第72話 親子鷹
「これでいいよ。馬を思いっきり飛ばしても構わないよ。ゆっくり見ながらついていってあげる」
尋常でない霊力が、仙の体から放射状にオーラとして漂い続けている。天神足と言ったが、霊気で青色に輝いている彼女の可愛らしい足から見ると、高速移動の法術なのは確かだろう。そうであるならば、仙は馬に乗れなくても問題ない。
「分かりました。私たちはできるだけ馬を急がせます。仙さんはその足で、ついて来て下さい」
「いいよ。この術を使うのは、久しぶりだねえ。じゃあ行こうかね」
高位の霊獣、九尾の狐としての余裕だろうか、これから戦場に向かうというのに、仙は緊張感が全く無く、のんびりとした様子さえ見せている。何はともあれ、先を急いで進むしかない。咲夜は、竜次、守綱、あやめに手と目で示すと、軍馬をできるだけの速度で早駆けさせ始めた。
(本当に仙さん、ついてこれているんだろうか……おおっ!! 本当だ! 凄え!)
竜次は、若干半信半疑に思っていたのだが、早駆けの最中、ちらっと脇目で見て魂消てしまい、危うく手綱を手から取り落とすところであった。信じられぬことに、仙は地を滑り飛ぶように高速で進んでおり、余裕綽々な顔をしている。馬をどれだけ急がせようが、追い抜こうと思えばいつでも追い抜けるだろう。天神足の術とはよく言ったものだ。
「仙殿は、とんでもない霊獣なのでござるなあ! これなら思ったより早く、御館様の軍に追いつけそうじゃ!」
「このくらいは朝飯前さ。これからもっと驚くものを沢山見せてあげるよ」
守綱は、仙の頼もしさに意気揚々だ。まだまだ力の一部しか解放していない狐耳の女は、得意そうに口元で静かに笑い、高速の歩みを進めている。
大軍を率いているため、幅が広く整備された軍道を進んでいても、結の町に着くまで5日という時間がかかる。それに今は、咲夜や竜次たちといった、大きな戦力を欠いており、彼らが来るのを待たなければならない。言わば、両方向のジレンマを抱えているわけで、如何ともし難い。しかし、塞がった状況の中、そのうちの一つが解消される良い知らせが、後方の伝令兵からもたらされた。
「申し上げます! 咲夜様と妖狐山に向かっていた皆様が、合流なさいました! 御館様と幸村様に面会したいとのことです!」
「そうか! よし! すぐ通せ!」
「はっ!」
塞がった状況が拓けるきっかけがやって来て、昌幸と幸村の親子鷹は、顔に覇気が戻り、緊張で強張りかけていた表情を、少し緩めることができた。
「父上! 山が動きました!」
「うむ、そうだな」
打つ手が見えてくれば、縁の国を守るこの親子鷹は、とても強靭である。




