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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第3章 縁の国・平定編(中編)
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第85話 静かな港

 静かな海というのは心が洗われるものだ。大きな合戦が終わった結の町に面する海が正にそうであり、柔らかく寄せて返す波音を聞いていると、昨日の激戦が幻であったのかとさえ思われてしまう。漁や船の管理を行うため、港に入っていく町人がポツリポツリと見かけられるだけで、それ以外は話し声も聞こえない、静寂そのものの港湾風景であった。


「やはり昨日の今日というわけだな。皆、合戦の後片付けなどに追われていて、港で仕事を始め直すどころではないようだ。いつもの活気が全く無い」


 与一がため息混じりに、竜次たち5人へ説明している。咲夜は気づいていたが、竜次を始めとする結の町に不案内な他の4人は、この港湾の静けさがいつもの風景だと勘違いして、ほとんど凪の海へ、深く心を寄せていたようだ。今現在の静かな港も良いものではある。しかしながら、


「君たちには、賑やかな港を見せたかったなあ。今は店員もまだ戻らず、商店がほとんど閉まっている。それだけの戦だったということだろう」


 と、細い目で苦笑いを浮かべ、与一は結の町の統治を任されている者として、バツが悪そうに頭をかいている。なるほど、活気が感じられなかったので気づきにくかったが、港まで続く大通りの両脇に、かなりの数の商店が軒を並べている。いつもなら、海の波ばかりでなく人の波でごった返す賑わいが、ここにあるのだろう。結の町の港が本来持つ大きなエネルギーを、与一はどうしても見せたかったわけだ。


「いや、静かな港と海。これを眺めているだけでも、結の町の良さがよく分かりますよ。目をつむると、賑やかな港の風景が想像できます。いい町ですね」


 そう言って、あやめが表現豊かに与一をフォローしたので、竜次たちはかなり驚いてしまった。冷静に、的確で直接的な話をすることが多いというのが、皆が持つ彼女の印象であり、感覚をできるだけ広げて物事の感想を言うとは、誰も思っていなかったほど意外だった。


「そうだな、あやめさんの言う通りだ。まああれだ、とんでもない戦があったにしろ、風光明媚ないい町ってのはよく分かるよ。ところで与一さん、一つ聞きたいことがあるんだ」

「ふむ? 何かな、竜次殿? 答えられることなら、何でも答えよう」


 こういうところでも与一は、温厚篤実な真面目さが出るらしく、襟を正して竜次に向き直している。その様子を見た竜次は、若干苦笑して手を振り、


「そんな身構えるほど大したことじゃないんですよ。オーガの軍勢はどこから来たのかを知りたいんです。あれだけの大軍勢がどこから湧いてきたのか、どうしても不思議に思っちゃってね」


 と、極めて素直に問いかけた。竜次の疑問は、シンプルだが非常に重要であり、与一を含めた一同は皆、


(そういえば確かに!)


 そう気付かされた顔をして、少しの間、考えを巡らせていたが、パンと手を打ち、何か閃いたのは細目の人の良い、与一であった。

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