ブラックギルドを追放されました
「アルチェ。お前を解雇する」
王都の錬金術師ギルドに務めて三年目、私は愕然としていた。
錬金術師になるために王都に出てきたはいいけど、私みたいな子どもはどのギルドもなかなか雇ってくれない。
だからこそ、このギルドに拾ってもらった時は嬉しかった。
今日まで私は錬金術師の見習いとして、どんなに忙しくても弱音を吐かずに働いたというのに。
「そ、そんな! なぜですか!」
「ゲーリー君、あれを見せたまえ」
ギルド長の傍らにいたゲーリーさんはこのギルドで一番のベテラン錬金術師だ。
ゲーリーさんが私に差し出したのは静眠のオルゴール、これをかけながら眠ると必ず熟睡できるという魔道具だった。
魔道具の中でも比較的、簡単なもので私みたいな見習いがよく製作を任される。そしてそれは私が作ったものだ。
その静眠のオルゴールをゲーリーさんが動かすとひどい音色で、快眠できるようなものじゃなかった。
「わかるか? これは間違いなくお前が作ったものだ。なんだ、これは?」
「こ、こんなはずじゃ……。聞く限り、たぶん魔法の歯車を一つだけ取り違えている……。これだと青の歯車じゃなくて、緑の歯車……」
「こんな簡単なものすらまともに作れないのか? こんなものを客に納品するつもりだったのか?」
「わ、私はきちんと作りました!」
それは確かに私が作った後、最終確認としてゲーリーさんに提出したものだ。
オルゴールには製作者の名前を刻むことになっていて、アルチェと表記されている。
最後に私が使った時は間違いなくまともな音色だったはずだ。ふとゲーリーさんを見ると、かすかにニヤついていた。まさか――
「ゲ、ゲーリーさん。あなたまさか……」
「なんだ? まさか私が何かしたとでも? 自分の腕のなさを棚に上げて先輩を疑うとは見下げた奴だな!」
「あ、そ、そこの継ぎ目! 私が完成させた時と違って接着部分の色がかすかに違う!」
「貴様、自分が何を言ってるのかわかっているのか?」
ゲーリーさんが私を憎々しく睨む。
私が完成させたものをこの人がまた分解して、中にある歯車を付け替えたんだ。
確かに見習いが作ったものは錬金術師の国家資格を持つ人が確認してから納品することになっている。
そうすることで国家資格を持たない私が作ったアイテムでも商品として、お客様に納品することができた。
ゲーリーさんは前から私への当たりが強い。大量の雑用を押し付けて深夜まで残業をさせたり、工房の清掃なんかを無茶な時間で終えるよう指示する。
終わらなければこれでもかというほど罵声を浴びせてきた。
自分で紛失した魔道具の素材を私が捨てたなんてギルド長に報告されたこともある。そのせいでギルド長の私への評価は地に落ちていた。
「やはり女に錬金術師など務まらんな。そうでしょう、ギルド長?」
「まったくだな。猫の手も借りたいほどだが、これなら猫のほうがマシだったかもしれん」
「手際は悪い、口ごたえは一丁前、挙句の果てには成果物がコレですからね。信じられませんよ」
「当ギルドとしても、これ以上は置いておけんよ」
ギルド長もかすかに笑っていた。
そうか、ギルド長も一緒になって私を馬鹿にしていたのか。私はそんな人に一生懸命、認められようとしていたんだ。
錬金術師の国家試験を受けるには錬金術師のギルドで三年以上、見習いとして修業しなきゃいけない。
そしてギルド長の承認を得て初めて国家試験を受けることができる。
ただし国家試験を受けるにもかなりのお金がかかるから、実際には見習いの給料で貯めるには三年じゃ足りない。
残業代すら出ないから休みの日にどこかで働こうにも、このギルドはろくに休みも与えてくれなかった。
このギルド長はすべてをわかっていて、私を雇っていただけだ。
「アルチェ、お前が錬金術師になるなど許されん。大人しく田舎に帰るのだな」
「な、なんで、私がこんな目に……」
私の目に涙が溜まってきた。これまで真面目に錬金術師を目指して働いてきたはずなのに。
錬磨を怠らず、仕事はすべてこなしてきた。でもこの人達は最初から私を認める気なんてない。
言い返そうと思えば、いくらでも言い返せた。だけどそんなことをしても、火に油を注ぐだけだ。
「なんだ、不満か? 生意気だな」
「わっ!」
その瞬間、ゲーリーさんが私の胸倉を掴んできた。すごい力で、私の身体が宙に浮かんばかりだ。
身の危険を感じた私は抵抗しようとしたけど、ここで何かしたらより事態を大きくされてしまう。どうせ私を悪者にするだけだ。
「おい、貴様。そうやっていつも私に口答えしてきたよな? そういうところが気に入らないのだよ」
「ま、間違ったことは言ってません!」
ゲーリーさんだってそれを自覚しているはずだ。そうじゃなかったら、私が考えた新しい魔道具の企画を自分の手柄にしない。
私が言い返したのに腹を立てたゲーリーさんが顔を真っ赤にしている。
「このガキがッ!」
「うわっ!」
ゲーリーさん。いや、ゲーリーは私の胸倉から手を離したと思ったら殴ってきた。
ジンジンとする頬を押さえながら、私はゲーリーさん、いや、ゲーリーを睨む。もうここにいる意味はない。
私は何も言わずに支部長室を出ようとした。
「これだから女は生意気なんだ! おい! まさかとは思うが、他のギルドに流れようというわけではないな!」
「ゲーリーの言う通りだ。我々は王都でも大手のギルド、お前がやらかしたことはすべて各ギルドに伝える。どういうことか、わかるな?」
予想通り、やっぱりそういうことだった。私が抵抗しようものなら、その噂に尾ひれがつく。
もう一秒でもこの人達と同じ空間にいたくない。私はギルドを後にした。
ギルド長の口ぶりからして、私の悪評は王都内の他のギルドに広まっていると思う。
それでなくても再就職なんて考える気力もなく、私は王都を出た。
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