第83話 頭領の優しさ
与一が何より先に言ったように、戦が終わった結ヶ原には、国と町を守るために命を散らした、多くの兵の亡骸が横たわっている。全てが惜しまれる命であることに間違いないが、どの英霊の亡骸も、自分の人生を納得がいくように成し遂げた、そんな安らかな顔で永遠の眠りについている。
(これが合戦なんだな……。この世界に来なかったら、こんな光景は考えもしなかっただろう)
竜次は、ある兵の亡骸を引き取るために来た家族と縁者が、物言わぬ兵の手を取り涙を流す様子を、瞬きもせず神妙な面持ちでじっと見つめていた。
(早く縁の国の、アカツキノタイラの乱れを治めねえとな。こんな光景はあっちゃならねえ)
強い決意と共にドウジギリを握りしめる竜次へ応えるように、縁の国随一の宝刀は、一瞬、力強く輝いたが、その刀の操者は、激戦で力を出し切り、命を落とした同士たちのため、鎮魂の祈りを捧げており、彼の想いに反応した刀の変化に気づかなかった。
「大戦は嫌なものじゃな、竜次。死ななくてよい大事な将兵が死ぬ」
「御館様?」
いつの間にか傍に来ていた昌幸に竜次は驚いたが、その昌幸がポツリと呟いた言葉に、彼はもっと驚いた。
「私は誰も失いたくないのじゃ。縁の国の頭領として甘すぎるかの?」
「いえ、そんなことはありません。御館様がそういうお考えの方で、俺は嬉しいです」
昌幸は、竜次の返答に微笑みを浮かべ、彼の肩を片手で優しくポンと叩いた。弟を想う兄のような、息子を想う父のような、その心地よい右肩への響きから、なぜかそう感じられた。
「ありがとう。私は結の町に500の兵を追加配備し、連理の都に戻る。竜次、一緒に帰ろう。与一に任せておけば、結の町は大丈夫だ」
竜次は承る旨を返そうとしたのだが、幾らか気になることがあり、返事に詰まった。それを察したのかどうか、傍らでやり取りを見ていた咲夜が、
「父上、竜次さんに結の町を見せてあげたいと思います。竜次さんが守ってくれた、この町の良いところを知ってもらって、我が国のことも、もっと知ってもらいたいのです。その後で、連理の都へ帰ります。お許し頂けますか?」
と、美しい銀髪を潮風になびかせて、配下の竜次を思いやる微笑みを向けながら、そう提案する。結の町に少しの間留まることは、竜次が今感じている気がかりの解消と直結しており、咲夜が察したにしろ偶然にしろ、話に加わってくれたことは、彼にとって大きな助け舟になった。
昌幸は少しの間、竜次と咲夜を交互に眺め、
「それは良い考えじゃな。竜次だけでなく、守綱、あやめ、仙、お前と一緒に来た皆を案内してあげなさい。喜ぶだろう」
と、愛娘の提案を快諾した。




