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立場や肩書きの意味とは?

「アルチェちゃん、遅くまでごめんなさいね」

「いえ、いい収穫になりました」


 ブラインのアジトから帰った後、私は衛兵隊の詰め所で押収した呪いつきの詳細を確かめていた。

 そしたら出るわ出るわ、よくもまぁこれだけ集めたものだと思うほどの数の呪いつき。

 一つずつ【抽出】して素材としてまとめていたら、夜遅い時間になった。

 ティアリアさんのほうはブラインの構成員達を尋問したり、アジト内の調査でだいぶ時間がかかったみたいだ。


「ブラインのボスであるアジフはずっとあなたのことを気にしていたわ。あんな錬金術師がいるわけないってね」

「まだ言ってるんですか。錬金術師がひ弱な非戦闘職だなんて昔の話ですよ」

「でも、あなたほどの錬金術師なんて見たことないわ。ねぇ、師匠はいるの?」

「いますよ。でも名前はわかりません。最後まで師匠としか呼ばせませんでしたからね」


 あの人は今頃、どこで何をしているのかなとたまに思う。

 孤児院にいた時、訪ねてきた師匠は私を見るなり弟子になれと言ってきた。

 意味が分からないまま連れ出されて、修行の日々が始まって。

 きつかったけど不思議と錬金術というものに私は自然とのめり込んでいった。でも名前は最後まで教えてくれなかったな。

 聞いてもはぐらかされるか、自分のことは師匠と呼べとしか言わなかった。


「それは怪しいわね……。もぐりの錬金術師かもしれないわ」

「も、もぐりですか?」

「割といるみたいなのよ。ただ錬金術師は今やあらゆる生産職の上位互換で国からも重宝されているわ。だからたとえ無免許でも本腰を入れて連行しない」

「そうだったんですか……」


 師匠がもぐりの可能性は否定できない。

 一度も錬金術師の免許を見せてくれなかったし、色々なところを連れまわされて一つの場所に定住しなかった。

 あれだけの腕があるのになんで店やギルドを持たないんだろうと思っていたけど、もぐりなら説明がつく。

 ふとティアリアさんが私の顔を覗き込んでいた。


「な、なんですか?」

「もぐりと聞いて、ずいぶんと動揺してたみたいだけど?」

「気のせいですよ。ティアリアさんが意外なことを言うからです」

「そう? 少し目を逸らしていたけど?」


 なに、この人。もしかして疑ってる?

 別に恩着せがましく協力してやったなんて言うつもりはないし、連行するというならこっちも考えがある。

 ティアリアさんは私を見据えて、詰め所の椅子に座った。


「アルチェちゃん、無免許よね?」

「……いつから気づいていたんですか?」

「最初に店に来た時からね。私が衛兵長とわかった時、かすかに瞼が動いていたわ。アルチェちゃん、動揺すると目に表れるみたいね」

「さすがですね」


 最初から泳がされていたわけだ。やろうと思えばいつでも連行できたということか。

 ティアリアさんを恨むつもりなんてない。無免許の私に何を弁解できるかという話だ。

 でも、だからといってお縄になるつもりはない。

 私が警戒するとティアリアさんはプッと噴き出した。


「アルチェちゃん、あなたを捕まえる気はないわ」

「いいんですか?」

「あなたを本気で連行するなら衛兵隊総出の仕事よ。ブラインのボスを一瞬で完封するほどの子だもの」

「買い被りすぎですよ」


 ティアリアさんが椅子から立ち上がって壁を見つめた。急にどうしたんだろう?


「助けられておいて捕まえるほど落ちぶれてないわ」

「衛兵長の立場としては間違ってないと思いますよ」

「衛兵長、ね。立場や肩書きってそんなに大切かしら? あなたの無免許にしても、そう。資格なんかで実力や信頼なんかわかるわけないわ」

「でも、資格がないと仕事ができませんよ」

「そういうことじゃなくてね」


 ティアリアさんは腰に身に着けているポーチから正規軍の証を取り出した。

 それこそがティアリアさんを衛兵長たらしめる証だ。それをなくしたら誰もこの人を衛兵長とは認めない。

 私が錬金術師と認められないのと同じだ。


「昔、騎士団にいた時にね。嫌な上官がいたの。そいつの部隊にいた私は事あるごとにいびられたわ。私が女の身でありながら、騎士なのが気に入らなかったんでしょうね」

「……なんかそういうのわかります」

「念願の騎士になれた私はそんなのに負けてられるかと身を粉にして働いたわ。ある日、そんな私の働きが認められて次期部隊長候補として名が挙がったの。

私は舞い上がった。だけど、とある任務で部隊は半壊した。原因はあの上官の判断ミスよ。どういうわけかあの男は私が勝手な行動をとったと上に報告したの」


 ティアリアさんの話に私は相槌すら打てなかった。語るティアリアさんの顔の影がやけに暗く見える。

 この話が本当なら責任は上官である部隊長がとるべきだ。だけど、そうはならないんだろうな。

 何せ私自身が先輩のゲーリーにはめられてここにいるんだから。それでも私はごく当たり前のことを聞かなきゃいけない。


「その部隊長の責任にならなかったんですか?」

「上官である部隊長は貴族家の息子、私は平民からの叩き上げ。私をよく思っていなかったのは部隊長だけじゃなかったみたいね」

「そんな! それじゃ隠蔽じゃないですか!」

「天候が大荒れだったから引き返したほうがいいと言ったのだけどね。女が指図するなと怒鳴られたわ」


 その結果が何人もの命を失わせてしまった。ティアリアさんが言わんとしていることが何となくわかる。

 さっきまでの立場や肩書きの話ときて、ティアリアさん自身もそんなものに意味はないと思っているんじゃないかな。


「実績があっても勝るのは貴族の息子、部隊長という立場よ。私は騎士団を追放されて衛兵隊へ左遷された挙句、こんな田舎町にまで飛ばされてしまった」

「ひどすぎる……」

「義賊団への苛立ちも、私の八つ当たりみたいなものかもしれないわ。どうしてもあの非合法集団を部隊長のあの男と比べてしまう」

「でもシェイさんとその部隊長は違うってわかっているんですよね」

「騎士への未練を捨てきれていないのかもね。私は衛兵隊で終わるような人間じゃないなんて、安いプライドが残っているかも……」


 ティアリアさんは衛兵長の証をポーチへ入れた。

 夜の詰め所で帰り支度をする中、ティアリアさんの話について考える。

 ブライン討伐に同行した私から見たティアリアさんはそれでもプロとして仕事をこなしていた。

 錬金術師と衛兵、道は違うけど私も自分の仕事に誇りを持っている。ティアリアさんは何一つ恥じるような人間じゃない。

 一度、転んでもきちんと起きてプロとしての誇りを失わずに前へ進んでいる。そんなティアリアさんを私は尊敬した。


「じゃあね、アルチェちゃん。遅くまでありがとう。おやすみ」

「ティアリアさんも今日はゆっくり休んでくださいね」


 ティアリアさんのおかげで私はまだこの町で仕事ができる。

 ティアリアさんへの感謝を忘れず、私は寝ていたメアリンを起こして夜道を歩いた。

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