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小さな依頼人の殺意 3

「そろそろワシは寝る。手筈通り、警備は任せたぞ」


 警備の者にそう言いつけた後、ワシは寝る準備を始めた。先日のハンティングは実に楽しかったが、思ったより素早くて数を狩れなくて不満である。

 とあるルートで入手したこの魔道銃は引き金を引けば簡単に殺せる優れものだ。

 こいつの免許をとるためにどれだけの大金をかけたことか。こんな立派な国家資格を習得できたのは、一重に才能あってのものだろう。

 剣や魔法は扱えないが、これならば得意なのだ。狙ってドン! たったこれだけで死ぬ。

 これがまた気持ちがいいのなんの、一度やれば誰でも病みつきになること間違いなしだ。


「獣人どもめ。来るならこい」


 ハンティングを楽しんだまではよかったが、狩り損ねた獣人どもの報復がちと怖い。

 冷静になって意外とまずいと思わないこともなかった。警備の者を雇ってはいるものの、それだけでは不安だ。

 そこで聞きつけたのがこの町で一番ではないかと噂される錬金術師の話だった。

 国が密かに追っていたブラインの話は聞いたことがあったが、まさかこんな辺境に潜伏していたとは驚きだ。

 奴らは呪いの武器や防具、装飾品を集めて貯め込んでいたから正規軍も迂闊に手が出せなかったと聞く。

 そのブラインをこの町の衛兵隊と義賊団の共同戦線で片づけたというだけでも信じられん話だ。

 その勝利を支えたのが一人の錬金術師、何でも呪いつきの武器や防具を完封したというではないか。

 まったくもって信じられんがその錬金術師は衛兵長の武器や防具を手がけており、おかげで検挙率が倍増したというのだ。

 更に義賊団のボスと手下に作った装備は他では見られないほどの優れものだと、町の者達が噂しておる。

 フン、こんな田舎に錬金術師ギルドなどないから余計に珍しいのだろう。

 そう思いつつ、ワシは例の錬金術師にダメ元で仕事を依頼したのだ。実際に会ってみれば、年端もいかない小娘だった。

 しかし、ワシにはあれがただの錬金術師とは思えん。


「魔道銃を突きつけられて、なぜあそこまで平静でいられる?」


 ワシはこれまで商談を進める上で、頑固な者には魔道銃を突きつけたことがあった。

 どれほどの修羅場をくぐり抜けた豪商と呼ばれた者だろうと、さすがに命の危機を感じれば動揺する。

 冷や汗をかきながら最後にはワシとの商談をいい形で終えるのだ。

 ところがあの小娘、冷や汗をかくどころか笑っていた。どれほどの修羅場をくぐり抜ければ、あの状況で笑える?

 これまで色々な錬金術師と顔を合わせたが、あんな小娘は初めてだ。

 なぜ魔道銃を突きつけているワシが冷や汗をかかねばならん?

 屈辱だったが、あれはいい仕事をした。実際のところ、腕はどうなのかといえば――


「納品されたアレの性能は確かだ。口だけではないことを証明した」


 納品されたトラップ用の魔道具は凄まじかった。

 シャンデリアに似た魔道具で、その下を通り過ぎればトラップが発動するのだ。

 縄が射出されてわずか一秒とかからずに侵入者を捕えてしまう。しかもこの縄がなんとかという素材で作られており、斬ろうが叩こうがまったくビクともしない。

 当然、引きちぎるなど不可能だ。納品の際に試運転してもらったが、私が雇っている屈強な警備の者ですら出ることは敵わなかったのだからな。

 こちらから解放する際の手順も実演して説明させたので、もう完璧としか言いようがない。

 あの小娘、見た目に似合わずいい仕事をする。それだけに惜しいな。

 あれほどの腕があれば王都で引く手も数多だろうに、なぜよりによってこんな辺境で店を構えているのだ?

 まぁそんなことはいいか。獣人の襲撃を防いだ後は今度こそワシの手中に収めてやろう。

 あの時は少しばかりびびったが、修羅場をくぐった数ならばワシのほうが上だ。一歩引いて商談に持ち込めば後は容易い。

 考えれば考えるほど、明日を迎えるのが楽しみになってきた。今日は魔道具のおかげで安心して眠れる。

 今日は静かな夜だ。足音一つ聞こえない。ん? 足音一つ?


「さすがに警備の者の足音くらい聞こえるだろう?」


 思わずそう呟いてしまう。先ほどの警備の男はちゃんと仕事をしているのか?

 もしさぼっているならクビだ。まったくけしからんな。と、ベッドから起き上がろうとした時だった。

 ドアがすぅっと開いて何者かが入ってくる。


「だ、誰だ!」


 明かりを消しているので姿までは確認できない。そいつはヒタヒタと寄ってきたと思ったら突然、ワシに向けて走り出した。


「ひぃっ!?」

「あぅ!」


 そいつがワシの元へ辿りつくことはなかった。シャンデリアに偽装した魔道具トラップが発動したのだ。

 縄袋に捕らえられたそいつがジタバタともがいている。ワシは落ち着いて明かりをつけた。


「フゥン! お前は獣人のガキか!」

「ガムブルアァァーーーー! 殺す! 殺してやる!」


 なるほど、そういうことか。獣人のガキが敵討ちにやってきたというわけだ。

 まさかこんなガキが一人でやってくるとは思わなかったぞ。


「他に仲間はいないのか?」

「うるせー! 殺す!」

「フゥン、残念だったな。貴様らごときの浅知恵など見抜いていた。一丁前に武器など持っているが、そこからは出られんぞ」

「うううぅー! うー!」


 あがいたところで無駄だ。この縄袋は元一級冒険者をやっていた警備の者ですら斬れなかったのだ。

 更に魔法耐性もあるようで、耐魔術師用としても使えると言っていたな。

 まったくあのがめついクソガキの錬金術師め。憎たらしいが本当にいい仕事をする。さて、このガキをどうしてくれようか?


「フゥン! 貴様は身の程知らずにもワシの命を狙った! その代償は高くつくぞ!」

「お前、ルトの仲間を殺した!」

「貴様らのようなケダモノと高貴なワシの魂が同じ価値なわけがなかろう?」

「高貴違う! お前、汚れてる! 薄汚い!」


 まったく口が減らないガキだ。これだから野蛮な獣人など魔物と変わらん。

 こいつらが魔物と認定されない世の中はおかしい。こんなものは人間様に奴隷として使われてやったほうがいい。

 ワシのような考えを持つ人間は少なくないはずだ。それなのにどこの国も獣人を受け入れておる。

 下らん。実に下らん。考えれば考えるほど腹が立ってきた。


「フゥン! よく喋るその舌から切り落としてやろうか!」

「ううぅ!」

「あがいたところで無駄だ!」

「うがーーーー!」

「な、に!?」


 突然、縄が切断された。飛び出してきた獣人のガキがワシに向けて深々と何かを突き刺す。


「うぅ、あぁ、あぁぁ……!」

「殺す! 殺す!」

「ワシ、が、刺され、た……!」

「うあぁぁーーー!」


 一刺しされた後、二回目の刃がワシの腹に刺さった。

 立っていられずに倒れ込んだワシをガキが見下ろしている。

 バカな。痛い。血が、流れ出てくる。


「はぁ、はぁ……うう……ワシが、ワシが、こんなガキに……」

「死ねーーーー!」

「はい、そこまで」


 ガキがワシに止めを刺そうと刃を振り下ろそうとした時だ。

 聞き覚えがある声が聞こえてきたと同時に部屋に誰か入ってきた。


「ルトちゃん、さすがにそれ以上は死んじゃうよ」

「でも!」

「約束でしょ?」

「う……」


 ワシがトラップ魔道具を依頼したあの錬金術師のガキだ。なぜここにいる?


「アルチェ、勝手に先に進むなよ」

「すみません、シェイさん。思ったより早く事が進んじゃいました」


 更に部屋に入ってきたのは褐色の女エルフだ。他にも複数人の男達がゾロゾロを姿を現わす。

 なんだ? 何が起こっている?

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