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小さな依頼人の殺意 2

「フゥン! お前が噂の錬金術師か。こんな子どもとはな」


 ルトちゃんの武器を作って話をつけた翌日、タイムリーなことにガムブルアの別荘に招待された。

 別荘といっても屋敷と呼んで差し支えない規模の建物だ。

 丸々と太ったガムブルアがハマキを吹かせてソファーに腰を沈めている。

 私は貴族というものに偏見を持ったことはないんだけど、これはなかなか個性的な見た目だ。


「噂、ですか」

「フゥン! なんでもブラインという犯罪組織壊滅に一役買ったそうではないか。特にあの美人隊長の武器や防具を新調したらしいな?」

「はい。ティアリアさんにはご贔屓いただいております」

「そうか、そうか。ではワシも仕事ぶりを見てから贔屓させてもらおうか」


 丸い顔と黒い眉毛、髭。目つきはねっちょりとしていてあまり感じはよくない。

 別荘なのに応接室があるのも驚く。それとあのハマキ、吸うのやめてくれないかな?

 招かれている身だから黙ってるけど、こっちの健康被害も考えてほしい。

 いや、獣人の命を粗末にするような外道だもの。そんなのお構いなしか。


「ところでどういったご依頼でしょうか?」

「フゥン、用というのは他でもない。最近、ワシはハンティングに凝っていてな。いや、なに。こういう身分であるからストレスが溜まるのだ」

「はぁ」

「だからストレス解消の一環でやっておったのだがな。狩り損ねた連中がワシを殺しにくるかもしれん。そこで、だ。奴らを撃退する魔道具を製作してもらいたいのだ」


 驚いた。本当にひっくり返るかと思った。

 自分から大量虐殺しておいて、いざ狙われる立場になるとこの小心者っぷり。

 正式な免許を習得しないと所有すら許されない魔道銃を持っておきながら、何に怯える必要があるの?

 魔道銃以上に撃退できる魔道具なんかあるの? これが理解できなかった。


「撃退する魔道具ですか。魔道銃以上のものをご希望されると?」

「フゥン、そうではない。ワシが求めているのはいわゆるトラップだ。こういう立場になると恨まれることも多い。だから優秀なトラップがあれば王都の屋敷にも持ち帰りたいのだ」

「トラップ魔道具ですか。なかなか難しい注文ですね」

「そこを何とかするのが腕の見せ所だろう?」


 それはその通りなのだけど、このおじさんに言われると腹立つ。

 一方的に狩りにいく分には意気揚々としているけど、狩られるのは嫌ときている。

 でもこういう人間だからこそ、商売人として成功したのかもしれない。

 蹴落としてきた人なんて一人や二人じゃすまないように思えるし、そんな状況で貴族になった。

 応接室内には見せつけるように色々な宝石が飾られている。これこそがワシだと言わんばかりだ。


「一つ、疑問なのですがここは別荘なんですよね?」

「そうだ。それがどうかしたのか?」

「でしたら獣人に狙われないよう、王都にある屋敷にお帰りになられたほうがいいのでは?」

「フゥン! バカを言うな! ここで尻を見せて逃げるなどみっともない! むしろやってきた奴らを捕えて、逆に奴隷として売り飛ばしてやる!」


 怯えてトラップまで用意しておきながら、なんだか半端な心意気だ。

 シェイさんなら迷うことなく自分から向かっていきそう。こんな汚いおじさんと比べたらシェイさんに失礼か。

 ふと隣に座っているメアリンを見ると、隠さず険しい表情だ。気持ちはわかるけど一応、商談だからね。


「わかりました。ご依頼のほうでしたら引き受けさせていただきます」

「そうか! では前金だが五十万ゼルを用意しよう!」

「いえ、七百万ゼルいただきます」

「なっ! はぁ!?」


 ガムブルアがブハッと口を開いてハマキを落とした。

 前金で五十万を渡した時点で、私が驚くと思ったんじゃないかな。

 残念だけど本当に希望通りの魔道具を作ってほしいなら、このくらいの金額になる。

 驚いたガムブルアの顔がみるみると紅潮していく。


「フゥンッ! 貴様! 小娘だから物の相場もわからんのか! たかがトラップ魔道具でそこまでするわけがない!」

「相手は身体能力が高い獣人ですよ。ガムブルアさんが狩った時は不意打ちだからあっちも後手に回ったんです。ですが今度はあっちから襲ってくるとしたら、狩りの時のようにはいきませんよ」

「そ、それはそうかもしれんが七百万はぼったくりだ!」

「ガムブルアさんが狩りと称して狩った獣人はトキャ族です。獣人の中でも特に素早く、夜間でも目が利きます。何らかの手段で明かりを消されたら、屈強な人間の警備も突破されるでしょうね」


 ガムブルアがぐぬぬと悔しがっている。ルト達、トキャ族はこと狩りに関しては他の追随を許さない。

 ネコ科の獣人は貧弱に見られがちだけど、実は敵に回すとなかなか厄介だとメアリンから聞いている。

 そう、ガムブルアは猫の尾どころか虎の尾を踏んでいた。


「し、しかしだな! 七百万は高すぎる!」

「わかりました。ではこの話はなかったことに」

「まぁぁてぇぇ! 誰も払わんとは言ってない! 七百万なら確実に奴らを撃退できるのだな!?」

「はい。ご希望でしたら捕える方向性で考えましょう」


 ガムブルアが悔しがりながら、使用人にお金が入った袋を持ってこさせた。

 これには確かに七百万ゼルが入っている。


「こちら、確かに受け取りました」

「いいか! 絶対に奴らを捕えろ! これが成功したらお前をワシの専属として雇ってやる!」

「それはお断りします」

「なに! 今、なんと言った!」

「お断りしますと言ったのです。私は誰にも雇われる気はありません」


 コケにされたと感じたガムブルアはガウンローブの懐から小型の魔道銃を取り出した。

 メタリックな質感の銃口を向けられて、なるほどこれがそうかと感心する。あの引き金を引けば私の頭くらい吹っ飛ぶわけだ。


「口の利き方に気をつけろよ、小娘。本来はこうして強引に作らせてもいいくらいだ」

「お話は以上でよろしいでしょうか? これから店に戻って仕事をさせていただきます」

「なっ! こ、これが怖くないというのか!」

「この町の衛兵隊は優秀ですからね。なんたってあのブラインを壊滅させた人達です。すぐに駆けつけますよ」


 クッと漏らしたガムブルアが魔道銃をまた懐に納めた。

 まぁあの引き金を引くよりも先にメアリンの剣のほうが早いと思う。

 剣の柄に手をかけたメアリンの表情は真剣だ。


「さ、メアリン。帰ろうか」

「うん」


 帰り際、メアリンがガムブルアを睨むと太った体がビクリと震えた。

 道具一つで強くなった気でいるみたいだけど、しょせんは圧倒的優位な状況でしかあの引き金は引けない。

 腕一つで生きていくと決めた私の覚悟を甘く見ないでほしい。

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