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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第3章 縁の国・平定編(中編)
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第74話 与一

 荷馬車の中で時折ガタガタと揺られながらも、竜次はいつの間にか眠りについていた。平軍に追いついたのは、丁度、昼の(かし)ぎ時であったが、熟睡を取れていたようで、もう夕刻を回っている。


「起きたか、竜次。腹が減っておろう。これを食うておけ」


 荷駄隊の同じ馬車に乗り、守綱も休息を取っていたのを、多少寝ぼけた目で見て、竜次は思い出したようだ。疲労困憊だった体は、睡眠により回復してきている。あとは守綱が軽く指し示している、笹の葉に包まれたかしわ結びを食べれば、滋養が体に行き渡り、戦える体力が戻るだろう。笹の葉を開き、手に取った握り飯は、まだ温かく香ばしく、一口食べると、


「これはうまい!」


 思わず反射的に言葉が出るほど、鶏肉や飯に出汁がよく染み込んでおり、格別な味であった。


「ふふふっ、うまかろう。そのかしわ結びは、平家に代々伝わる戦場飯じゃ。それが喉をすんなり通るということは、竜次、お前は戦で腹をくくって働ける」

「確かにそうなんでしょう。力が湧いてきた気がします。それに……」

「それに? なんじゃ?」


 荷馬車の簡素な(ほろ)には、小さな窓が付いており、落ちてきた夕日がそこから差し込み、引き締まった男振りの竜次を照らしている。


「何か懐かしい味がしました」


 頼もしくも、少しだけ寂しく笑う、壮年の美丈夫の姿がそこにあった。




 結の町は、縁の国で連理の都の次に栄えている重要拠点である。臨海都市でもあり、船舶を使った交易の要衝にもなっている。言わば、連理の都が人間の体に例えると頭脳で、結の町は喉元と比喩できる。ここを破壊されれば、頭脳が体から切り離されることになる。


「守らねばな」


 オーガの大軍勢を迎え撃つ、結の町の総司令官である与一は、冷静沈着に防壁の上で戦況を注視しつつ、そうつぶやいた。


 臨海都市を守るということは、背水の陣で戦う場合があるということだが、今が(まさ)に、その状況と言える。町の目の前に広がる平野、結ヶ原で、守備兵が今、応戦してはいる。しかし、多勢に無勢。膂力を持つオーガの軍勢は、100近く平野に展開し、応ずる町の守備兵は戦力が足りず、少しずつ押されつつあった。


(一体のオーガには、10人の兵で戦わねばならぬ。皆、力の限り応戦しておるが、このままでは)


 カッと温厚で細い目を、突如として見開いた与一は、


「震天弓を持て!」


 側近に、鮮やかな緑色の大弓を運ばせ、それを軽々と左手で受け取ると、黒く光る特殊な法力を帯びた(やじり)を持つ矢をつがえ、結ヶ原で暴れ回るオーガの一団へ、それを静かに向けた。

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