第67話 仙狐の礼
「あんたたちのおかげで、男の供養がすっかり済んだよ。私がここにこだわって居る必要もなくなった。それでなんだけどね、あんたたちについていってもいいかい?」
「なんと!? それは、我らの仲間になってくれるということでござるか?」
守綱のみならず、竜次たち一行は、仙からの突然の提案にみんな仰天している。一行の旅についていくということは、九尾の狐が仲間になるということだろう。とてつもない霊力を持つ仙が加わるとしたら、縁の国の戦力が、一気に上ることになる。一騎当千どころではなかろう。それだけに、皆、仙の頼みが素直には信じられない。そんな一行の様子を見回して、妖艶な細腰の女は苦笑し、
「ふふっ、なんだい? 騙すようなことはしないよ。本当にあんたたちの仲間になるのさ。昔の男の義理立てで、妖狐山の里を守りながらここに住んでいたけど、あんたたちが区切りをつけてくれた。力になろうじゃないか? ついていっていいかい?」
「すまない。願ってもないことだったから、慌てちまった。俺は大歓迎だが、俺たちの主人は咲夜姫だ。どうでしょう咲夜姫? 九尾の狐が力を貸してくれるんですよ?」
「…………」
竜次に呼びかけられても、咲夜は彼女らしくなくしばらく判断に迷い、沈黙していた。国のことを考えるなら、正しく願ってもない申し出である。二つ返事で受けたいのは山々だ。しかしながらもどかしいことに、
(仙さんは美人すぎる……しかも、竜次さんを気に入っている。好きになっている)
同じ男を好いている女としての嫉妬が、咲夜の判断を迷わせ、鈍らせているようだ。地球における現代社会の話を少し入れることになるが、能力が申し分ないのに、容姿が良すぎて企業に採用されないという、妙な話が稀にある。言ってみれば、咲夜はその採用側の責任者に今なっているわけで、彼女自身、私情が混ざって判断ができづらくなるとは、全く思ってもみなかった。それだけに、嫉妬が優先しそうになる、自分の私心が歯がゆい。
「わかりました。仙さん、これからよろしくおねがいします。私たちと縁の国に力を貸して下さい」
「ありがとうね、咲夜ちゃん。私に色々思いがあっただろうけど、よく許してくれたよ。私があんたと国を守ってあげよう。ついでにそこのいい男も守ってやろうかね」
仙から妖艶な色目を向けられ、竜次は年甲斐もなくドキッとしてしまった。それを厳しい目で、咲夜は咎めつつ、
「竜次さんは私の大切な……配下です。勝手なことは控えて下さい」
彼を想う私情を極力抑え、やや強い口調で、仲間になった仙に筋を通した。