表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第2章 縁の国・平定編(前編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/321

第60話 仙

 取って食われるかというくらいに、庵へ入る前は考えていたのだが、とても意外なことに、九尾の狐は台所で茶菓の用意を手際よく行い、竜次たちの前へそれぞれ運び、振る舞った。古めかしく味がある湯呑に、適度な熱さのほうじ茶が香っており、茶の友に出された菓子はというと、薄塩味のせんべいであった。手で割って食べやすく、塩加減がちょうどよい。こんな手頃な嗜好品が、どうしてこんな山中の庵にあるのか、竜次、守綱、咲夜、あやめは、美味しく頂きながらも不思議に思わざるを得ず、小首をかしげて考えている。


「そのおせんべい気に入ったかい? ふふふっ、お茶にもおせんべいにも、妙なものは何も混ぜてないから、安心してお食べ」


 日本にもアカツキノタイラにも、狐に化かされるという考え方が共通してあるらしく、まさにそのことを竜次たちは一様に考えていた。不意をついた形で心を見透かすような言葉と共に、九尾の狐が塩せんべいの味わいを聞いてきたので、4人ともビクッと体に驚きが現れてしまい、冷や汗すらかいている。


「あんた……人の心が見えるのか?」

「ぷっ! あっはっはっ! 竜次って言うんだってね、あんた。面白い男だねえ。見えたら面白いんだけどね、見えやしないよ。私が目の前にいるんだからそう思うだろうと、カマをかけただけさ」


 九尾の狐の口から竜次の名が出てきたのは、晴明がしたためた紹介状に、彼の素性が詳しく書かれていたからだ。日本から来た竜次に、晴明は(いた)く興味を示していた。ならば妖狐にとってもそれは同様だろうと、話が通りやすいよう、敢えて竜次についての内容を厚くした書を、作ってくれたわけだ。実際、晴明の心遣いがよく利き、女狐は彼に対し好意的である。


「紹介状に竜次さんのことが、そんなに書かれてたんですか。だとすると、国鎮めの銀杯のことも書かれていませんでしたか? 私たちはそれを譲ってもらいたいと思い、あなたに会いに来たんです。銀杯はこの庵にあるのですか?」

「ああ、あるよ。こっちに来て見てみるかい? ちょっと辛気臭いところに供えてあるんだよ」


 切れ長の目をした美しく妖艶な顔が、竜次に近づきすぎているのが我慢できず、それを牽制する意味を込めて、咲夜は銀杯の在り処を、思い切って尋ねてみた。九尾の狐は、ああそのことかと少し間を外した調子だったが、あっさりと国鎮めの銀杯がここにあることを認める。そして、竜次たちを手招きし、別室に細い腰で歩いて行きながら、


「そういえば、まだ私の名を教えてなかったね。仙というよ」


 と、魅惑的な威圧感がある声で、サラッと名乗った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ