第73話 心からのねぎらい
危急の時に追いついてくれた、頼もしい面々を見て、幸村は感極まり、
「よく来てくれた! 待っていたぞ!」
古参で、今までも幾度となく自分を助けてくれてきた、侍大将守綱の傍まで近づき、強く抱きしめた。それだけ幸村は、守綱を信頼しているのだ。若殿からの、思いがけない感謝の印に、歴戦の侍大将は目が潤みかけ、忠誠を誓う平家のため、これから命を奮って戦に臨もうと、改めて揺るがない決心をした。
「軍と行き違いになりましたが、合流できました。2つ目の国鎮めの銀杯も手に入れています。母上にお願いし、宮殿の神事の間に、ひとまず置いております」
「うむ。咲夜、よくやってくれた。皆もよく咲夜を支えてくれた。ありがとう」
父昌幸から、ねぎらいの言葉と共に褒められ、咲夜は心からの安堵の表情を浮かべている。だが、その顔色は、長旅の疲れもあり、少々悪い。
「……咲夜、お前には無理ばかりさせているな。荷駄隊が率いている馬車に乗れば、軍を進めながらでも休める。この休息後、そうするか?」
「お心遣い痛み入ります、兄上……お言葉に甘えます。休んでおかないと、戦場で動けそうにありません」
無理もない。平軍に追いつくまで1日弱、咲夜と竜次たちは、ほとんど休憩を取らず馬を走らせてきた。咲夜のみでなく、旅に同行し、ほとんど奇跡に近い強行軍を進めた竜次たちの疲労も、一様に濃い。
「そうだな……すまなかったな、咲夜、守綱、竜次、あやめ、それと……こちらの女性は? 只者でないのは分かるが」
昌幸と幸村、総大将と副大将がどちらも今、目を向け、興味を示しているのは、仙である。彼女は、つば広の洋風帽子を取り、隠していた狐耳を見せ、
「私は妖狐山の九尾の狐で仙と言うよ。咲夜ちゃんや、竜次たちには世話になったんでね。あんた達を助けてやろうとついて来たのさ。これからしばらく厄介になるよ」
と、大霊獣らしく、一つも物怖じせず挨拶をした。昌幸と幸村の親子鷹は、
(信じられぬ!? そんなことがあるのか!?)
そう、我が目を疑ったようだが、彼らも凡人ではない。今まで感じたことがない夥しい霊力が、仙の細身の体から次々に流れ出ているのを察している。あまりに驚愕的な思いがけない出会いに、少しの間、昌幸と幸村は絶句していたが、
「そうか、あなたが九尾の狐だったのか。失礼致した。仙殿、これから我らと縁の国に力を貸して頂きたい。よろしくお願い致す」
と、彼らは深い礼を示し、縁の国を統治する最高責任者として、仙に心から感謝し、その態度を取った。