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アルチェ健康法 1

「ティアリアさん。ポーションセットをお持ちしました」

「あら、ご苦労様。そこに置いてくれる?」

「ルトが置く!」


 衛兵隊からポーションセット製作の依頼が入ったから、張り切って仕事をさせてもらった。

 ルトちゃんが頑張って助手をやってくれていて、それが微笑ましい。

 まだあまり大したことはさせられていないけど、少しずつ教えていくつもりだ。


「皆さん、精が出ますね」

「えぇ、いつ何がきてもいいようにみっちり鍛えているわ」


 場所は衛兵隊の訓練場で、今日はメアリンが直々に衛兵達を鍛えている。

 今日は冒険者達と合同訓練をするということだけど、まだ来ていないみたいだ。

 衛兵二十人抜きというとてつもない無双劇を見ながら、私はベンチに座った。


「それにしてもポーションに関してはそんなに高くないのね。一つ十万ゼルとか要求されると思ったわ」

「そんな人を守銭奴みたいに言わないでくださいよ。衛兵隊にはお世話になってますし、このくらい引き受けますよ」

「それでも相場の二倍近いお値段だけどね」

「それぞれの体質に合わせて錬金するのでしょうがないです」


 実は本当はもう少しだけ値上げしたかったけど、何せ相手は衛兵隊だ。

 先日の獣人騒動の件をスルーしてもらってグレー、私自身なんかブラックだもの。

 お互い何も言わないけどそこは暗黙の了解というやつで、私も無言の配慮を利かせている。

 気持ち安くする程度だけど、ティアリアさんもまた何も言わない。

 それにティアリアさんのほうが気を利かせて足りない素材を持ってきてくれたから仕事がやりやすかった。


「メアリンちゃん、ものすごく強いわね。部下の訓練は手を抜いてないはずだけど、誰も敵わないなんて自信なくしちゃうわ」

「ティアリアさんから見てメアリンの実力は冒険者でどのくらいですか?」

「一級にもなかなかいないんじゃないかしら? なんであんな子が視力を失うほどの怪我をしたのか不思議よ」

「あれは少し厄介です。私も苦労してますね」


 メアリンの視力を戻すにはなかなかの素材が必要だ。

 お金をかけて手に入るものならいいんだけど、ほぼ幻の素材みたいなのが必要になっている。

 師匠ならどうするかなとぼんやり考えているけど、あの人ならちゃちゃっと治しちゃいそうな気がした。


「アルチェちゃん、衛兵隊全抜き達成したよー!」

「メアリン、あまり心を折らないでね」

「あ、またルッキちゃんが立ち上がってくるなぁ」


 さっきから新人のルッキちゃんがゾンビみたいに何度でも立ち上がっていた。

 見ているだけでもう休めばいいのにと思える。私は戦いは疲れるから嫌いだし、訓練なんか絶対に真似できない。

 またメアリンがルッキちゃんを瞬殺した後、ティアリアさんが剣を抜いて立つ。


「全抜きとは聞き捨てならないわね。まだここに一人いるでしょ?」

「ティアリアさん、よろしく……お願いしますッ!」


 二人の模擬戦が始まった。剣同士が重く響き合って、戦いの激しさを物語っている。

 一進一退の攻防でどちらか勝つかまったく予想がつかない。

 そんな二人の戦いをいつしか衛兵隊の人達が見守っていた。


「すげぇ……」

「はい、ティアリア隊長と互角に戦える人間なんて初めて見ました!」


 ルッキちゃんと衛兵の会話を聞いて一つ疑問が生まれた。私が二人の間に入ると、ぎょっとして驚かせてしまう。


「わっひゃい!」

「いや、びびりすぎ。ティアリアさんってシェイさんと戦ったことないの?」

「うーん、お互いがそういうの避けてるように見えますね」

「立場上、戦わないようにしているわけね」


 二人の戦いに終わる気配がないと思った矢先、互いの剣が眼前に突きつけられる。

 その瞬間に二人は剣を収めた。


「まいりました……」

「いえ、私の負けよ。わずかにあなたのほうが早かった」

「いえ、ティアリアさんのほうが早かったです」

「いえ、あなたのほうが早かったわ」


 もう引き分けでいいでしょ。ティアリアさんがベンチに座ってきて、タオルで汗をぬぐう。

 それから衛兵隊の人達を見渡して、ふぅとため息を吐いた。


「私を含めて課題が見えたわね」

「すまない! 遅くなった!」


 冒険者達がゾロゾロとやってくる。ティアリアさんによれば冒険者も良い協力者とのことで、希望者がいれば合同訓練を行っているらしい。

 ティアリアさんが笑顔で迎えて、冒険者達と握手をする。


「もう始めてるみたいだな」

「いえ、まだまだウォーミングアップよ」


 ティアリアさんの発言に衛兵隊の人達からかすかな悲鳴が上がった。

 まだやるのかよという雰囲気だ。これに対してティアリアさんがキッと睨む。


「これでへばっているのがまさに今後の課題よ、あなた達。スタミナがなさすぎなの」

「スタミナ?」

「えぇ、ちょっと模擬戦をしたくらいでだらしないってこと。だからこそ今日はアルチェちゃんを呼んだのよ」

「アルチェさんを……?」


 そこでなんで私に繋がるのかまったくわからない。

 皆も同じ考えみたいで、ティアリアさんに対してリアクションができていなかった。

 ティアリアさんは唯一、ルッキちゃんを認めるようにして隣に立って肩に手を置く。


「その証拠にルッキはまだまだやれるみたいよ。その違いが何かわかる?」

「気合いですね!」

「ルッキは黙ってて」

「えぇー?」

「答えは食事よ」


 意外な答えだ。衛兵隊や冒険者達だって困惑しているのに私にそんなものどうしろと。


「ここ最近、衛兵隊の食生活が乱れていると感じているの。間食はもちろん、外食に偏り過ぎているのも原因ね」

「そ、それが関係あるんですか?」

「あるわ。現にルッキは異常なまでに健康志向で食べるものも気を使っている。現に新人なのにあなた達の訓練についていけてるじゃない」

「確かに……。でもそうだとして、どう改善すればいいのでしょうか?」


 ティアリアさんは答えることなく、私のところへきた。

 錬金術師の私にそんなものを依頼されてもちょっと困る。

 でも考えようによっては料理も錬金術と同じだ。素材と調理方法を組み合わせて料理が完成する。

 ティアリアさんの言わんとしてることがなんとなくわかった。


「アルチェちゃん。皆の食生活を改善できる食事メニューを考えてほしいの」

「食事メニューというか、私のやり方に従ってもらう方向性でいいですか?」

「任せるわ。それで報酬のほうなんだけど……」

「それなら問題ないぜ!」


 冒険者達が元気よく制してきた。そして道具袋から取り出したのが小さな丸い薬だ。

 やけに得意げに出してきたその薬がなんなのか、私にはわかってしまった。

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