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この鏡を売ったらいくらになるだろう

作者: 沼スノキ

 急募、自宅の風呂場に人魚が出現した場合の対処方法。

 とある休日のなんてことない早朝に、朝風呂と洒落込もうと風呂場へ行った。

 引き戸を開けた先で存在感を放っていたのは、浴槽に詰まった人魚。青々とした尾鰭が容赦なく浴槽から溢れ落ちている。注目すべきはその性別だ。この人魚、上半身を見るに、男性。私は女性である。そしてここは男女混浴が一般的でない日本の家庭用お風呂だ。

 彼が人魚で良かったと、安堵した。

 人魚の下半身は魚である。魚の下半身はまな板の上で見慣れている。

 意識のない彼は魚屋で並ぶ商品のような姿。放置することはできない。このままだと風呂に入れない。

 とりあえず服を着ることにする。そう、私は今まで裸だった。彼の意識がなくて良かった。


「あ……あの、起きてくれませんか」


 一声かけたくらいではピクリともしない。

 身体を揺らしてみる。元は冷たかったのであろう身体はほかほか湯船で人肌体温になっていた。


 彼は起きない。

 ただ心音が聞こえているから死んではいないらしい。


 まだ生きていると安心する反面、温水に浸したままでは死んでしまうのではないかと慌てて氷を取りに行き、湯船に入れた。最後の仕上げに湯船に塩をかける。濃度は高い方がいいだろうと一パック分。海水に近ければ元気が出るかもしれない。


 それでも彼は起きない。

 朝食用に金魚の餌をコップ一杯に入れて彼のそばに置く。金魚自体は1ヶ月前に誤って水道に流してしまった。すまない金魚、元気に生きていることを祈る。

 私は一旦朝食をとりにリビングに戻った。

 テレビを見ながらのんびりサンドイッチを齧る。

 朝のワイドショーで好きな歌手が話題に出ていて夢中になってしまい、終わってから、人魚のことを思い出した。


 風呂場に戻れば、人魚は綺麗さっぱり消えていて、空になったコップと生温い塩風呂だけポツンと居座っていた。


 食べたのか、金魚の餌。半分冗談だったのに、と消えた人魚の腹と味覚の心配をしながら片付けをする。

 塩風呂には入りたくないとお湯を入れ替えていたら浴槽の底から鏡が出てきた。

 鏡から密かに低音で素敵なダンディーボイスでお礼の言葉が聞こえ、驚いて返事をすると笑い声が聞こえた。人魚と通話できる鏡なんて良いものを手に入れた。

 さて、唐突の人魚に朝風呂を邪魔されてしまったが、入り直すとしようか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く不思議な世界観! なはずなのに、テンポ感も良くて凄く好きでした^^
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