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病弱のお嬢様 1

 冒険者達が連日のようにパワードリンクを買い求めてやってくる。

 衛兵隊の訓練所での一件以来、冒険者達の間で私の店が有名になったみたいだ。

 なんでもパワードリンクを使ったパーティが、これまで苦戦していたオークウォーリアの集落を壊滅させたらしい。

 飲み口もスッキリしていておいしいという評判も相まって、今は冒険者達の長蛇の列ができている。


「ア、アルチェちゃ~ん……忙しすぎるぅ」

「そっちの列はそうでもないでしょ。ルトちゃんなんかバリバリだよ?」


 ルトちゃんは意外といったら失礼だけど物覚えがいい。

 その上、体力があるから長蛇の列に挫けることなく接客をこなしていた。


「かわいい店員だなぁ。パワードリンク二つもらおうかな」

「二千ゼル!」

「高い……」

「そーば通り!」


 相場と言いたいんだと思う。態度はちょっとよくないけど、相手が子どもだから誰も文句を言わない。

 むしろあの訳のわからない元気さが売りになっているから、売り上げが上がっている。

 パワードリンクの相場は一つ大体四百ゼルだけど、あれは工場で大量生産されている上に質が悪い。

 更に長持ちするように余計な成分てんこ盛りで体によくないから、あの安値で提供できている。

 私の特性パワードリンクの効果はあっちよりも数倍上だし、きちんと保存も利く。

 その分、相場より高めの売値にしたんだけどこの客入りは予想外だ。おかげ様で午前中で完売してしまった。


「ふぃー……もう動けないぃ……」

「メアリンの体力でそれは意外だよ」

「人と話したりお金を受け取ったりして、やることが多すぎるの!」

「それはごめんね。でもたくさん売れたから、お給料は弾むよ」


 ひと休みといったところだけど、また店にお客様が入ってきた。

 冒険者には見えないおじさんがニコリと笑って握手を求めてくる。


「ここが噂の錬金術師の店か。私はジニー、この町で治療院『聖鳥の里』を営んでいる」

「初めまして、アルチェです」


 ジニーと名乗ったおじさんはなんとも頼りない雰囲気だ。

 聖鳥の里はこの町の中でも大手の治療院だから聞いたことがあった。

 こんな腰が低そうなおじさんだけど、それなりの身分で町の有力者の一人ということになる。

 そんな人が何の用なのか、まったく見当がつかない。


「ここで売られているパワードリンクはもう売り切れかい?」

「はい。残念ですが……」

「そうか。いや、それはいいんだ。ぜひ参考にしようと思ったんだが……」

「参考?」


 おじさんを席に座らせるとポツポツと語りだした。

 おじさんには一人娘がいて、昔からあまり体が強くない。だから大切に育ててきたんだけど、最近はベッドに伏せる日々が増えている。

 病気になりやすくてなかなか治らないから、外にもあまり出られなくなっていると話した。

 治癒師であるジニーさんは当然、治療法や治癒魔術に精通しているから色々と方法を考えたみたい。

 だけど解決には至らず、私の店を訪ねてきたそうだ。


「ここで売られているパワードリンクはとてもすごい薬だと聞いてね。そんなものを作る錬金術師がいるならと、一縷の望みをかけてやってきたんだ」

「そういうことでしたか。しかし私は錬金術師なので、ご病気のこととなると難しいですね」

「そうだよね。私も無茶なことを言ってる自覚はある。しかしどうすればいいのかわからないんだ……」


 ジニーさんが頭を抱えてしまった。大切な一人娘を想う気持ちはわかる。

 それにせっかくの大口の依頼だ。何せ相手は町一番の治療院の院長だからね。

 ここで大魚を逃すほど私は甘くない。


「邪魔をして悪かった。それじゃ」

「ああーっと! 引き受けないとは言ってませんよ!」

「え? でも病気のことは難しいって……」

「無理とは言ってません!」


 危ない、危ない。本当のことを言うのも考え物だ。

 ジニーさんを慌てて引き止めてから、私は改めて詳しい話を聞くことにした。

 ジニーさんの娘は昔は今ほどひどくなかったらしい。それどころか普通に走り回っていたそうだ。

 だけど成長するにつれて病弱になっていった。


「大切な一人娘だからね。早くに妻を亡くして男手一つで育ててきた。もし娘に何かあれば、妻に申し訳が立たない」

「ではまず娘さんに会わせていただけますか? もし本当に手に負えないようであれば、きっちりお断りします」

「わかった。それでいいよ」


 ジニーさんの表情が和らいだ。何とかしてあげられたらいいけどな。


                * * *


 店を出て、私達はジニーさんの家に招待された。

 さすが町一番の院長の家らしく、豪邸と呼ぶに相応しい。メイドなんかも雇っていて、家の中は綺麗だ。


「ひっろーい! 走れるっ!」

「だーっしゅ!」

「やめなさい、二人とも」


 メアリンがルトちゃんと一緒になって走り回る勢いだったから止めた。子どもか。いや、片方は子どもだけど。

 そんな二人をジニーさんは笑って許す。ふむ、この父親の人柄に特に問題ないように思える。でも私は十中八九、この人が原因だと考えていた。

 娘の部屋に入ると、ベッドで本を読んでいる女の子がいた。


「タリム、こちら錬金術師のアルチェさんだ。お前の体や病気を何とかしてくれるかもしれん」

「錬金術師? 初めまして、タリムです」


 タリムと名乗った女の子が丁寧に自己紹介をした。

 見たところ私とそう変わらない歳かな? 痩せていて見るからに不健康そうだ。

 ゴホゴホと咳をしたタリムちゃんに、ジニーさんが慌てて背中を撫でる。


「おぉ! タリム! 大丈夫かい! ちゃんと薬を飲んだかい?」

「だ、大丈夫……ゴホッ……」

「あぁ、こんなに弱ってかわいそうに……。あ! 窓が少し空いてるな! これはいかん!」

「ごめんなさい、天気がよかったから外の空気が吸いたくて……」


 ジニーさんがとてつもない勢いをつけて窓を閉めた。

 それからキョロキョロと周囲を見てから、部屋の隅にいた小さい虫を叩き殺す。

 そんな様子を私達が見ていると、ジニーさんは恐縮といった感じで頭を下げた。


「ハァ、ハァ……お見苦しいところを見せてしまいました。娘がこういった状態ですから、つい気になってしまうんです」

「いえ、いいですけど……」

「いけませんね。父親として冷静に振る舞いたいものです」

「はぁ」


 つい生返事をしてしまった。私は今一度、タリムちゃんと部屋の中を観察する。

 タリムちゃんはとても清潔そうで、部屋の中もきちんと整理整頓されていた。

 本棚と机以外のものはほとんどなく、どこか殺風景だ。それにこの妙な匂い。なるほど、わかった。


「アルチェちゃん。なんかあのお父さん、ちょっと怖いかな……」

「一見して優しそうだけどね。たぶん原因はあの人だよ」

「え?」


 私は交渉を決意した。無理なら無理で断るつもりだったけど、これなら何とかなるかもしれない。


「ジニーさん。タリムちゃんの体のことですが、もし解決できたら一千万ゼルいただきます」

「い、いっせんまん!? 冗談だろう!」

「冗談ではありません。このままだとタリムちゃんは長く生きられませんよ」

「本気で言ってるのかい?」


 決してジニーさんが町一番の治療院の院長だからじゃない。

 一人の女の子を救うことというより、私はこのお父さんに対して思い知らせたかった。

 この金額こそがお父さんの罪といっていい。


「本気ですよ。断るというのであればそれでも構いません」

「……わかった。ただし絶対に何とかしてくれるんだね?」

「はい。約束します」


 物分かりがよくて助かる。私はさっそく錬金にとりかかった。

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