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7話 地震

 花火大会の時間になり、私とアキラは昨日祭り会場を見渡せる丘に来ていた。すでにたくさんのヒトがいた。クヌードさんが先に来ていて、私たちの場所が用意してあった。そこへ行き、花火大会が始まるのを待った。

 皐月がまだ来ていなかった。

「あれ?皐月が遅刻?珍しいわね」

「そういえば、いないな」

 その話をしてると、皐月と空がやって来た。空に捕まっていたのか。

「杏奈、アキラ!もうすぐ花火大会ね」

 空が嬉しそうに言った。

「そうね。私たちが作った花火が上がるのよ」

「それは楽しみね」

 私たちは、4人で並び、花火が打ち上がるのを待った。

 空が暗くなり、満点の星空が見えた頃、楽器の演奏が始まった。戴冠の儀を思い出した。オーロラは、種族も階級もない世界にしたいと言っていた。私もそう思う。オーロラは種族も階級も違うけど、友だちだもの。空も、セイライも、セイアも、同じ人だから、仲良くできている。仲良くできるはずなのだ。

「あ!見て!」

 空が声をあげると、一筋の光がのぼり、空に光の、火の花が咲いた。少しいびつだ。最初に、花火作り体験をした人たちの花火が上がる話だったからだ。

 私の花火も上がった。ピンクと緑の花が咲く。

「キレイね」

「ああ。杏奈もキレイだよ!」

「はいはーい。わかりましたー」

 私たちは、花火を見続けた。色々な形や色の花火が上がり始めた。これが、職人が作った花火なんだろう。先程とは違い、さらにキレイだ。

 その時、大きな揺れが起きた。大地が割れるんじゃないかという程の揺れだ。花火を見ていたい人たちが動揺している。

「特に大きな揺れね」

 空が言った。揺れは止まない。

「なんだか良い気分ではないわね」

 そう言った瞬間、体がよろめいた。アキラが支えてくれたので、倒れることはなかった。

 少しして、揺れは収まった。

「良かった。何なのかし……」

 最後まで言い終わる前に、前の方で悲鳴が聞こえた。

「何!?」

 人の波が来た。皆、後ろに逃げようとしている。私たちは人の波に飲まれないようにした。

「何が起きてるの!?」

「わからないが、俺たちも逃げた方がいいんじゃないか」

 皐月がそう言った時、クヌードさんが現れた。

「皆さん!逃げてください!大型のモンスターが現れました!私は、他のお客様にも言いに行きますので!」

 そう言ってクヌードさんは、足早に行ってしまった。

「大型のモンスターですって」

 空が驚いた。

「なんで、ここの防衛魔法を破るなんて……」

「逃げていいのかしら」

 私は疑問に思ったことを呟いた。

「当たり前だろ!大型のモンスターなんて、見たことないし、俺たちじゃ何もできないぞ」

 皐月が私の考えを読んだのか先に反論してきた。

「皐月くんに同意よ。早く逃げましょう」

 私は仕方なく、4人で皆と同じ方向に逃げることにした。

 町の近くまで行くと、人が散っていったのか、少し人通りが少なくなって動きやすくなった。

「逃げるって言っても、どこまで逃げればいいのかしら」

 私がそう言うと、アキラが答えた。

「そうも言ってられないかもな……」

「え?」

 アキラが後ろを向いたので、私たちも後ろを見た。

 後ろには、100メートルほどのところに、4足のトカゲのような大きい生き物が唸り声を上げながら、歩いていた。建物の倍くらいの大きさだ。長い首が上に伸びている。そして、長いしっぽを揺らしながら、人や建物をなぎ倒している。口元には、赤い液体が付いている。

「ドラゴン型のモンスターだ!マズイ。どこかに隠れないと」

 アキラが叫んだ。

 私たちは隠れる場所を必死に探した。しかし、モンスターがどんどん近づいてくる。

「あんなの倒せないわよね?」

「バカ姉さん!倒せるわけないだろ!」

「もうここまで来てる!」

 空が叫んだ時にはもう遅く、モンスターが近くまで来てしまった。

「皐月!杏奈と空を連れて逃げろ!ここは俺が……え?」

 アキラが私たちを先に行かせようとした時、モンスターは大きな音を立てて倒れた。

 一瞬だったが、私は見た。誰かが、モンスターの足を2本蹴ったのだ。

「あら?杏奈に、空に、皆さん!また会えるなんて」

 朗らかな声が聞こえた。モンスターの足元に見知った顔がいた。

 オーロラだ!

 戴冠の儀で着ていたドレスの裾が破れている。まるで、動きやすくするために切ったように。

「え?オーロラ?なんで?」

 私は混乱した。

「危ないぞ!」

 皐月がそう言った時、モンスターは起き上がっていた。

 オーロラは素早く動き、しっぽを掴んだ。

「これは持てないかも。うーん」

 オーロラはブツブツと呟いている。

「身体強化!ストロングアーム」

 オーロラが呟くと、彼女の腕が青く光る。

 オーロラは、モンスターのしっぽを引っ張り、回転をかけ、振り回し始めた。

「おりゃあああああっ!」

 モンスターから手を離し、近くの建物にぶつける。

「これなら、どうかしら」

 モンスターは震えながらも起き上がる。

「ダメなのね。どうしようかしら」

「王女様、お困りのようですね」

 聞いたことのある声がし、モンスターがぶつかった建物の上を見ると、マーキュリーがいた。

「マーキュリー様!」

 オーロラは喜んだ。

 マーキュリーは、建物の上で、剣を引き抜き、何かを詠唱しているようだった。

「くらえ!」

 マーキュリーが飛び降り、モンスターの脳天に剣を刺しこむ。モンスターの頭上から大量の青い血が吹き出る。剣を刺した場所から亀裂が入り、血と水のしぶきをあげながら、モンスターは真っ二つになった。

「す、すごい」

 私たちはそれを呆然と見ることしかできなかった。

 モンスターは灰化が始まり、消えていきそうだ。

「あ!他のモンスターが」

 オーロラがそう言って、駆け出そうとしたのをマーキュリーが止めた。

「仲間が倒した。これが最後だよ」

「仲間ですか?」

「まあね」

 マーキュリーはにっこりと笑い、私たちの目の前まで歩いてきた。

「杏奈、無事だったか?」

「ええ、マーキュリーとオーロラのおかげで何ともないわ」

「良かったよ」

 マーキュリーは跪き、私の手を取り、手の甲にキスをした。なんか既視感がある。

「おい!何してるんだ!」

 アキラと皐月が、同時に叫んだ。

 マーキュリーは立ち上がった。

「最近、モンスターの動きが活発だ。地震ももっと強力なモンスターが起こしてる可能性がある。防衛魔法をもっと強化すべきだよ」

「そんなことが……」

 マーキュリーの言葉に、オーロラは悲しそうに答えた。

「地震が収まるまで、俺はこの国にいるよ」

「それは心強いです。ありがとうございます。マーキュリー様」

「様はいいよ。あと敬語」

「はい、あ……うん」

「オーロラ、あなた戦えたのね」

 私はオーロラに問いかけた。

「ええ。たしなむ程度に」

「しかも、肉弾戦かよ」

 皐月が呆れたように言った。

「私、身体強化の魔法が得意なの」

 オーロラはふふふと笑った。

 その時、ティノが叫びながらやってきた。

「王女様!なんで!飛び出したんですか!バカなのか!バカなのか!?」

「あら、市民を守るのは王女の役目よ」

「兵士の役目だーー!」

 ティノが怒りながら、オーロラの手を引いて、連れていこうとした。

「杏奈!また会えて嬉しいわ!じゃあね」

「う、うん!私もまた会えて嬉しい」

 オーロラは引きづられながら、城の方へと戻って行った。

「俺も帰るよ。とりあえず、モンスターは倒したし」

「マーキュリー!ちょっと!この前の話の続きを」

 私が問いかけると、マーキュリーは手を振った。

「じゃあね」

 そう言うと、マーキュリーを水が囲み、一瞬で消えてしまった。

「逃がした!……もう」

 私たちは、行く宛てがなくなったので、とりあえず宿屋へと戻ることにした。

 宿屋へ戻ると、クヌードさんが心配そうにしていた。

「皆さん!全然戻ってこないので、心配しましたよ!」

「ごめんなさい。あと、モンスターは全部倒されたみたいですよ」

「そ、そうなんですか!?この国はすごいですね……」

 私たちは苦笑した。まさか、王女と惑星守護神という人が倒したとは言えなかった。

 クヌードさんに部屋に戻るように言われたので、両親を心配している空と別れて、部屋へと戻った。

 部屋には水竜がいて、座っていたところから勢いよく立ち上がった。

「杏奈……!帰ってきたのね」

「ええ。水竜も何ともなさそうで、良かったわ」

「杏奈たちだけ、帰って来ないって聞いて……いや、なんでもないわ」

「ん?」

 水竜は、また座り、本を手に取って読み始めた。

 私は、今日あった色々な出来事が吹き飛ぶくらい、モンスターの出現に動揺していた。あんなに大きなモンスターがいるなんて、おとぎ話の中だけだと思っていた。今日は、オーロラとマーキュリーのおかげで助かったが、1人で出会ったらどうすればいいのだろうか。

 そんな事を考えながら、私はベッドに腰掛けた。

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