表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第1章 果てしなく広がるアカツキノタイラ
6/317

第6話 唯一のしがらみ

「上出来だ。納得した。行ってやるよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!! でも、当分こちらには帰って来られませんよ?」


 頼んだ手前ではあるが、咲夜はそれを心配している。だが竜次は、少し寂しそうな微笑みを浮かべただけだ。


「いいんだ。俺は、日本にしがらみを持ってない。もう無いんだ」

「あっ……そうだったのですか」


 彼の小さな声による寂しい言葉の真意を、咲夜が悟ったその時、ドウジギリで斬ったレッドオーガの体が、傍で徐々に透明になっていったかと思うと消失し、その跡には、小さく美しい輝きを持つ1つの宝珠が残された。


「竜次さん、これをお持ち下さい。この宝珠は鬼や怪異を斬った後、現れるもので、アカツキノタイラでは高い価値があります。こちらに来て下さった時、お店で売れば、かなりのお金になります」

「路用の金ってことだな。ありがとう。それとだ、日が落ちて遅くなってきたが、幾らしがらみがないと言っても、俺は会社に勤めていて、そこで世話になってきた。分かるよな?」


 銀髪姫は、あどけなく可愛らしいだけでなく、聡い美少女だ。竜次の問いかけに対し、首を縦に振ると、


「よくわかります。お勤め先にちゃんと断らないといけませんよね?」

「いい子だ。そういうことだ。アカツキノタイラへ行くのは間違いないが、数時間だけくれないか? このままバックレるわけにはいかないんでな」


 咲夜は社会人としてきっちりしている彼の言葉を聞き分け、この場で守綱と兵士たちと共に、しばらく待つことにした。




 長い間寝泊まりをし、色んな思い出があるであろう社宅の一室で、今、竜次は急いで荷物をまとめている。彼の直属の上司は、


「今日辞めるだと!? 急すぎるな!? 何があったんだ?」


 と、非常に慌てた様子で、勤務態度が真面目だった竜次を強く引き止めたが、何とかはぐらかしながら、退職の許可を得ることができた。はっきり言えば、これが一番大きな関門で、彼に残っていた唯一のしがらみであったわけだ。それを断ち切った竜次を縛るものは、もう日本に残されていない。


「異世界じゃ役に立たないだろうが、これだけは持っていくか」


 そうつぶやきながらパラパラとめくっているのは、なかなかの数字が並んだ貯金通帳だ。竜次はそれなりに金を使って遊びもしたが、家族親類縁者が既に無く、頼るものが身一つであった。だから堅実に貯金をしていたわけで、その数字の積み重ねは、彼が長い勤務で積み重ねた努力と同価なのだ。


 手荷物が入ったナップサックに、貯金通帳を静かに入れると、竜次は長年世話になった部屋をゆっくり見回し、咲夜が待つ祠へ戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お世話になった勤務先に迷惑がかからないよう、異世界へ旅立つ前にキチンと退職手続きを行うのは筋が通っていますね。 竜次さんの持つ責任感の高さが感じられて、好感が持てますね。
[良い点] 感想欄失礼致します。 異世界へ行く前に上司への挨拶や社宅の片付け、貯金通帳まで……律儀に身支度をした竜次さん、大人の魅力満点ですね! この先の冒険がとても楽しみです^^ [一言] 美少女の…
[良い点] 壮大なファンタジーなのに、貯金通帳を持っていくところとか、社宅を片付けてちゃんと上司に挨拶するところが、リアリティーあっていいなぁと思いました。 真面目な性格の竜次さんに好感が持てます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ