない錬金術師は三流だって師匠に教わりましたけど……」
「お前の師匠は何者だよ……」
「名前は知らないですが、すごい人でした」
シェイさん達が言うならそうなんだろうな。でも呪いだって有用な素材だし、これを解呪するなんてとんでもない。
呪いという先入観で便利なものを捨てるなんて、私には考えられないな。
それはともかく、ギルド長とゲーリーに五千万なんて大金を払えるなんて思ってない。
「ギルド長、ゲーリーさん。あなた達は曲がりなりにも錬金術師です。錬金術師として勝負をして、私に勝ったら無料で引き受けますよ」
「なに……? 勝負だと? 正気か?」
「はい。あなた達が私以上に優れた錬金術師なら、あの過酷で劣悪な環境にも少しくらい意味があるのでしょう。どうですか?」
「……話を聞こう」
ゲーリーがニヤリと笑っている。確かに五千万ゼルを払うよりはよっぽど可能性があるかもしれない。
ゲーリーの錬金術師としての実力に自信があるからこそ、チャンスだと思ったんだと思う。
それはそれで少しはこの人に対する見方が変わるかもしれない。だって自分の腕に自信を持つことは悪いことじゃないから。
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