剣士メアリン
「ア、アルチェちゃ……さんの専属にさせてくださいっ!」
「ちゃん付けでいいよ。え? 専属?」
「すごいメガネを貰って嬉しかった、ありがとう。どうしてもお礼がしたくて……。でも、あまりお金がないからメガネのお金は払えないし……せめて護衛なんかできたらいいかなーってね」
聞けばメアリンの両親は他界していて、この子を引き取った叔母達はろくに面倒も見てくれなかった。
そんなメアリンを引き取ったのがとある冒険者パーティ、彼女に剣術を教えて独り立ちさせたみたいだ。
なんだか私と少し似ている。
「冒険者、最初は楽しかったんだけど……。なんだかいやーな人達も多いし、何のためにやってるのかわかんなくなっちゃって……」
「さっきの人達みたいなのが多いの?」
「やっとパーティに入れてくれたんだけど、女だからって私の取り分だけ少なくされたりして。もう嫌だよ……」
「どこの界隈も同じかぁ」
女だから、子どもだから。それはどこの世界にいっても付きまとうものらしい。
だから私は錬金術だけじゃなく、戦う術も学んだ。錬金術で作った力のグミを食べれば、それなりに強くなれる。
錬金術師たるもの、生きる術を作ってこそ一流というのは師匠の教えだ。
メアリンの話を聞きながらまた一つ、グミを食べる。
「それは?」
「ん? 力のグミ、食べると力が強くなるんだよ」
「そ、そんなの、聞いたことないなぁ」
「そうなの? じゃあ、私のオリジナルになるのかな?」
メアリンの顔が引きつってる。
それなりに必要な素材があるから簡単には作れないけど、一つずつ地道に食べ続けて今はさっきの冒険者くらいならどうにかできる。
メアリンが穴が空くほど私を見ているから、かなり珍しかったみたいだ。
「あの冒険者達は三級で、それなりに強いんだよ。アルチェちゃんみたいな錬金術師、見たことない……」
「他の錬金術師は戦えないのかな?」
言われてみれば考えたこともなかった。でもあのゲーリーもこのくらいできるからこそ、威張っていたんだと思う。
自分の身を守れないような人間に錬金術師が務まるわけがない。
少なくとも私は師匠にそう教えられた。錬金術師たるもの、大体は拳で解決せよと口を酸っぱくして師匠が言っていたからね。
「わ、私、やっぱりアルチェちゃんの専属になりたいなぁ……」
「なんで私なの? 会ったばかりなのに?」
「人から何かをしてもらったなんて久しぶりだから、つい嬉しくて……。このメガネ、気に入っちゃったの。それにやっぱり無料というわけにはね。エヘヘ……」
メアリンが光膜のメガネをさすっている。
そんな姿を見て、私はやっぱり錬金術師をやるべきだと思った。
私が諦めていたらメアリンが光膜のメガネを手にすることもなかった。
人に必要とされてこその道具であり、それを作りだすのが錬金術師。免許が取得できないなんてやっぱり些末な問題だ。
「さっきの冒険者達も言ってたけど、冒険者の専属錬金術師なんているの?」
「うん、一流の冒険者パーティの中には専属がいるよ。魔道具が壊れた時も町に立ち寄って修理に出さなくていいからねぇ」
「ふーん。でも私は冒険者の専属になるつもりはないよ」
「あ、そうじゃなくて!」
メアリンが頭を下げてきた。
「私が、その。アルチェちゃんの専属になりたい。例えば私が素材を採ってきたり護衛なんかもできるし……。あ、でもアルチェちゃんに護衛なんかいらないかな? アハハ……」
「そういうことね。でも今の私に人を雇う余裕なんてないから、せっかくだけど保留にさせてほしい」
「アルチェちゃんはお店を持ってないの?」
「ないよ。錬金術師の免許すらないからね」
メアリンが「は?」みたいな顔をしている。こうなった以上は正直に話したほうがいい。
無免許の私と関わってもいいことないから、ここで見切りをつけてもらえるほうがありがたかった。
だけどメアリンが私の肩をガッシリと掴む。
「む、無免許の錬金術師! なんか、か、かっこいいよ!」
「そ、そう?」
「無免許ということはつまりもぐり、闇の錬金術師! 決して世間が認めない凄腕の錬金術師がそこにいる、だよっ!」
「は、はぁ……」
その発想はなかった。かっこいいのかな?
目を輝かせて力説するメアリンにとってはそうなのかもしれない。
「決めた。私、やっぱりアルチェちゃんの専属になる。お金はしばらくの間、いらないからお供をさせてほしいなぁ」
「開店準備も大変だから、手伝ってくれるならぜひお願い」
「わぁい!」
こうしてメアリンが手伝ってくれることになった。
まずこの町に来たばかりの私をサポートしてくれるのはありがたい。
おかげで物件探しがスムーズに進んだ。無料同然の廃墟みたいな物件で解体費用もかかり、持ち主も手放したがっている。
そんな物件がすぐに見つかってよかった。持ち主からは泣いて感謝されたし、よっぽどいらなかったんだろうなぁ。
「ア、アルチェちゃん……。こんなところ、さすがに住めないよぉ」
「住めるようにするだけだよ。まずは腐りかけた柱の修繕だね。この場合は植物活性剤でいいか」
名前:植物活性剤
必要素材:トレントの樹液
魔法の水
「トレントの樹液と魔法の水、配合」
ここに来るまでに目ぼしい素材は予め買ってある。特にトレントの樹液は木材とか、幅広いものに効果があるから便利だ。
二つの素材を【配合】で掛け合わせると、ぐるぐると私の手の中で回る。
魔法の水が水しぶきみたいに散って、トレントの樹液に粒が一つずつ吸収されていく。
「な、なにこれぇ!」
「これが錬金術だよ。さ、仕上げに一度、【分解】」
混ざりあった二つの素材が再び分離した。それからもう一度、配合して掛け合わせる。
「な、なんで?」
「素材によっては一度、お互いを馴染ませないと品質が落ちる。時間が経つと分離しちゃったりとかね」
「初めて聞いたぁ」
「これができてない粗悪品が本当に多くて困るよ。次で今度こそ最後の仕上げ、配合」
再びトレントの樹液と魔法の水が混ざり合って、完成したのは金色の透き通った液体だ。
「ここで忘れちゃいけない、【収納】! こうしないとビンに入らないで全部、床にこぼれるからね」
液体がビンに入っていってようやく完成した。これは死にかけていた植物の細胞を蘇らせて活性化させる薬だ。
さっそく柱や壁に振りかけると、メキメキと音を立てて色が変わる。
ムラがない新品同様の柱や壁に生まれ変わった。床にも同じように振りまいて、ひとまず歩ける状態にしておく。
「あ、あわわわ……。どーなってるのぉ……」
「そこ、穴が空いてるね。もう少し植物活性剤が必要かな?」
追加で植物活性剤を作って振りかけると、穴が空いた板の切れ端部分がピクピクと動いて枝のように伸びた。
みるみると床の板が穴を塞いで、こっちも新品同様になる。一通り、室内の修繕が終わったから、次は掃除をしないと。
「メアリン。掃除、手伝ってくれる?」
「う、うん」
今日は一日中、二人で室内の掃除をした。これが終わったら次は店舗用に改造しなきゃいけない。
間取りを考えて、素材保管庫も確保して。やることはたくさんあった。
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