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ブラックリエイト 落ち目

「ギルド長、ゲーリーさん。このギルドを辞めさせていただきます」


 ギルド長と談笑していた時、私の後輩に当たる男が辞表を出してきた。

 こいつは何を言ってるんだ? こんなもの受け取るわけがないだろう。

 ギルド長も同じ考えのようで、辞表を手にとるなりビリビリと破いてしまった。


「何を寝ぼけたことを言っているのかね、君ィ。こんなつまらん冗談はいいからとっとと仕事に戻りたまえ」

「今日の仕事分は終わらせました。失礼します」

「待ちたまえと言ってるのだよ!」

「チッ!」


 肩におかれたギルド長の手を後輩が舌打ちをして振り払う。

 その行動に私は呆気に取られてしまった。今までのこいつは私を敬い、つねに従ってきたはずだ。

 ブラックリエイトで働けることを誇りに思うとさえ言っていた。それなのに今、何をした?


「き、君ィ……」

「もうあんた達にはうんざりなんですよ。椅子にふんぞり返ってるだけで何一つ管理しようとしないギルド長。口ばかりで仕事をしない先輩。ここがあんた達の遊び場だってことがよーくわかりました」

「なっ! 無礼な口を利くんじゃない!」

「無礼? それはあんた達が私達……いや。俺達にやってきたことか?」


 もう無礼な態度を隠そうともしない。後輩がギルド長を威圧するように見下ろした。

 こうして並んで立っているとこいつは背丈が高い。ギルド長がかすかにたじろいだ。


「今日まであんた達が何も考えずに引き受けた依頼の納期だってギリッギリ守ってきたんだよ。それなのにあんた達の口からは労いの言葉一つ出なかった。それどころか、もっと早く納品しろだの罵倒してきたよな」

「そ、それは、お前達が遅いからだろう。わ、私が若手だった頃はこのくらい平然とこなしてきた」

「先代があんたを甘やかしたからじゃないのか?」

「先代だと……」


 ギルド長は伯爵家の貴族だ。このギルドは今のギルド長の父にあたる先代が築き上げた。

 ギルド長の目が泳いでいる。クソッ、ここにきて牙をむくとは。

 これは先輩として叱ってやらねばいかんな。


「おい、貴様。調子に乗るなよ。ギルド長はお前ごとき下級貴族の息子が歯向かっていい相手ではない」

「あんたはいつもそうやって俺達を見下してきたよな。中には平民の身分で認められようとがんばっている見習いだっていたのに。あのアルチェとかな」

「アルチェだと? なぜここであのガキが出てくる!」

「あんたがあの子を目の敵にしていたのは知ってるよ。あの若さで大した実力だよな。俺も羨ましいと思ったから、色々と教えてもらった。知らなかったか? 実は皆、あの子に感謝してるんだよ」


 そいつの口から出たのはアルチェの話だ。あのアルチェは見習いとして、先輩が使う素材の選定をこなしていた。

 その選定された素材は一見して疑問に思うものばかりだったが、アルチェが解説したやり方で錬金したら質が向上したというのだ。

 それからはこいつを含めた錬金術師があのアルチェを頼った。

 納品先から感謝の手紙が届いたこともあっただと? ふざけたことを。


「あんたのしょうもないミスの濡れ衣を着せられてアルチェが解雇されたと聞いた時から、いつかこうしてやろうと思った。それでも憧れのブラックリエイトだから、という思いもあった。俺達だってギリギリまで考えたんだよ」

「俺達だと?」

「あぁ、そうだ。皆、入ってくれ」


 ギルド長室に入ってきたのは他の錬金術師や見習い達だ。こいつらまさか裏切る気か?


「俺達は本日で辞めさせてもらう。さっきも言ったが今日までが納期の仕事は終わらせているから、そこは安心してくれ」

「バッ! バカなことを! 許されるわけないだろうが!」

「といっても、残りの仕事なんて大してないだろう。ここ最近になって依頼の数が激減したからな」

「それは……」


 確かに仕事量が激減している。おそらくあのバルトール様が先日の件を情報として流したのだろう。

 たかが一回の失敗で器の小さい真似をする。あんな男が公爵の地位についているから、貴族が舐められるのだ。

 ガラクタみたいな古時計を後生大事にして修理依頼をするほどだからな。しかも呪いつきときた。

 

「というわけで、後はがんばってくれ」

「待てぇ! 誰が辞めていいと」


 一斉に残りの者達が辞表を突きつけてきた。そしてギルド長のデスクに置いて部屋を出ていく。

 残った後輩も冷ややかな視線を俺達に向けた。


「お世話になりました」


 わざとらしく頭を下げてから後輩も姿を消す。静まり返ったギルド長室からは奴らが遠ざかる足音だけが聞こえた。


「……ゲーリー君。アルチェの居場所はわかったのかね?」

「今、レンジャーギルドに依頼して調べさせているところです」

「急がせたまえ。すでにこんな状況だ。あの小娘にすべての責任をとらせる」

「はい!」


 あんなバカどもは勝手に辞めてしまえばいい。だったらあのアルチェだ。

 こうなったら、やはりなんとしてでもあのガキに責任をとってもらう。

 それに人員など代わりはいくらでもいる。この錬金術師一強時代、志望者などすぐに集まるはずだ。

 そう考えてまずはレンジャーギルドに確かめに行こうとした時だった。

 ギルドのポストに一通の手紙が投函されている。開いてみると、そこには吉報が書かれていた。


「ギ、ギルド長! アルチェの居場所がわかりました!」

「なに! 本当かね!」

「はい! なんと今はティルミンドにいるそうです!」

「ティルミンド? あんな辺境の町に?」


 大方、誰にも合わせる顔がないと思って辺境の町へと逃げ込んだのだろう。

 どこかの店で下働きとして働いて食いつないでいるか、はたまた路上生活でもしているか。

 それともあの辞めていったバカどもが言っていたように、錬金術師としての才能があるとでも?

 認めん。絶対に認めん。確かにあのガキのアイディア通りに魔道具を設計してみたが、あれは私の腕がよかったからだ。

 つまり百歩譲って、あのガキには魔道具の設計の才能ならごくわずかにあるということになる。

 そうであれば話は早い。私の元で下働きとして働かせてやらんでもないぞ。


「ギルド長。すぐに旅支度をして向かいます。ついでにあの呪いの古時計も持っていくつもりです」

「うむ、私も行こう。ギルドはしばらく休みだ。どうせ今は依頼などこないのだからな」


 光明が見えてきたぞ。目指すはティルミンド、うまく逃げたつもりかもしれないが絶対に逃がさん。

 アルチェ、お前は私の下なのだからな。

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