昼下がりの女子会
「おい、なんでてめぇがいるんだよ?」
「こっちのセリフよ。誰も呼んでないのになんで来たのよ」
この日はティアリアさんが非番だというので、たまにはお昼を一緒に過ごしている。
場所は町の中にあるカフェで、料理がおいしいと評判だ。それはいいんだけど、シェイさんが加わってしまった。
窓から私達の姿が見えたというのできてみたけど、ティアリアさんには気づかなかったらしい。
だけど引っ込むのも格好悪いと思ったのかな? そのまま意地になって席についてきた。
私、メアリン、ルトちゃん、ティアリアさん、シェイさん。
和やかな時間を過ごせるよう祈っておこうかな。
「こういういい店にお堅い衛兵長がいたら、他の客が入りにくいだろ。何か事件でも起きたのかと勘違いしちまう客が出てくる」
「あなたみたいなのがいるほうが風紀が乱れた店だと誤解されるわ。せっかくのインテリアが台無しよ」
どうしてこうなるかな。お互い、心の底から嫌っているわけじゃない。
こうして顔を合わせると意地を張り合う。だけど二人はそれ以上、互いを罵倒することなく静かになる。
「ま、たまにはお前みたいなのといるのも悪くねぇ」
「奇遇ね。広い客層を受け入れられる店ということが証明されるわ」
ティアリアさんがケーキセット、シェイさんがステーキセットを注文した。
メアリンはステーキセット三人前とオムレツ二人前、ルトちゃんがお子さまランチ。
私はダークネススパゲティ二人前とフライドポテト、サイクロプスパフェ、オレンジドリンクだ。
何も問題なく食事をしようと思った時だった。
「いや、あなたこの前は栄養の偏りがどうとか言ってたわよね!?」
「食いすぎだろ! うちのジルドだってスパゲティ二人前だけで済ませるぞ!」
「私は頭を使うからこのくらい食べていいんですよ」
錬金術師の錬金術に限らない。魔術師も魔術を使う際に魔力を使う。
魔力は体内を巡っていて、消費すればエネルギーが少しずつ消費される。
だから肥満体型の魔術師は滅多にいない。魔術師はすらりとした体型も相まって人気があるのはそのためだ。
ただしメアリンに関しては本当によくわからない。
「アルチェちゃん、おかわりしていい?」
「いいけど自分のお金でね」
魔術を使わないのにこれだけ食べて太らないんだからね。
こういう例外もいるけど、私みたいなのはむしろ食べすぎくらいがちょうどいい。
そういったことを説明したらシェイさんとティアリアさんが羨ましがっている。
「私も魔術を使いたいわぁ……。昔、魔力が全然ないって魔術師ギルドで判定されちゃったのよね」
「アタシなんかエルフなのに魔力がゼロなんだぜ?」
「アルチェちゃんって何者かしら?」
そして私の話題になる。あまり喋りたくないことも多いからちょっと迷うな。
メアリンも空気を察して今まで聞いてこなかった。
どのみち私が無免許なのはティアリアさんにバレているし、今は他の客もいないからちょうどいいか。店員も奥に引っ込んでいる。
私がブラックリエイトを追い出されてこの町に流れ着いたことを小声で説明した。
するとシェイさんが拳を作ってテーブルを叩き割ってしまう。
「なんだ、そいつら! クソじゃねーか!」
「シェイさん、テーブル代はたぶん弁償ですよ」
「あっ……」
気を取り直して、と。皆、食べ終わったからよかったけどさ。
「ブラックリエイトね。アルチェちゃん、あんな大きなギルドにいたのね。王都じゃ知らない人はいないもの」
「ところが中身はとんでもなかったですね……」
「アルチェちゃんの実力を見抜けないなんてバカなのね」
「そうかもしれません」
ティアリアさんの語彙が乏しくなるほど怒ってくれている。
そのティアリアさんがこれなんだから、シェイさんなんかは――
「ちょっと潰しにいってくる」
「落ち着いてください。私はもういいんですよ。あんなところに未練なんかありません」
「だけどこのままじゃやられ損だろ! それに無免許なんていつ摘発されるか……」
「覚悟の上ですよ。それに今はそれが楽しいんです」
止めなかったら本当に席を立ちあがって実行していた。今から王都に殴り込みに行っていた。
私は仕返しなんて考えてない。確かに解雇された時は悔しくて悲しくて腹が立ったけど、熱さのど元過ぎればなんとやらだ。
今は自分の新しい生き方に生き甲斐を感じているし、むしろこっちのほうが幸せだと思っている。
だってこんなにも私のために怒ってくれる人達がいるんだから。
そう、隣で剣を鞘から抜こうとしているメアリンとかさ。
「アルチェちゃんを追い出した、解雇した、ブラックリエイト、斬る、斬る、斬る」
「落ち着いてね?」
「斬ろっ?」
「軽いお誘いでやるようなものじゃないからね?」
メアリンの殺意とは裏腹にルトちゃんだけは黙っていた。
難しい話だから理解できなかったのかな?
「アルチェ、捨てられた……」
「気にしないで。私は元気だよ」
「アルチェ、ルト助けてくれた。ルトに教えてくれた。ルト、アルチェを裏切らない」
「ありがと」
ルトがぴとりとくっついてきた。いつまでも一緒にいると言ってくれているのかな。
ブラックリエイトで濡れ衣を着せられて解雇されてからの私は少し荒んでいたかもしれない。
錬金術師としての仕事を追求するのもいいけど、たまにはこういうのもいいかな。
シンプルな言葉が何より力になる。私はいい弟子をもったかもしれない。
ほっこりしていると隣に座っているメアリンがぴとりとくっついてくる。
「メアリン、何してるの?」
「メアリン、アルチェちゃんを裏切らない」
いや、ルトの口調を真似てくっつかれても。
そんな様子をシェイさんがケラケラと笑う。ティアリアさんもクスクスと笑う。
気がつけば私の周りにはいろんな人達がいる。私が錬金術師を諦めていたら存在しなかった縁だ。
良い仕事は良い縁を結ぶ。師匠がそんなことを言ってたのを思い出す。
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