第98話 善兵衛
精悍な顔の青年は与一の紹介を聞き、竜次たちに強い関心を持った様子で、珍しい物を見るように、彼ら彼女らをじっくり見定めている。その人となりを見る中でも、竜次が特に気になったらしく、彼の体つきなど、かなり時間をかけて目で調べた後、竜次の前に立ち、話しかけ始めた。
「あんた凄え強いだろ? 俺は善兵衛、甲冑職人だ。あんたの名は?」
「俺は源竜次、俺は強いといえば強いのかもしれんが、こいつの力に依るところが大きいのかもな」
善兵衛と名乗った甲冑職人の青年は、ぶっきらぼうながら正直そうな男だ。ほとんど一言交わしただけだが、竜次は善兵衛に相通ずるような好印象を持ち、最初からくだけた様子である。『こいつ』というのはもちろんドウジギリのことで、ポンと今までの戦いを大いに助けてくれた宝刀を軽く叩くと、差している腰から取り外し、
「見てみるかい?」
と、善兵衛を信用してドウジギリを差し出した。自分の魂である刀を、初対面で預けてくれた竜次の心意気に、いたく感じ入ると、
「ありがとう。ちょっと刀身を見せてもらうよ」
善兵衛は両手でドウジギリをしっかり受け取り、スラリと鞘から刀を抜いた。そして、刀身の切っ先から柄まで、じっくりと鋭い眼力で鑑定を行う。縁の国随一の宝刀が持つ力にも感じ入ったのか、善兵衛は途中低い唸り声を上げて、微動だにせず刀に魅入られていた。鑑定を終え、刀身を鞘に納めると、竜次に笑いかけながらドウジギリを返し、こう話している。
「素晴らしすぎる刀だな。これ程の刀身は見たことがない。いいものを見させてもらった。竜次さんは、この刀が強いんだと言ってたが、扱える者あってのことだ。あんたも凄いんだよ」
「はっはっはっ! そう褒められるとなんだか照れくさいもんだな。このドウジギリは俺と相性がいい。こいつを手に持ち構えると、とてつもない力が湧き上がってくる。いい相棒だよ」
機嫌よく竜次がそう返す中で、思いがけない刀の名が出てきたので、更に善兵衛は驚いた。いや、様々な武具を見てきたであろう甲冑職人の彼のことだ、鑑定中もしやとは思っていたかも知れない。
「これがドウジギリだったのか……どうりでな」
ドウジギリを通して意気投合できた竜次と善兵衛の間に、少しだけ沈黙が走った。青年同士の爽やかなやり取りを見ていた与一が、そこで口を開き、
「お前たちは馬が合うな、良かったよ。もう分かったと思うが、紹介したかった人というのは、この甲冑職人善兵衛だ。甲種甲冑装備が作れる優秀な職人だ。甲冑職人の里から結の町までは来れたのだが、先の合戦で足止めを食らっていてな。この武具屋に留まっていたわけだ」
善兵衛に関する経緯をにこやかな表情で、そう話し始めた。