裏社会の組織ブライン 1
「ちょっとごめんよ」
雨がシトシトと降る中、店にやってきたのは黒いシルクハットをかぶったおじさんだ。
紳士服を着て全身黒ずくめ、見るからに怪しそうだけどお客様なら誰であろうと関係ない。私は笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」
「いやぁ、ひどい雨だね。上着だけでも乾かしてもらっていいかい?」
「はい。構いませんよ」
おじさんの上着をハンガーにかけさせてやると、ふーっと息を吐く。
落ち着いたと思ったら、鳥みたいに鋭い目つきを向けてきた。
「ありがとよ。で、アルチェというのは君かい?」
「はい。どこで私の話を?」
「町で噂になってるよ。なんでも呪いのアイテムをどうにかしちまったとかでな」
「噂になってたんだ……」
義賊団に続いて衛兵隊での仕事ぶりが噂になっているわけか。
でも錬金術師なら呪いのアイテムくらいどうにかできると思うけどな?
少なくともあのゲーリーは私に呪いつきのアイテムを押し付けてきたから、朝飯前なんだと思う。
あの態度を考えれば、呪いのアイテムなんて簡単に対処できるということだ。
錬金術師ギルドにはそういうものが持ち込まれることがあるから、呪いの対処くらいできないと仕事にならない。
少なくとも私の師匠はそう言ってた。
「いやぁ、驚いたね。特にあの魔人面は取り扱いも難しかったというのに、まさかどこぞの錬金術師の女の子がなんとかしたってんだからな」
「あの魔人面ってまさか、ルッキちゃんが持っていた装備品ですか?」
「最高の防御力と耐性を誇るって言ったら二つ返事で買ってくれたよ。純粋でかわいいねぇ」
「あなた、まさか……」
雷が鳴った時、おじさんの顔が光で照らされた。気持ち悪い笑みを浮かべている。
もしかして、そっち系の人かな? だとしても、お客様として来店したのであればまだ問題ない。
「まさか、だとしたら?」
「いえ、ご用件はなんでしょうか?」
「そうそう、それだよ。今日はお願いがあって来たんだ。これを見てくれ」
「この剣は……呪いつきですか」
おじさんがニヤリと笑って私の問いに肯定した。なんとなく見えてきたかもしれない。
何も知らない女の子に売りつけた呪いの装備品が錬金術師によって対処されたなんて知ったら、どうするか。
手持ちの呪いのアイテムの解呪くらい頼んできてもおかしくない。
でもこの町にだって錬金術師ギルドはあるだろうに、解呪なんてそっちで頼めばいいものを。
「こいつは血吸いの剣、使い手の血まで奪っちまう曰く付きの剣さ。威力は凄まじいんだがね。あ、おじさんは平気さ。鞘に納めて持ち運んでいるうちはなんともない」
「この剣の呪いを解いてほしいということですか?」
「あぁ、頼めるかい?」
「そうですね。これは魔人面より強力な呪いですので、五百万ゼルいただきます」
クハハハとおじさんが笑った。何がおかしいんだろう?
「数万くらいなら手を打とうと思ったんだがね。まさか五百万とはね」
「納得していただけないようでしたらお引き取りください」
「かわいい顔して意外とえげつないな? 誤解させて悪かった。おじさんがやりたかったのはこうさ」
「刃物がどうかしたんですか?」
おじさんが私にナイフを突きつけてきた。つまり従わないなら殺すということだ。
たかが呪いのアイテム一つでそこまでするかと思う。しかもここには専属の護衛がいることも忘れてもらったら困る。
おじさんのナイフはメアリンの剣で弾かれた。
「なっ!?」
「アルチェちゃん、どうする?」
メアリンの剣がおじさんの喉元に突きつけられていた。
おじさんが悔しそうに顔を歪めて、飛ばされてしまったナイフを未練がましく見ている。
「衛兵隊に突き出すよ」
「おっと、話を最後まで聞かないのはよくないな。脅したのは悪かったが、お嬢ちゃんにとっても悪い話じゃない」
「一応、聞こうか?」
「俺達の組織の専属にならないか? こんな店で五百万もふっかけるよりは稼げると思うぞ」
「血吸いの剣の呪いに五百万ゼルの価値もないと思うような組織なんでしょ? 見る目がないからお断りするよ」
おじさんが脂汗を流しながら必死に交渉してくるけど話にならない。
どういう組織なのかは知らないけど、私はどこにも雇われる気なんてないんだ。
俺達の組織の専属にならないかだって? 経営実態も不明な組織に誘われるほど私はバカじゃない。
ブラックリエイトで懲りたからね。
「いいのかな? 外にはおじさんの仲間が何人か待機しているんだ。俺に何かあれば、店に火をつけていいと指示している」
「店に火を?」
「俺達をそこらのギルドだと思ったか? 甘いな、お嬢ちゃ」
私の拳がおじさんの頬に直撃した。床に殴り倒した後、店の外に出る。
降りしきる雨の中、外に数人の人影があった。全員、黒ずくめのフードを被っていて顔がよく見えない。
「はぁ……。私の店に火をつけようって?」
「アルチェちゃん。あのおじさんはぶん殴って気絶させてから拘束したよ。あとはこの人達だよね? 任せて」
「お願い」
黒ずくめ達が一斉に襲いかかってきた。それぞれナイフや剣といった武器を持ち、巧みに操る。
二人同時に斬りかかるけど、メアリンの剣の一振りで胴体から鮮血が飛び散った。
「ぐぁっ!」
「うぅ……!」
「隙だらけだよー!」
続けて向かってきた二人の刃をメアリンが剣で弾く。
あのメガネのおかげで、とんでもない化け物が爆誕してしまった。いや、元々ここまで強かったんだろうけどさ。
黒ずくめの一人がメアリンの剣で腕を切り落とされて、最後の一人が怖気づいている。
「つ、強すぎる……! 何者だ!」
「アルチェちゃんの専属護衛だよ」
「たかが錬金術師の護衛がこんなに強いわけない! 傭兵として戦場で何人も殺してきた俺がここまで追いつめられるなんてありえないんだよ!」
「たかが錬金術師?」
メアリンの雰囲気が変わった。黒ずくめもゾクリときたみたいで、小さい悲鳴を上げて後ずさる。
「錬金術師のこと……アルチェちゃんのこと何も知らないくせに、なにさ、たかがって……」
「う、う、なんだ、こいつ……!」
「アルチェちゃんは本当にすごいんだよ? 謝って、ねぇアルチェちゃんに謝って? 謝って、謝って、謝って、謝って」
「うああぁぁぁ!」
黒ずくめが背を向けて逃げ出そうとしたと同時に、ザックリと斬られた。
雨水が溜まる路上にどしゃりと倒れて血が流れる。メアリンが倒れた男を蹴って、頭を私のほうに向けた。
「ア、アルチェちゃん。これで一応、この人が謝ったことに……できないかな?」
「いや、別に謝罪とかいらないし……」
メアリンのメガネがキラリと光る。この後、店の中に戻ったら顔が何倍にもふくれあがって気絶したおじさんが縛られていた。
ここまでやらなくてもと思うくらいひどい。何がここまでさせたのかな?
何にせよ、衛兵隊に突き出して私達がやることは終わりだ。
それにしてもメアリン、思ったよりずっと強くて怖い。そしてその視線が少しねっとりとしてゾクリとしてしまった。うん、まぁ気のせいだよね。
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