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アルチェ健康法 3

 一週間後、衛兵隊の訓練所に皆が集まった。もちろん体の見た目に変化はない。

 衛兵や冒険者は普通の人よりも体を酷使するから少しいじって専用のメニューにしてあるけど、それだけだ。

 さっそく結果を聞こうかな。もしこの人達が約束を守らずに乱れた食生活をしていたら、またやり直しだ。

 だって話が進まないからね。何度でもやり直してもらう。


「皆さん、調子はどうです?」

「身体の変化はよくわからないが、一週間前よりお腹がすかなくなったよ」

「俺もだ。いや、腹は減るんだがスルーできるというか……」

「確かに今も少し空腹感はある。でも、前みたいに何かつまんで食べたい衝動にかられないんだよな」


 結果は成功だ。誰より一番驚いているのはティアリアさんだった。

 ということはこの人も食生活が乱れていた人間の一人ということになる。


「アルチェちゃん。どういうこと?」

「簡単ですよ。生きる上で必要な成分だけを適切に摂取してもらっただけです。皆さんが好きな食べ物は栄養が偏っているので、一時的に満腹感を得られてもすぐにお腹が空きます。要はまだ必要なエネルギーが足りないと体が言ってるんです」

「そうだったのね。ケーキ屋さんでホールケーキを一つ食べてもすぐにお腹が空くわけだわ」

「今すぐその食生活を投げ捨ててください。死にますよ」


 このティアリアさん、実は甘党だと最近知った。シェイさんが前に言ってたっけ。

 非番の時にはケーキ屋さんの前ですごく悩んでいたとか。そして誘惑に勝てずにフラフラと店に吸い込まれてしまう。

 よくない、よくないよ。

 

「甘いものは別腹なんて言いますけど、単に新しい刺激がほしくなっただけですね。そして余分なエネルギーを摂取し続けて早死にします」

「そこまで言う!?」

「言いますよ。ティアリアさん、部下に良いこと言ってたんですから模範を示してください」

「反省するわ……」


 まだ大したこと言ってないのになんだか皆、静かだ。

 でも以前の食生活を続けていたらせっかく魔物との戦いに勝って生き残っても長生きできない。

 特にガムブルアみたいな体になったらもう手遅れだ。あれは放っておいてもそのうち何らかの病気になって死んでいた。


「でもさぁ、アルチェちゃん。ポリポリ……私、そんなに気を使ってなかったけど空腹感も疲労感も感じないよ? ポリポリ……」

「メアリンはたぶん特異体質だからね。でも今みたいにお菓子をポリポリ食べるのは皆の目に毒だからやめてね」

「はぁい。ポリポリ……」


 この子は他の人間と明らかに違う。英雄に拾われて育てられたというだけじゃ説明がつかない強さだもの。

 だからこそ護衛をしてもらっているんだけどね。


「皆さん、他に何か変わったことはありませんか?」

「仕事が終わった後の疲労感もあまりつらくないし、夜は快適に眠れるよ」

「そうでしょう。ティアリアさんが言っていた通り、食事一つで体の調子が変わります。戦いで生き残る確率もグッと上がったはずです」

「そういえば昨日、初めてフレアリザードを討伐できたんだよな……」


 衛兵隊だけじゃなく、冒険者達が強くなればそれだけ平和が保たれる。

 これもティアリアさんが言った通りだ。


「開拓時代を含めて、昔の兵士や冒険者達は今よりも食べるものがなかったはずなのに戦い抜いてきました。それはしっかりと必要な栄養を摂取できていたからでしょう。今はそういった人達のおかげでおいしいものが手軽に食べられる時代になったので、必然的に皆さんの食生活が乱れたんですね」

「反省するよ……」

「その辺、ルッキちゃんなんかはわかっていたみたいです。まだ新人ですが体作りを考えて適切な食事をとっているんでしょうね」

「若いのにしっかりしてるよ」


 ルッキちゃんがえっへんと胸を張っている。変な呪いつきを売られて騙されるような迂闊さはあるけど、しっかり強くなると思う。


「先輩! 私の食事は鳥の胸肉と卵! あとは野菜をたくさん食べます!」

「だから一人だけ張り切って立っていられたのか。てっきり若いからとか思ってたなぁ」


 唯一、この子だけは食事改善の必要がなかった。

 ルッキちゃんを含めて、どうやら食事の重要性を理解したみたいだから次に進もう。


「メリットはそれだけじゃありません。ポーションなんかの回復薬を無駄に買わずに済みます。怪我が減ったら出費を抑えられますからね。

それとパワードリンク、一時的に腕力が上がるアイテムですね。あれらのアイテムの効果が上がります」

「本当か! あれは高いがいざという時に便利なんだよなぁ」

「体がしっかり作られているからこそ、効果も上がるんですよ。ただし多くのものは余分な成分が入っていて、あまりよろしくないですけどね」

「なに! そうなのか!」


 よし、ここからが本番だ。皆、きっちり私を信頼してくれている。

 私は持ってきたボックスを開いた。そこには大量のドリンクが入っている。


「これは?」

「私が作ったパワードリンクです。余計な成分は入ってませんし、きちんと体作りをした皆さんなら体への悪影響はありません」


 私のパワードリンクは理想的な食生活で改善された体を持っている人前提に作ってある。

 不摂生している人にはあまり効果がない可能性があるからこそ、これまでの話が活きてくるわけだ。


「それとこちらのマナポーションもお勧めです。一般で売られているマナポーションと違って、並みの人間なら失った魔力をほぼ全回復できますよ」

「色が濃い! これはすごそうだ!」

「それなりに素材や製法を考えてますからね。大手ギルドの工場で作られた大量生産の粗悪品とは違います」

「ひ、一ついくらだ!」


 衛兵達や冒険者が群がってきた。よしよし。これだよ、これ。

 こんなもの、無名の私が店頭に黙って並べただけじゃ絶対に売れないからね。

 この人達に買って使ってもらうことで一気に話題が広がる。

 本当は別に健康的じゃなくても体への悪影響なんてほとんどない。ただし効果がより上がるのは事実だ。


「ア、アルチェちゃん。最初からこのつもりだったでしょー……」

「当たり前だよ。そうじゃなきゃたった五万で引き受けないよ」

「うわぁ、うわぁ……商魂たくましぃ……」

「腕一つでやっていかなきゃいけないからこそ真剣なんだよ。ギルドで働いているだけで給料がもらえるような身分じゃないからね」


 メアリンは引いてるけど、ルトちゃんはしっかりとメモをとっている。

 さすが私の弟子だ。こういう子が将来、大成するに違いない。人間、向上心をなくしたら終わりだからね。

 感心していたところでティアリアさんが私の隣に立っていた。なんでしょう?


「アルチェちゃん、今回は見逃すけどね。あまりやりすぎると……その。わかるでしょ?」

「……はい」


 そう、ここは衛兵隊の訓練場だ。それを考えると、私の仕事はまさに命がけと言える。

 目が笑ってないよ、ティアリアさん。

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