第84話 星になった者たちのために
一晩、将兵を結の町で休ませた後、昌幸と幸村は前もっての宣言通り、500の兵を自軍の本隊から分け、結の町守備兵として追加配備し、連理の都へ軍を率い、帰って行った。竜次や咲夜たちも、将として町内の宿屋に泊まり、一日よく休んだわけだが、その時に出された晩餉は大変豪勢なものであった。
「すげえ豪華な刺し身だなあ! 鮪、鰤、鯛、鮃、蛸に海老か~、食いごたえがあるぜ!」
「はっはっはっ! 竜次様とおっしゃいましたか、あなたは結の町の大恩人です。御館様が、あなた方を率いて来るのが間に合っていなかったなら、どの道オーガに私も殺されていたでしょう。そうなれば、このようなご馳走をお出しすることなどできなかった。遠慮なさらず平らげて下さい。心ばかりのお礼です」
宿屋の主人は、何も惜しくないという綺麗サッパリとした顔で、竜次たちに大変豪華な舟盛りの刺し身を勧めている。舟盛りの脇には、良酒が既に用意してあり、
「幾らでも飲んで食べて下さい。その方が、この町を守って星になった皆が浮かばれます」
と、一つも偽りがない目と心で、結の町を守りきった将たちに付け加えた。このように勧められては、命を振り絞って町を守った者たちに対し、存分に飲み食いして楽しまなければ失礼になる。それに、竜次、咲夜、守綱、あやめ、仙は、激しい戦働きで、それぞれかなりの空腹を感じていた。
「それでは遠慮なく頂きましょう。皆さん、縁の国と結の町のため、よく戦ってくれました。乾杯!」
『乾杯!』
皆の主人である咲夜が気を利かせ、乾杯の音頭を取り、この夜の宴が始まった。国と民を守りきった後の酒食は格別に美味く、特に竜次は好物の刺し身を肴に、よく呑みよく食べて、夜遅くまで宴を楽しんだ。皆、良い笑顔を見せている。
竜次は酒に強いだけあって、二日酔いをしたことがない。昨夜の宴で呑んだ酒量はかなりのものだったが、今日も朝早くから起きて、ドウジギリの手入れなどをしている。
「戦が終わってみるとよく分かる。栄えたいい町並みだな。縁の国、第2の都市だけはあるぜ。潮の香りも風に流れてきて、こんな早い朝でも気分がいい」
合戦で大活躍してくれた宝刀の手入れを一通り終えた後、竜次は外の空気が吸いたくなり、宿屋からちょっと出てみた。規模は連理の都ほどではないが、きちんと区画整理された町並みが海まで続く港湾都市、それが結の町である。結ヶ原の合戦で、大きな犠牲をこの町は強いられたが、今日もお天道様が顔を出し、町の民を見守ってくれている。結の町は戦いの前以上に、必ず復興するであろう。




