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13話 告白

 状況説明を終え、私たちと恵は少し離れた喫茶店に行くことにした。近くの喫茶店は、モンスターの襲撃で壊れなかったものの閉店になっていた。

 歩いてると、フードを被った誰かが近づいてきた。

「杏奈!恵!待って」

 声の主は、灯子だった。フードからちらりと顔を出した。

「灯子。もう取材は終わったの?」

 恵が聞くと、灯子は首を横に振った。

「社長が杏奈の所に行ってきなさいって。さっき、モンスターが出たんだって? 大丈夫だったの?」

「うん。誰も怪我をしてないの……ただ」

 私は説明に困った。亡くなった人もいたからだ。外傷がないのに。とにかく、私たちは別の喫茶店に入ることにした。外にある円形のテーブルにつき、飲み物を頼んだ。

 灯子には、さっきあったことは簡単に説明した。

「不思議なことね。モンスターが入ってきたのも初めてだし、何かあるのかしら」

「わからないのよ」

 私たちは、わからない問題については考えないことにした。これ以上話しても、何も思いつかないだろうから。

「杏奈、ライブの時はありがとう。杏奈の言葉、私にも聞こえてたよ」

「ううん。私は当たり前のことを言っただけ」

 そう言うと、灯子はクスクスと笑った。

「そう言えるのは、杏奈くらいじゃないかしら。本当にありがとう。ファンの人たちは、減ってしまったけど、あつしさんたちは残ってくれたから」

「そうなのね。でも、灯子を応援してくれる人がいて良かった」

「ユキも社長も感謝してたよ」

「照れるわね。大したことはしてないのに」

 灯子はまた笑った。

「お礼にお昼をご馳走したいの。行きつけの店があるんだけど、そこは私たち動物族も暖かく迎えてくれるの。どうかしら?」

「昼は自由に取っていいらしいから、もちろん! でも、いいの? ご馳走になっちゃって」

「伊達に歌手やってませんからね。お金は割とあるのよ」

 私たちはお言葉に甘えて、ご馳走してもらうことにした。皐月は、俺は何もしてないから良いって言ったけど、灯子に押されてご馳走になることになった。


 灯子が連れてきてくれたお店は、街の外れにあり、質素な感じの店だった。無駄な装飾はなく、看板に店の名前が書いてあるだけだった。

 中に入ると、いくつかのテーブルとイスがあり、カウンターに店主らしき人がいた。ヒュー族か、魔族だ。灯子を見て、にっこりと笑った。

 灯子がフードを取ったので、私もそれに習った。

「灯子ちゃん、お友だちを連れてくるなんて、初めてだね」

「おじさま!こんにちは。今日は特別美味しいのをお願いね」

「任せなさい」

 私たちはカウンターの近くのテーブルについた。

「ここはシュラスコが美味しいの」

「シュラスコ?」

 私が聞くと、恵が説明してくれた。牛や羊などの肉を鉄の棒に刺して、焼いたものらしい。それを少しずつ取り分けてくれるのだ。

 料理が次々と出てきた。チーズが練り込まれたパンに、海鮮がたっぷり入ったシチュー、そしてシュラスコだ。少しずつ切り分けて、皿に盛られた。

「美味しそうね!皐月」

「そうだな。金星に来てから、質素な食事してたから豪華に感じるな」

 私たちはお腹が空いていたので、早速食べることにした。

 どれも美味しい! チーズのパンはチーズの味が濃厚で、海鮮シチューは海鮮の出汁が効いてる。シュラスコは肉汁が出てて、美味しかった。

「この国は……星は、差別が多いわ。杏奈みたいな人がいるって知れて良かった。地球には、素敵な人がいるのね」

 灯子がポツリと呟いた。

「金星にも、灯子や恵がいるじゃない。社長さんだって良い人そうだし」

「うん。私、歌で金星を変えたい。差別のない世界にしたいの。歌でそれを伝えたい」

「素敵ね。応援する!」

「私も応援するわ」

 恵がそう言って、灯子の目を見た。

「杏奈、恵。ありがとう。そういえば、恵。イヴさんは見つかった? 昨日、見つかるかもって言っていたけど」

 私はドキリと胸がはねた。イヴの話だ。

 私はイヴじゃないが、イヴと呼ばれることが多い。恵が探してるのは私なのか?

「うーん。今日は特に反応がつよ……いえ、見つかりそうなんだけど、特定できなくて」

「そうなの」

「金星にはいると思うのよね」

 話はここで終わり、他の話に移ったが、私は気になってしまった。ビーナスに聞けば何かわかるのだろうか。また会えるとは思うが、次はいつ会えるかはわからないから、気持ちが落ち着かなかった。

 その後、私たちは別れることにした。灯子と恵とはまた後で会おうと話した。


 宿屋へ着き、旅行の計画時間までのんびりしていたら、扉をノックされた。

「アキラ。どうしたの?」

 アキラが立っていたが、何か神妙な面持ちに見えた。

「ちょっと良いか?」

「いいけど」

「さっき公園を見かけたんだ。そこまで行こうぜ」

「うん」

 公園まで歩いて行くことになったが、アキラはずっと話さない。いつもなら、調子のいいことを言うのに。私が話しかけても生返事しか返ってこない。

 疑問に思っていると、公園についた。ブランコや鉄棒などがある普通の公園だ。

「杏奈」

「何? さっきから話さないし、どうかしたの?」

「杏奈、好きだ」

 アキラは真剣な顔で言う。目が私を好きだと語っている。

「へ?」

「好きなんだよ。君のことが」

「な、何言ってるのよ!」

 顔が熱くなるのを感じた。

「さっきモンスターが出ただろ。正直、死ぬかと思ったよ。前にトロールと戦っただろ。あの時よりずっとモンスターは強かった。死ぬって思った時に、杏奈の顔が見えて……俺は気絶した」

 私はアキラの顔を見ることしかできなかった。顔の熱が冷めてくる。

「杏奈を失いたくないし、杏奈に自分の気持ちを伝える前に死ねないって思ったんだ。次、いつ死ぬかわからないしな」

「死ぬなんて言わないでよ」

「杏奈を守って死ねるなら本望だよ」

「死ぬなんて言うな!」

 私が叫んだら、アキラは驚いたように後ろに下がった。

「死なないでよ。私も……戦えるようになるから。守られるだけなんて嫌よ。勝手に死なないでよ」

「杏奈」

 私の目から涙がこぼれ落ちた。泣く予定なんてなかったのに。アキラが変な事言うから。

「ばか」

「ごめん」

 アキラは近づいて、私の涙を手でぬぐった。

「でも、君を好きなことは変わらないよ」

「知らない。勝手に言ってなさいよ」

 アキラは笑顔を見せた。何がおかしいのよ。

「ばかばかばか!」

「ばかで良いよ」

 アキラは私の頭をゆっくりと撫でた。私は子どもをあやすみたいなやり方が気に食わなくて、その手をはらった。

 そうしたら、また微笑んで、楽しそうにした。本当に何がおかしいんだか! こっちは心配してるのに。腹が立ったので、帰ろうとしたら、手を掴まれた。

「手を繋いで帰ろぜ。杏奈はどこに行くかわからないからなあ」

「やだ。触らないで」

「そう冷たいこと言うなって」

「いやよ」

「まあまあ」

 アキラはそう言って、私の手を引いて歩き出す。

 強引だ。手を掴む手が暖かったから、仕方なくそのままにすることにした。

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