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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第3章 縁の国・平定編(中編)
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第94話 確たる証拠

 与一は、砦内の応接室に竜次たち一行を通し、


「まあ、このようにむさ苦しい所ですが、お座りくだされ」


 と、座るよう促した。見ると板の間ではあるが、座り心地が良さそうな紫色の座布団が、あらかじめ敷かれている。逆に言えば、フカフカの座布団でもなければ、足が痛く、長く座っていられないだろう。ざっと目測で考えると、応接室の広さは10畳ほどある。『日々是精進』と墨で書かれた掛け軸が、白壁に一本掛けられているだけで、与一が言う通り、殺風景で武骨な部屋であった。


 特に上座下座関係なく、車座に座ると、黒の羽織を着た女性が数人、部屋を出入りし、お茶を運んできてくれた。与一に、彼女たちの格好を聞いてみたところ、


「あの黒羽織は、この砦にいる役人の制服でね。黒子に徹し、民のために働く、という意味が込められているんだ。私は役人とは言えないから羽織っていないんだがね、心は同じだよ」


 と、彼流のユーモアを交えて、黒羽織の意味を教えてくれた。そういうことかと与一の話を聞いて、竜次たち一行は皆、感心しきりである。


 竜次たちは、観光の間あまり飲み物を摂っておらず、一様にのどが渇いていた。冷めないうちにと、黒羽織の女性たちが勧めてくれているのもあり、与一も含め、皆、一服の茶をゆっくり飲み始めている。飲みやすいように、やや(ぬる)めに水を差してあり、来客への心遣いが行き届いていると感じられた。このもてなしが、結の町のために働く役人の精神を、具現化したものと言えよう。


「うむ、美味い茶だ。一息つけた。では、本題を話そうか。砦の斥候兵に頼み、オーガの大軍勢が船を使って来たのかどうか、1日かけて調査したところ、結論が出たよ。仁王島から奴らが船団でやって来たのは間違いない」


 与一は細い目を見開き、咲夜を始め、竜次たち全員を見回している。自分が言っていることに完全な責任を持ち、自信を持っている時に、与一は細目を見開く癖があるらしく、連理の都の評定などで、彼と付き合いが古い守綱は、その癖を久しぶりに見ることができ、頼もしく思っていた。


「なるほど。はっきりとした確証が出てきた、ということでござるな?」

「いかにも。結ヶ原を斥候兵に馬を使わせて、西に走らせたところ、平原の外れにある海岸沿いに、多数の船が繋がれておった。その辺りの海域で、漁民が魚を取っていたという報告は、ここ最近ない。仁王島から船で回り込み、金熊童子率いるオーガたちが、その海岸から上陸したと見て間違いなかろう」


 与一の声は応接室全体に力強く響き、発言の説得力を更に増している。車座になって聞いている皆に、一筋の緊張感が走ったが、それを和らげるような夏の涼風が、ひと時、開け放たれた窓からサラリと流れてきた。

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