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弟子ができました

 ガムブルアが何者かに殺された事件から数日後、私はルトちゃんの両親と会った。

 ルトが世話になったこと、前に住んでいた森から移住すること。その際にルトを預かってほしいとのこと。

 自分達がやったことを考えれば決して許されることじゃないから、せめてここから離れようと考えたみたいだ。

 仲間がたくさん殺された場所から離れたいという思いもあると思う。

 それに万が一、事件の尾を引いてルトちゃんが巻き込まれることを懸念していたのもあるのかな?

 当のルトちゃんは両親と離れてまで、私の店でお手伝いをしたいらしい。

 私は構わないけど、シェイさんが熱烈に頭を下げてきたのが意外だった。


「両親と離れ離れになる気持ちはアタシもよくわかるんだ」

「シェイさんも?」

「まぁアタシの場合は捨てられたんだけどな。肌が黒い上に魔法が使えないエルフなんて異端もいいところだ」

「そうだったんですか……」


 エルフは魔力に恵まれた種族だけど、シェイさんは魔力がまったくない状態で生まれた。

 更に肌が浅黒いせいでエルフの里から追い出されたらしい。

 それ以来、一人で泥水でも何でもすすって生きて何度も死にかけたと話してくれた。

 幼いシェイさんが一人でも生きられたのは、魔力のかわりに身体能力に恵まれたからだ。

 本来は魔力に割り振られるものが身体能力に割り振られたんじゃないかとシェイさんは笑う。


「義賊団の奴らも似たようなものさ。ほとんどが親の顔すら知らない奴らばかりだ」

「私と同じですね。ずっと孤児でしたので、なんだか親近感を感じます」

「お前もそうだったのか……」

「逆境から這い上がった人が偉いわけじゃありませんけど、そういう人にしか得られないものはあると思います。シェイさんを見てるとなんとなくわかります」


 私も親の顔を知らない。

 物心がついた時には孤児院にいたし、一緒に住んでいる子どもともあまり馴染めなかった。

 だからずっとゴミ箱やゴミ捨て場からガラクタを拾ってきては一人で組み立てて遊んでいたな。

 特にいじめられることもなかったのは、周囲から不気味な奴と思われていたからかもしれない。

 そんな私を師匠は珍しがっていたっけ。


「お前なぁ。褒めても条件は取り消さねーぞ?」

「義賊団の装備新調の件でしたら進んでますよ」

「アタシとジルドの装備を見て、どいつもこいつも羨ましがってなぁ」

「それはやりがいがありますね」


 私の仕事ぶりを見て、そう思ってくれるならありがたい。

 ちょっと大変だけど喜んで納品させてもらいますか。


「じゃあ、ルトをよろしくな。何かあったら喜んで協力するからよ」

「はい、ありがとうございます」


 シェイさんが店から出ていった後、ルトちゃんがぽつんと残された。

 きょろきょろと店の中を見てからタタタと走り出して、棚の素材に手を伸ばす。


「コラッ! 勝手に触っちゃダメ!」

「でもルト、早くアルチェみたいな錬金術師になりたい!」

「ちゃんと順番に教えるからね。いい? 私の言うことをちゃんと聞くんだよ」

「おう!」


 元気があってよろしい。それにしてもこんなにも早く私に弟子ができるなんてね。

 師匠が聞いたら十年早いなんて言うかな。独り立ちを認めてはくれたけど、私は今でもあの人に敵う気がしない。

 私も師匠かぁ、と意気込んだところで妙な気配を感じた。


「メアリン? どうしたの?」

「アルチェちゃん、私というものがありながら弟子をとるなんて……」

「メアリンって弟子枠だっけ?」

「錬金術を教えてくれる約束だったはずだよっ!」


 いや、教えようとしたけど最速二十秒くらいで眠り始めるのはどの子だっけ?

 私としては用心棒的な役割でいてもらっていたんだけどな。

 そこでルトちゃんがニンマリと笑い、メアリンがムッとした顔をしている。


「ルトの勝ち!」

「ルトちゃん、言っておくけどね。ここの仕事はそんなに甘くないよ?」


 メアリンの仕事は買い出しや素材の調達、私の護衛だ。

 まさかとは思うけど錬金術師の製作現場に携わっている気でいるなら、それこそ甘く見るなと言いたい。

 でもそんな口出しができる状況じゃない。

 メアリンとルトちゃんが火花を散らしている気がしたから。


「アルチェちゃんの錬金術はそこらのものとは違うからね。素材の選定から製造まで、すべてに拘りがあるんだよ」

「ほー?」

「例えばこのグラシオル鉱石、これはね。魔法の水と掛け合わせるのが基本なの」

「なぜ?」

「なぜって……」


 そこで沈黙するんじゃない、メアリン先輩。しかも本を取り出して必死に調べなくてもいいからね。

 もうマウントを取れるチャンスは逃してるからね。

 そもそも魔法の水を掛け合わせるやり方はどの本にも書いてない。

 これは師匠がオリジナルで生み出したやり方だ。


「まぁ、そうすることで素材が馴染むんだよ」

「なぜ?」

「なぜって……」


 ループしないで。子どものなぜなぜ攻撃に追いつめられている十五歳の女の子がそこにいる。

 もう埒が明かないのでメアリンから本を取り上げた。


「アルチェちゃん、一番弟子としてがんばるから見捨てないで……」

「じゃあまず人の話を聞いてる最中に寝ないこと」

「だってぇ」

「だってぇじゃないんだよね。今日からルトちゃんにはバシバシ教えていくから、負けたくないならがんばらないとダメだよ……と言いたいところだけど」


 メアリンとルトちゃん二人を見て私は真剣に話す。


「メアリンには私を守ってくれるだけで嬉しいよ。ルトちゃんはこれからがんばって錬金術を学んでね。この二つに差なんてないんだからさ」

「アルチェちゃん……」

「ルト、がんばる!」


 いい感じで収まったかな? これで妙な対抗意識をなくしてくれたなら嬉しい。

 メアリンがルトちゃんに手を差し出して握手を求めた。


「ルトちゃん。私、護衛としてアルチェちゃんに貢献するからね。生半可な仕事じゃとても貢献できないよ?」

「ルトを甘く見るな! 貢献しまくる!」


 違う。そうじゃない。なんで貢献合戦になるのさ。

 どちらにも優劣はないと言いたかったんだけど、また火花が散りつつある。

 私は二人の師匠をやらなくちゃいけないのかな?

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