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アルチェ健康法 2

「栄養なんてこれ一つで問題ないぜ」


 私やメアリン、ティアリアさん達衛兵隊の前に冒険者達が差し出したもの。

 それは普通に売られている栄養剤だ。最近は固形にして飲みやすくしているのもあると聞いている。

 これが自信の源泉か。ううん、よくない。よくないよ。


「これを飲めば、一日に必要な栄養がすべて摂取できる。俺達、冒険者は体が資本だからな」

「それとこれもいいぜ。ドラゴンエナジー、飲むと疲労が吹っ飛ぶんだ」

「ちょっと高いけどな。いい世の中になったよな」


 冒険者達が和気藹々と栄養剤やドラゴンエナジーについて語り合っている。

 ティアリアさんは意外な伏兵の登場に言葉に困っている様子だ。

 衛兵隊の人達も、そんな便利なものがあるならといった雰囲気で冒険者達に混じって話を聞いている。

 よくない。よくないよ。私がズンズンと歩いて割って入っていく。


「それはダメですよ。実は栄養素なんてほとんど入ってません」

「なんだって? 君は?」

「冒険者の方々は初めまして。錬金術師のアルチェです。一日に必要な栄養素が一粒で賄えるなんて言ってますけど、一日どころかほとんど意味ありません」

「そんなことないだろ! あの大手ギルド【レイリー製薬】だぞ!」


 この国でも大人気の大手ギルドか。それなら騙される人が多いのもしょうがない。

 詐欺とまでは言わないけど多くの商品を見たところ、ほとんどが誇大宣伝だ。

 冒険者だけじゃなく一般庶民にも大人気商品だけど、おそらく効果がないと気づいている人はあまりいない。

 だけど人気の冒険者や貴族を広告塔に使ってるから人気がある。

 そう、大手ギルドだから効いているに違いないという安心感のせいだ。


「確かそのギルド、王都でよく試供品を配っていましたよね?」

「そうだ。それを飲んでいたら確かに体の調子がよかったよ」

「では今は試供品じゃないんですよね? どうです?」

「調子がいいに決まってるだろ」

「本当ですか? 絶対ですか?」


 私が問い詰めると冒険者が黙った。とりあえず飲んでいたのがよくわかる。しかも決して安くないはずだ。

 論より証拠、実際に見せたほうがわかりやすい。私は栄養剤を【分解】した。

 そうすると様々な色の粉がまばらに私の手の平に散る。それぞれごく少量で、残りは白色の粉のみだ。

 これになぜか驚いたのはティアリアさんだ。


「ア、アルチェちゃん。そんなこともできるの?」

「【分解】ですか?」

「薬を完全に元の成分に分解できる錬金術師なんて王都にもいなかったから……」

「そうなんですか?」


 他の錬金術師は知らないけど、やろうと思えばポーションなんかのアイテムを成分ごとに分解して素材だけもらうこともできる。

 錬金術師たるもの、いかなるアイテムも素材とせよとは師匠の弁だ。

 一方で冒険者達が分解された成分に目を丸くしている。


「え? なんだこれ? なんかイメージと違うな?」

「これがそれぞれの栄養素です。鉄分やビタミン、たんぱく質などです。どうです? これを見て本当に一日分の栄養素として足りてると思いますか?」

「いやー……。少ないように見える」

「そうです。これがこの栄養剤の正体です。残りの白色の粉は人工の甘味成分です」

「甘味成分!?」


 冒険者だけじゃなく全員が声を上げた。


「人工の甘味成分は安価で簡単に作れるので重宝されています。飲みやすいように仕込んでるんですね。だからなんか効いてる感が得られるんですよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! でも試供品でもらった奴も全部!?」

「試供品はもう少しだけきっちり作っているでしょうね。それで一度、効果があると思い込んでもらえたら後は買ってくれますからね」

「栄養素が全然足りてない上に甘味成分でごまかされていたのか……」


 冒険者達が愕然としている。落ち込んでいるところ申し訳ないけど、もう一つはドラゴンエナジーだ。

 私にしてみたら、こっちのほうが悪質だ。


「ドラゴンエナジーはもっとひどいですよ。疲労が吹っ飛ぶなんて宣伝してますけど実際は疲労を感じる神経系統を麻痺されているだけです。

ただしそれだけだと苦くて飲めたものじゃないので大量の甘味成分を入れてごまかしています。それに成分の中にはあまり大量摂取すると命に関わるものもあります」

「命に関わるって……」

「これを飲みすぎて亡くなった人もいるんですよ。私からすれば、こんなものを恥を感じることなく金儲けのためだけに売り出しているギルドに嫌悪します」

「そ、そういえば最近は飲んでもあまり疲れがとれないような……」


 さっきまで栄養剤を信じていた冒険者達が急に自信をなくしていた。

 冒険者達は日々討伐依頼なんかに身を投じているからこそ、こんなものに踊らされないでほしい。

 体の調子一つで命を左右するんだからティアリアさんの言う通り、きちんと体作りをするべきだ。

 せっかくだし、とことん付き合いましょう。だけどその前に大切な話がある。


「ティアリアさん。依頼の報酬なんですけど、冒険者の人達も含めて五万ゼルでいいですよ」

「え? たった五万ゼルでいいの?」

「今回は何かを作るわけじゃありませんからね。それにこれで問題が解決してくれたら、町の平和がより守られるじゃないですか」

「そう、そうよね。それなら交渉成立ということで頼むわ。またとんでもない額だったらさすがに断ろうかと思ってた」


 ティアリアさんが心の底からホッとした。

 まずやらなきゃいけないことの一つとして、皆の食生活の確認だ。

 衛兵隊、そして冒険者達の一日の食事を聞かせてもらった。その結果、どっちもあまりよくない。まず冒険者の人達だ。


「外食とお酒が多いですね。討伐成功のたびに酒場で盛り上がっているのが原因です」

「でも腹が減るからなぁ」

「あのお店の料理はおいしいですけど、栄養はあまりないんですよ。油ばかりで栄養が偏ります」

「でもそんなこと言ったら何も食べられないだろ」


 次に衛兵隊の人達だ。こっちも冒険者達と大差ない。夜勤明けの解放感のせいで、つい食べすぎている。

 これで大体わかった。後は少しだけアドバイスするだけ。


「では皆さん、今から私が提案する食事メニューを一週間だけ続けてください」


 錬金術師の仕事として適切かなとは思うけど、料理だって考えようによっては錬金術の一つだ。

 皆、真剣に聞き入っている。よし、いいよいいよ。これが成功したら、次はいよいよアレを売る。

 うまくいけば私のお仕事の幅が広がるチャンスだ。たった五万ゼルだけもらって満足する私ではないのだ。


「アルチェちゃん、なんか悪い顔してる?」

「き、気のせいだよ」


 メアリン、なかなか勘が鋭い。

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